2021.02.17
女子大生二人の、町をランニングして銭湯に入る姿の美しさと友情を描いたヒューマンドラマ!『ふろラン』石田祐揮【おすすめ漫画】
『ふろラン』
女子大生二人の、町を走り銭湯に入る姿の美しさと友情
漫画で女性の身体の美しさが描かれるシーンは数多くあるが、その中から「走る」と「風呂に入る」をピックアップし、極限までそのみずみずしさを突き詰めているのがこの作品。
身体のラインと躍動感、そして女性たちの生命力がたっぷり盛り込まれた作品だ。
走るのが得意でいつもランニングをしている大学生のゆい。彼女は風呂好きで運動不足気味の古川を、なかば強引にランニングに誘う。
「私について来たら気持ちいいことが待ってるよ」
ひとっ走りしたあとに銭湯に入る二人。するとお湯の感覚が普段と全然違う。身体を動かした後のお湯はまるで肌が敏感になっているかのようで、入った瞬間思わず声が出てしまう。
走る仲間を見つけたゆい。気持ちよさをしった古川。女子二人の「走る→風呂に入る」のルーティーンがスタートした。
二人の身体の描き分けがとても巧みだ。ゆいは非常に走り慣れていて、マラソンでは男子にも引けを取らない。走るシーンのフォームは整っていて、疲れが見られない。お風呂で裸になった彼女の脚はきゅっとしまっており、しっかりと走るための筋肉がついている。長距離走のためのしなやかな筋肉の付き方をしているのがポイント。
一方古川は、よく食べてるシーンがあるものの決してスタイルが悪いわけではない。しかしゆいと並ぶとほんのすこし肉がついており、裸でお風呂で並ぶとちょっぴりムチムチしているのがわかる。走るためのフォームは殆どできておらずだいぶ不安定。ゆいが速いので合わせようとして焦ってしまったり、途中でバテてヘロヘロになったり、腕の振り方もわきが開いてバランスが悪かったりと、ゆいとの違いがはっきり描かれている。
1巻前半はそんな二人の身体の違いも楽しさのひとつとして、「走」と「入浴」がほんわか描かれている。しかし後半のマラソンの大会で、今までの二人のルーティーンに溝があったことが判明。ゆいは実際にフルパワーで走ると、古川と比較にならないくらい早い。古川と一緒に走りたいから彼女は普段ペースを落としていたのだ。古川はそれが悔しくて、今まではお風呂に入る前の遊びだったランニングから大きく一歩踏み出す決意をする。
「私速くなるよ もっともっと ゆいちゃんと並んで走れるように」
この決意を宣言したのは、熱海の温泉の展望風呂。二人の絆が育まれる場所には常に「走」と「入浴」のふたつが揃っているのが、読んでいて心地が良い。
緻密な背景描写の数々も必見だ。ゆいは走るのが好きなのと同じくらい、古川といるのが好きだと感じている子。二人の走る町並みも銭湯の光景も、細部まで書き込まれているのは、それだけゆいと古川がこの時間を大切にしていることの表現なんだろう。
風呂上がりに銭湯の中庭にせり出した場所で涼むゆいの姿は、女子大学生の生き生きとした命を描く美術のよう。こだわりのあるキメゴマが非常に多く、画集のようにも楽しめる作品だ。
©石田裕揮/KADOKAWA