2021.03.06
異世界に召喚された地球の若者が、かわいい魔王様と言語の違いに隔てられたまま交流を温めるファンタジーコメディ!『魔王様に召喚されたけど言葉が通じない。』うたしま【おすすめ漫画】
『魔王様に召喚されたけど言葉が通じない。』
本日紹介するWebマンガは、「COMICメテオ」で配信中のこちら。異世界に召喚された地球の若者が、かわいい魔王様と言語の違いに隔てられたまま交流を温めるファンタジーコメディ『魔王様に召喚されたけど言葉が通じない。』だ。
ラブコメの真骨頂とは? と問われた時に浮かぶ答えはいくつかありうるが、そのひとつは“もどかしさ”だろう。
自分の気持ちをうまく表現できない。表現してもじゅうぶんには通じない。相手の気持ちが分からない。言おうとしていることが伝わってこない。すれちがい、勘違い、行き違い……そのもどかしさが、先の展開への興味やキャラクターへの応援をかきたてる。だから、まず基本的なコミュニケーションの問題がラブコメの肝であり、極端をいえば恋愛感情はついでだったりもする。
そういう意味では、本作の“言葉が通じない異世界の住人とのラブコメ”というのは幾重にもワザありな趣向と言える。しゃべっている言葉が噛み合わず意図を取りづらいのはもちろん、おたがいの負っている文化・歴史・環境が世界レベルから異なるので、もどかしさを生むポイントがいくつもあるからだ。
生まれ育ちの違いだけなら現実ベースでも外国人キャラとのラブコメによって可能だが、本作の場合は剣と魔法のファンタジー世界に放り込まれた日本の一般人、という状況設定によって分からなさ・もどかしさの生まれどころがより多くなっている。
そんなわけで、主人公レンと彼の召喚主である魔王マリィとの間でキャッチボールできる意思疎通の手段はごく少ない。まず身振り手振り、そして唯一教え合うことができたお互いの名前。それくらいだ。話数が進むと間に入って翻訳のようなことをできる登場人物も出てくるが、それはそれでズレを生む種となっている。
そもそも、マリィが魔王だというのもレンの異世界フィクションに関する知識からの解釈なのだ。相手が何者か、という第一歩から不確かさが横たわっているのである。
それでも……ふたりは、それでもなお相手に好感を抱き、親しくなっていく。そこに本作の明朗な読みがいがある。
縛りの強い条件だからこそコミュニケーションの密度が高まる、という逆説。他に何をしゃべっても通じないなかでたった一言「レン」「マリィ」とお互いの名前を呼ぶだけの一瞬、そこには結果的に百の言葉を費やすよりも豊かな情緒が詰め込まれている。
前後の出来事の流れや細かな表情などからの推察をともなって、たった一言の向こう側に広がる相手の気持ちを想像して、それを信じられる図。尊いものだ。
つまるところ、自他について分かる・分からないというのはゼロか100かではない。鋭い言葉の刃で手数多く斬り合って、すべてを理解してもらえれば幸福/まったく理解されなくて不幸などという煮詰めたものばかりが人と人の関わりではない。どっちもどっちでよく分からない大部分をそのまま温存しながら、ふんわり柔らかい球をぽつんぽつんと投げ合うことで育まれるつながりというのもあるのだ。
不全なコミュニケーションを題材にしつつも、徹底的な理解のほうにも断絶するほうにも強迫されない、いい力の抜け具合が本作の美徳である。
©うたしま/フレックスコミックス