2021.06.20
華奢で小柄、清楚な雰囲気を持つ「姫」と、長身イケメン女子でキザな台詞も似合う「王子」の2人には表向きとは異なる顔があって!?『ツン姫さまとダメ王子ちゃん』ヨウハ【おすすめ漫画】
『ツン姫さまとダメ王子ちゃん』
本コーナーでメイド系おねショタマンガ『ぼっちゃまは今日もイジられる』をレビューしてからもう3年ほど経つ。
作者・ヨウハ氏は当時から現在にかけて他にも百合ジャンルでペンをふるっており、『絶対私のこと好きだろ』『花粉症からはじまる百合』さらに短編集『プチフール ヨウハセレクション』といった諸作品が電子書籍で購入できる状況だ。
そして本日紹介するのもまた、ヨウハ氏の愛らしく愉快なキャラ造形が活き活きとした百合コメディ。『ぼっちゃま〜』と同じ「GANMA!」で2019年10月から2020年9月までの約1年間連載された『ツン姫さまとダメ王子ちゃん』である。
本作の主役コンビはどちらも、学園の廊下を歩くだけでまわりの生徒が男女問わずキャーキャー黄色い声を上げるレベルの美少女たち。ただし方向性は対称的だ。
一人は“姫”の異名で呼ばれる姫風信子(ひめかぜ のぶこ)。背景に大量の花びらが舞っているかのような可憐さで、うかつにふれたらいけない気分にさせる高嶺の花タイプ。
もう一人は“王子”と呼ばれ、女子人気をかっさらう皇真王子(すめらぎ まみこ)。さわやかさが極まって高貴さあふれる言動で、見る者のハートを撃ち抜く超イケメンタイプである。
だがしかし。このふたり、どちらも表向きとは異なる顔をもっている。
誰にもわけへだてなく柔和な物腰で親しまれる信子だが、本当はたいへんな強気キャラ。思ったことをズバズバ歯に衣着せず言う毒舌家の本性を隠した猫かぶりなのだ。一方の真王子も、キリッとしたたたずまいは表面のみ。幼稚園時代に遊んでいた幼なじみの信子とふたたび仲良くなりたくてまとわりついてくる、人なつっこいわんこ的な性格を秘めていた。
信子からちょっと厳しい言葉を投げられただけで子供のようにわんわん泣きだすのを皮切りに、次々と残念でダメダメな様子を見せまくる真王子。姫を迎える王子は白馬でやってくるのが当然と信じ込み、レンタルした馬に乗って(!)家へ押しかけてくるなど奇行に走りがちな彼女に対し、信子は人前ではにこにこ笑顔を向けておいて2人きりになるとすかさず塩対応とツッコミをぶつけていく……という構図がコメディの基盤となっている。
そのうえで、そうしたふたりの裏表をさらにねじってあるのが本作の見どころだ。
真王子のダメっぷりは尋常でなく、ときにはケガでもしかねないほど危なっかしい。それを知っている信子はいざというときには放っておけず、とっさに助けてしまうのが常となる。強気で毒舌でも、いい子ではあるんだな〜と読者に好感をもたせるさじ加減が絶妙だ。
そもそも信子がお姫様キャラを演じるのも見栄ではなく、まわりの人々が期待する姿を見せてあげたいという理由が大きいようで……あれ? それって結局お姫さまらしい尊いありかたじゃないか? と一周まわって思えてくる。
一方、真王子のほうはどうだろう。学園内でのイメージと裏腹に非力でドジで、王子ならこうするものと決め込んだキザな言動は信子視点ではダダ滑りだ。しかし、彼女が信子に向ける好意はどこまでも誠実・純真で、それゆえに信子をドキっとさせる瞬間がある。姫と見そめた信子の前で王子らしくあろうとする彼女のまっすぐさは、これまた一周まわってちゃんと王子さま的カッコよさに行き着いて見える。
そうやって虚と実がぐるぐるまわっていきながら、ともかくこれはお姫さまな女の子と王子さまな女の子がイチャイチャする漫画なのだな、という一点だけが本作の真実として浮かび上がってくる次第なのである。
なお、上述したとおり連載は2019〜2020年だが今年になって単行本が上下巻で刊行を迎えた。2021年6月17日発売……ってごく最近ですね。ちょうどいいタイミングなので、未読のかたには単行本でさっと一気読み推奨である。
©ヨウハ/一迅社