2021.07.18
ふとしたキッカケで乙女ゲームの中に転生したけど、リアル世界にいた弟までも転生していてアイツはまさかの正ヒロインで!?『私が悪役令嬢で弟がヒロインな今 〜姉弟喧嘩延長戦〜』内村かなめ【おすすめ漫画】
『私が悪役令嬢で弟がヒロインな今 〜姉弟喧嘩延長戦〜』
かねてよりWeb小説の方面でフォーマットが練られていた悪役令嬢ジャンル。その広がりは今や媒体を問わず、原作小説はないオリジナルの漫画でも例を見られるようになってきた。
今回取り上げるのもそのひとつ。4コママンガサイト「まんがライフWIN」で配信中の『私が悪役令嬢で弟がヒロインな今』である。
階段からの転落事故により精神が異世界へとんだ主人公、田中早苗・21歳。彼女はふと気づくと見覚えある貴族令嬢の肉体にインストールされた自分に気づき、パニックに陥る。
なぜならその世界はかつて現実でプレイしたことのある乙女ゲームの中、しかも転生先は主人公に意地悪したあげく自業自得で破滅する悪役令嬢・デリラだったからだ。このままではバッドエンドに突入する。なんとかゲームとは異なる展開に進まなくては……!
と、出だしは鉄板の転生系悪役令嬢ものである。ところが、デリラ(早苗)がゲームと同じく学園で主人公キャラクター・ミリアに遭遇するところから様子が違ってくる。
「やっぱり姉ちゃんだ」(にやあ)
そう、実は主人公ミリアもまた転生者。それも早苗の実弟・田中ケンジだったのである。
ここで早苗は驚く以上に憤った。ずるい! なぜ自分が悪役で、弟がヒロインなのか!? 前世じゃあ姉の立場が絶対的に強く、弟をコキ使っていたというのに!
「ここでは俺が主役だ もう従わないぞ」と勝ち誇るミリアに、ムキ〜っとデリラの血圧急上昇。弟のくせに〜っ!! こうなったらゲーム世界でもあらためてこいつをシメ直さねば! と決意するお姉ちゃんなのだった……。
さて、この2人の関係の面白みをおわかりいただけただろうか。
まずデリラこと早苗は、破滅を回避するため主人公をいじめるライバル役から抜け出さなくてはいけない。一方で、どんな時でも弟の上に立ちたい姉としては、主人公の”中の人”である弟にビシバシつっかからずにはいられない……すると一周まわって、傍目にはふつーに悪役令嬢対メインヒロインの構図になってしまうわけだ。
早苗の強みは、生前ずっと姉として主導権をとってきた勢い。逆に弱みは油断すると悪役令嬢ルートに乗ってしまい、ゲームの攻略対象キャラとお近づきになるチャンスが弟に劣ること。
ケンジのほうはメインヒロインとしての恵まれた状況と、生前に件のゲームをやりこんでいたおかげで攻略情報をすみずみまで把握しているところに優位性がある。しかし中身が多感な中学生男子なので大勢の女の子とふれあうほど間近に接する環境は刺激が強すぎ、ドギマギしがちという弱点がある。
お互いにアドバンテージと泣き所を抱えてぶつかりあう、このバランス感が絶妙なのだ。
しかも、ぶつかりあうと言ってもけっしてギスギスした感じではないのが本作のいいところ。
強気な姉と生意気な弟がそれこそゲームプレイでもしてお互い勝負を譲らずわちゃわちゃ騒ぐのを見るような、トムとジェリーでいう“仲良くケンカしな”的な微笑ましさにあふれ、あくまでコミカルに楽しめる内容になっている。
悪役令嬢とメインヒロイン、姉と弟。このふたつの関係をねじって重ねた仕立てがなんとも技ありだ。
なお、販売は電子書籍で単話売りのほか単行本相当の形でも出ており、後者でタイトルについた副題が「姉弟喧嘩延長戦」。言いえて妙である。悪役令嬢ものであると同時に、姉弟ものなんですよねこれ。
©内村かなめ/宙出版