2021.11.15
亡くなった親友を介して出会った青年二人が、寂しさや孤独を抱えながら関係を深めていくシリアスBL。『みのりの森』まりぱか【おすすめ漫画】
『みのりの森』
亡き親友を介して出会った2人の恋のお話です。
オビのアオリに「大号泣!」と大書きされていますが、本当に泣くかは横においても、キーパーソンがのっけから亡くなっていることもあり、全体的に重たく暗めのストーリー展開です。疲れていたり、ちょっと弱っているときに読むとメンタルに追い打ちを食らう可能性がありますので、HP・MPとも8割以上の残存を確認してからページを開いたほうが良いでしょう。
カップリングは、「亡くなった親友の幼馴染×その親友と上京先で出会った青年」ということで、親友を挟んでの出会いです。場所は親友・慎太郎の葬式。
式の当日にやってきた、慎太郎の友人と名乗る見知らぬ青年・実は、しばらく慎太郎の田舎に滞在することになります。親友を亡くした昌典は、式が終わったその夜に、成り行きで実と身体を重ねます。
好き嫌いの感情が生まれる前に、親友を失った悲しみを共有できる相手と体の関係になってしまったのです。お互いいい年をした成人男性なので問題はないのですが、この関係性、本当に大丈夫なの? と少し不安にはなります。
素性がわからない青年に、田舎の大人たちは警戒心をのぞかせますが、実は次第に田舎の人間関係に溶け込んでいきます。昌典との関係も続きます。
慎太郎と実の本当の関係性や、実が抱いている昌典への気持ちなどが、丁寧に描写されていきます。
物語のカギとなる慎太郎自身のことは、あまり出てきません。作中のキャラを通してのみ読者に提示される慎太郎というキャラが、実際にどんな闇を抱えながら生きて、そして死んでしまったのかを推測するしかないという点では、作中の登場人物と読者の立ち位置はフラットといえるかもしれません。
実は慎太郎の話を通して昌典を好きになり、昌典は慎太郎の友人だったというところで実を受け入れています。
読んでいると、奇妙な三角関係ものと言えなくもない気分になってきます。
最終的には慎太郎を通じてではなく、本人同士の気持ちで関係を続けていくところに落ち着くのですが、全編に渡って漂っている「寂しさ」の雰囲気はラストでもそのままでした。それは余韻と呼ぶべきものなのかもしれません。
明るいキャラが多く、悪い人は出てこないのにずっと寂しいという印象が強い本作。
実と昌典が、それぞれの寂しさを共有する気持ちになってくれたのがせめてもの救いな気がします。
肌色シーンはそれなりにしっかりです。切実さとか孤独を埋めるというニュアンスが強くて萌えという気持ちがあまりわいてこないのですが、これはこれで読み応えがあると思います。とにかく、元気な時に摂取していただきたい作品です。
©まりぱか/幻冬舎コミックス