2021.12.09
怪人と戦う魔法少女も、理不尽と戦う社畜も、どちらもちゃんとかっこいい。新感覚魔法少女コメディ!『魔法少女事変』赤羽ぜろ【おすすめ漫画】
『魔法少女事変』
怪人と戦う魔法少女も、理不尽と戦う社畜も、どちらもちゃんとかっこいい
社畜のかっこよさとはなんだ。他にもいくらでも替えがいると言われ、理不尽な愚痴を聞かされ、無報酬の残業を押し付けられ、外では冤罪で警察官に取り調べを受け……辛い。そんな人生、望んでいない。
しかし上司の悪口や愚痴はさらりと受け流し、守りたい後輩や仲間のための残業をガシガシとこなしてフォローし、冤罪と言われようが困っている人を守るためなら一歩踏み出せる、ネクタイを振りほどいて信念を貫く社畜だったら、最高にかっこいいでしょう?
社畜のどうしようもないしんどさの中、夢見たヒーローへの憧れが結実していく爽快感がたまらない作品が『魔法少女事変』。タイトルのとおり、変身するのがかわいすぎる魔法少女というのが難点だが、これが意外とギャグテイストだけではなく、真剣にかっこいい。
絵に描いたようなブラック企業サラリーマンの佐倉ひろみは、同じことを繰り返す毎日の中、怒涛のストレスを耐えて暮らしている。彼は元々、誰かを救えるヒーローにあこがれていた。でも我慢に我慢を重ねる日々。彼の中に広がる諦念。
ある時、謎の怪人が子供を襲っているシーンに出くわしてしまう。あきらかに自分が敵う相手ではない。けれども彼は飛び出す。「俺だってまだ誰かのヒーローになれるんだ」
ネクタイをほどいた佐倉。その姿は美麗な魔法少女だった。なぜかは全然わからず混乱するも、自身の身体能力に気づき華麗に怪人を退治できることに気づく。
正義感で魔法少女となり戦うシーンは極めてパワフルで、ほぼ向かうところ敵なし。理解者である御曹司の幼馴染・早乙女ゆづるの協力もあって、人を救うシーンはどこをとっても爽快だ。その姿はかわいらしく、けれども戦う体の動かし方は男性的で力強い。どのコマを取っても戦闘シーンは魅力的だ。
1巻では、会社での理不尽シーンに割かれている分量がものすごく多い。特にギスギスした社内の空気や、上司の無茶な押し付けの様子は、見ていて生々しく非常にしんどい。ただそこでの佐倉の立ち回りもかっこいいところに注目しておきたい。
自身の仕事はバシバシとこなす。後輩に対してはできるだけ助けてあげようと尽力する。上司がぶつけてくるどうでもいい怒号はまともに受け止めずに、さらっと流して頭を下げて場を収める。それでいて、本当に言わねばいけないときは言う。ジャパニーズサラリーマンの苦労とかっこよさのバランスを、しっかり描いている。
だからこそ、彼が魔法少女になって戦うシーンがよりかっこよく見える。普段の社畜生活の中でも、彼はちゃんと隠れたヒーローだ。
なぜ魔法少女になったのか、怪人たちは何者なのかなど数多くの謎は一個も明かされていない一巻。ただ佐倉の凛とした正義感と、誰かを守るためなら引かない心、そして早乙女の財力に任せたハチャメチャなバックアップが痛快なので、社畜パートも変身パートも一気に読むことができる。今後どちらに比重が置かれるのかわからないが、表紙の通り「魔法少女」であることも「社畜」であることもちゃんとかっこいいのだ、と存分に味わってほしい。
©赤羽ぜろ/KADOKAWA