2018.07.28
【日替わりレビュー:土曜日】『娘の彼氏は人でなし』山口ツトム
『娘の彼氏は人でなし』
昨年12月から一迅社「ゼロサムオンライン」で連載されていたWebマンガ『娘の彼氏は人でなし』。今年6月の更新で完結を迎え、単行本が全1巻にて発売されている。
作者の山口ツトム先生といえば、頭部が北海道産イクラ手巻き寿司で出来ている課長が目にハートマークをつけた仮面の男に言い寄られる超異色サラリーマンBL『手巻き寿司課長と覆面男』を手がけた鬼才だ。となれば、この作品も一筋縄ではいかない。
単行本は全7話の表題作に短編2本とショートコミック連作(全4回)+描き下ろしという構成になっており、今回は表題作の内容をご紹介しよう。
とあるご家庭で、若い娘さんが恋人を紹介しに連れてきた。
六十路にさしかかったお父さんは心配性である。どこの馬の骨ともしれん男に大事な愛娘はやれん! 相手はいったいどんなやつだ!
と気色ばんで顔を合わせてみれば大ショック。
娘が一途に思いを寄せる相手、それはとんでもない人でなしだった……。
いや、悪くて非道い野郎だとかそういう意味じゃなくてね。
感情の読めない巨大な目。三対の巨大な牙。甲殻類のような昆虫のような不思議な質感のずんぐりしたボディが威圧感たっぷりのモンスターめいた異種族。
そう、カレシは生物学的に人でなし。地底人なのだった。
「わたしの名前はドドンです よろしくお願いします」
って、流暢に日本語しゃべっとるーーー!?
……という導入から、娘とドドンの純愛をなかなか認められなかったお父さんがふたりの仲を受け入れるまでの流れを描くのが本筋となっていく。
第1話時点ではまるで出オチのようだが、読み進めていくとこれがなんとも奥深い展開で読ませる読ませる。
そもそも、たとえ相手が人間だとしても、結局ひとは何らかの違いをもつ相手に「ふつう」ではない愛を育むことがある。
心。身体。性別。生まれた国。生活習慣。ことば。宗教。思想。教育方針。経済力。社会的ステータス。おおっぴらにできない家庭の事情……自分以外の誰かと関わるというのは、大なり小なり何らかの違いをすりあわせていく不断の努力に他ならない。
人間でない彼氏と結ばれる人間の娘も、地底世界へおもむいて相手がたの文化ととふれあい「ふつうではいられない」家庭になることを認める父親も。
ものすごく特殊なようでいて、同時に普遍的なのだ。
ちなみに単行本収録の他の作品も、ヒト型のカニと一時いっしょに暮らした少女の切ない初恋やら、生命を得てしゃべりだしたインドカレー(!!)と同居する女の半生といった具合に異種交流を悲喜こもごもで描くマンガづくし。
現実ベースの話か寓話的ファンタジーかという違いはあるが、本作は例えばかの傑作『弟の夫』あたりと同じ棚で近いところに並べていい一冊になっていると私は思います。
©山口ツトム/一迅社