2018.08.04
【日替わりレビュー:土曜日】『次回のデスゲームにご期待ください!!』Perico
『次回のデスゲームにご期待ください!!』
さて、本日ご紹介するのは、集英社「ジャンプ+」で基本隔週連載されているこちらの作品。
単行本第1巻が出たばかりのフレッシュな注目作『次回のデスゲームにご期待ください!!』である。
デスゲーム!
理不尽に強制されるルールにもとづいて生死をかけて戦うシチュエーションをさして言う、いまや一大ジャンルと化した様式である。
いや、「いまや」と言ってしまったが、古代ローマでコロッセオの剣闘士が戦うイメージまでさかのぼれるであろうデスゲーム概念の脈はけして近年の流行りという枠におさまらず、深く広い。
1940年代のSF短編小説「闘技場」(藤子・F・不二雄の異色短編「ひとりぼっちの宇宙戦争」のオマージュ元ではないかとよく指摘される)やスティーブン・キング御大の『死のロングウォーク』……シュワちゃん主演の映画『バトルランナー』……一大ブームとなりジャンル形成の節目となった『バトルロワイヤル』……一体いつまで続くのか『SAW』シリーズ……ギャンブルマンガの大御所・福本伸行先生の作品……ライトノベル界の顔のひとつにまでなった『ソードアート・オンライン』……アクの強さでは群を抜くゲーム『ダンガンロンパ』シリーズ……などなど。
定義しだいではあるが、国内・海外とわず枚挙にいとまがない。
こうしたデスゲーム物はゲームを用意するのが頭のおかしい個人だったり、何らかの目的がある集団だったりとさまざまだが、本作はひとつの組織を仕掛ける側としてその内幕をフォーカスした、舞台裏コメディとなっている。
全国各地で不条理なデスゲームを開催している秘密結社「ADG」の運営に加わっている不気味な衣装の女・ヨミ。
さらわれた人々を前に「今日はみなさんにあるゲームに挑戦していだきます」とお約束の口上をキメて理不尽ゲームを仕切る仕事を担っているのだが、あるとき彼女のもとで恐ろしいイレギュラーが発生する。
血で血を洗う大惨劇をもたらすはずだったゲームを開始早々に1人の男の子があっさり解いて台無しにしてしまったのだ。
大財閥の御曹司にして多数の企業経営まで手掛ける天才少年・八菱秀一、12歳。
どんなルールの穴も見逃さない高い知能、お金のやりくりが必要なルールならばすさまじい大金を注いで強行突破する財力、年齢にみあわぬ身体能力など、そのスペックすべてがまさにデスゲーム殺し!
保育士をクビになって後がなくなり秘密結社に就職したヨミは、デスゲームの邪魔を趣味にする厄介なセレブ少年を前に新人デスゲーム主催者としてちゃんと実績を積んでいけるのか!? ふたりの戦いはどこまでも続く!
……というのが主な内容となる。
SNSのフォローアカウント競争をはじめ、描かれるデスゲームがなんとなくどこかで見たようなチョイスになっているあたりメタジャンル作品としてツボをうまくおさえてあるし、毎回きちんとルール説明まで描写に抜かりないのも見どころ。
そうして舞台仕立てをはっきりしっかりすることで、ポンコツ主催者がチート少年に繰り返しやりこめられるさまが笑いにつながっていくのだ。デスゲームあるあるに対する強烈なツッコミ集という意味での面白さがある。
メインキャラふたりは立場的に相容れないライバルとして対決を繰り返すが、合間合間に一瞬、高飛車でクールな秀一が柔らかい表情を見せたり、前職の癖が残るヨミが子どもを見守るような優しい視点に立ったり、さらにその直後にいい雰囲気をひっくり返すオチをつけたりとメリハリが激しく、それゆえに飽きがこないところもいい。
ベタベタした関係性にせずにそれでいておねショタ的な楽しみかたをじゅうぶん示しているところが粋(いき)な作品である。
©Perico/集英社