2018.08.11
【日替わりレビュー:土曜日】『真夜中のオカルト公務員』たもつ葉子
『真夜中のオカルト公務員』
本日は、夏の暑い盛りにうってつけのホラー方面から『真夜中のオカルト公務員』をピックアップ。
KADOKAWAの「コミックNewtype」公開作で、もともとは「月刊Asuka」で長らく連載されていたのがWebへ移籍して第1話からあらためて月一回の配信をはじめたタイトルである。現時点で媒体がWebのみということから、いちおうWebマンガあつかいとさせていただく。
「夜間地域交流課」。
それは東京都24区の各区役所にひっそりと設けられている特殊なセクションだ。
夜中に表へ出る人が多い東京で、多様な分野・世代を交流させる地域活性化がおもな業務……という言い方は表向きの建前。
その実態は、妖怪、天使、妖精、魔物その他もろもろ含めた異種族・総称「アナザー」と人間の共生を推進し、人間社会を乱す超自然的事件が起これば事態収拾のため尽力する、オカルト調査チームだった。
主人公・宮古新(みやこ あらた)は採用試験に仕込まれたギミックを無意識に突破して、新宿区の夜間地域交流課へ配属され、常識をくつがえす驚愕の体験を重ねていく。
一方、先輩や上司たちも、新にアナザーの声を意味ある言語として聴きとれる能力“砂の耳”が備わっていることが判明したのをきっかけに、それまで気づかなかったアナザー世界の繊細な機微にふれて……というのが主な内容となる。
新宿御苑をさわがす天使と天狗のケンカの調停。
都庁ビルの展望室から異世界に通じるエレベーターの調査。
大陸から渡ってきた謎の存在を追いかけて戸山公園でキョンシーと対峙……。
西洋東洋を問わず、しかも神話から近現代の都市怪談まであらゆるオカルトが同居する情勢を、東京都新宿区という具体的な一地域にぎゅっと集中させ、しかもそれを社会人お仕事ドラマのフォーマットに乗せることで、奥深さと親しみやすさを両立させた世界観が読みごたえを生んでいる。
そして、“超自然的存在と言葉が通じる”という主人公の力を最初は有利なアドバンテージのように思わせてから、何を話しているかお互いに“知る”ことはできても思考様式がまったく違うため“分かり合う”ことができるとは限らず、考えなしに交渉をもちかければ致命的な危険を生むというリスクを突き付ける構成もうまい。
恐怖とは、理解の外にあるものと直面した時のショックである。異種族との根本的なディスコミュニケーションが生じる瞬間を細かくちりばめることでゾワっとさせるところに、本作のホラー性が伺える。
「コミックNewtype」では8月現在第5話まで配信されているが、「月刊Asuka」連載時代の単行本が「あすかコミックスDX」レーべルから第8巻まで刊行されているため、続きが気になる人はそちらで先々まで読み進めよう。あるいは最近ノベライズも出たので、既読者でも文章の形でたどりなおして新しい味わいを楽しめるだろう。
また、アニメ化が決まって2019年放送が予定されており、PV第一弾が公開されている。
こちらで新くんの福山潤ボイスをきいて、マンガを読むときに脳内再生して臨場感を高めましょう。
©たもつ葉子/KADOKAWA