2018.09.07
【インタビュー】『神様の思し召し』山本なぎさ “新人作家の初連載、初単行本刊行の裏側に迫る!”
天界の新米役人の「陣内」が、幸福の女神・「吉祥天」を中心とした神様たちのお世話をしながら天界をお騒がせするコメディマンガ『神様の思し召し』。
青年誌レーベル「ジヘン」と祥伝社が協業で、9/7に単行本が発売された。(※ジヘンとしては、新潮社と協業して発売している『マグネット島通信』に続き2作品目の単行本化。)
今回の1巻発売が初めての単行本となる、作者の山本なぎさ先生にインタビューを敢行し、初連載、初単行本刊行にあたり率直な気持ちを伺った。
幸福の神様と不幸の神様が姉妹というところに興味があった
──まず初めに、「ジヘン」は紙の雑誌でなく、おもにアプリをメインとした青年誌レーベルですが、山本さんの「ジヘン」との出会いについて教えていただけますか。
山本なぎさ先生(以下、山本):編集長と出会ったのは6~7年前なんですけど、その後私がマンガを描いていなかった時期があったりして連絡を取り合っていなかったんです。そうしたら、いきなり深夜に電話がかかってきて(笑)
──そこで描かないかと誘われたんですか?
山本:その時はまだ、「今、東京いるの?」って聞かれて、「いるなら一緒にやろうよ」という感じでした。後日きちんと外で打ち合わせをして、そのときに「ジヘン」の話を聞いて、「マンガ家さんを探しているから山本さんもどう?」という話をいただきました。そこがスタートですね。
──『神様の思し召し』はどのように誕生したのでしょうか?
山本:正直、”神様”というところにはあまり興味がなくて、幸福の神様と不幸の神様が姉妹でいるというところに興味があって、神様全体というよりはそのふたりを描きたかったんですよね。
──吉祥天と黒闇天にスポットを当てたかったんですね。
山本:今の『神様の思し召し』は実は最初の設定とだいぶ変わっていて、元々は黒闇天が主人公だったんですよ。
──それはかなり意外ですね。なぜその設定を変えたのでしょうか。
山本:最初の設定だと陣内とかもいなくて、ただ幸福の神様と不幸の神様の姉妹がいて、だけど吉祥天が逃げちゃって……みたいなものでした。毎回ターゲットになる人間が変わるという話の展開を考えていたんです。
そうしたら編集長から、人間のまっさらな主人公を立てて、いろんな神様を出して賑やかにした方がいいっていう案をいただいて、私もそっちの方が良いかなと思って、最終的には今の形になりました。
走りながら勉強していく感じだった
──今回、初めての連載作品ですが、”連載”という部分で苦労したことがあれば聞かせて下さい。
山本:私の場合は、あまり話のストックがないまま連載がはじまって、最初のほうはかなり走りながら勉強していく感じで、かなりバタバタ感がありました。ドタバタコメディは、作ってる方もドタバタしちゃうんですかね(笑)
──現場のドタバタ感が作中にも反映されたのか、『神様の思し召し』は本当に賑やかな作品になっています。
山本:3~4話構成で、新しい神様を出していって、どんどん賑やかにしていこうという考えがあったので、そう言っていただけると嬉しいです。
──その分、描き分け等で大変な部分もあったと思います。
山本:もちろん大変ではありますが、自分にとってよい勉強になっているな、と感じています。色々な神様を出し始めてから、自分の引き出しの少なさに気付くことができました。次はどういうキャラにしようかな、というキャラ作りについて考える機会にもなったので。
──担当編集の方にお聞きします。新連載は、ある程度ストックがある状態からはじまることが多いのでしょうか?
担当編集:一般的にはそうですね。連載のスタートとなる1話目はとても大事なので、何話か描いてみて、作家さんがキャラに慣れてきてからまた1話目を修正したりと、そういうふうに”バランスをとる”作業をする場合があります。そういう意味で個人的にはあった方がよいかな、とは思います。
──〆切を毎月設定されるような生活になったという点では、いかがでしょうか?
山本:そのときはまだ、別の仕事と並行してマンガを描くという生活だったので、余計忙しかったですね……よく描けたなあ、と(笑)
──いずれはマンガを専業に、という思いはあったんですか?
山本:そういう気持ちはありましたね。ある程度連載を重ねたタイミングで、マンガに専念したいとは思っていました。別の仕事の方は段々と仕事量を減らしてもらったり、フェードアウトしていくような形でした。今はもう、マンガを描くことだけを仕事にしています。
紙の単行本が出ると聞いて、親が喜ぶなあと
──紙の単行本の出ると聞いた時、率直にどう思いましたか?
山本:親が喜ぶなあと思いました(笑)
一同:(笑)
山本:単行本化の話は、編集長からの電話で知りました。実はそのとき、ちょうど帰省していて実家にいたんですよ。ただ、編集長に「まだ決定じゃないから言っちゃだめだよ」と言われていて。早く言いたいなあ、とその時は思っていました(笑)
──素敵なエピソードです!やはり山本さんにとって、紙の単行本が出るということは特別なことだったのでしょうか?
山本:そうですね、紙の単行本になるとは思っていなかったという以前に、その時はまだ電子書籍にもなっていなかったので、一段飛ばしたような感じでした。
──紙の単行本が段々と売れなくなっている中で、紙で出すというのは高いハードルを超えたということになると思います。
山本:正直、大丈夫かなと思うこともありました(笑)。ただ編集長からは、『ジヘン』以外のところでもやっていけるマンガ家に成長して、その上でまた『ジヘン』を選んで一緒に仕事をしてほしい……というような思いを伺っていたので、今回の話はその第一歩になると思いました。紙になることによって名刺のようなものになるというか。
担当編集:単行本は、作家さんにとって何よりも強い名刺になると思います。ジヘン編集部としては、ジヘンでの連載をきっかけに、作家が他の編集部からも声がかかって、色々な選択肢が取れるようになってほしいと考えています。
一時的にジヘンを離れることになっても、別の編集部との仕事を通して成長した作家が、もう一度選んでくれるようなレーベルにしたいですね。
──熱いお話ありがとうございます。素敵な考えだと思います。
担当編集:ジヘンで一緒に成長し続けていただけるのも、よいことだとは思っていますけどね……(笑)
〆切で倒れていなければ、当日は本屋に
──単行本の発売日は9/7です。いよいよ発売が近くなってきました。発売日には、実際に書店には行かれますか?(※インタビュー収録は8月末)
山本:やはり初めての単行本ということもあり、〆切前でなければ、当日に見にいきたいですね。
担当編集:ちなみに、ちょうど〆切です。
一同:(笑)
山本:フラグでしたね…。〆切で私が倒れていなければ、当日書店には行っていると思います(笑)
──頑張って〆切を早めにあげて、書店に行っていただければ……と。
担当編集:書店では、例えば山本先生に描いていただいた可愛らしいPOPだったり、1話試し読みの小冊子だったり、そういったものを各書店にお配りする予定です。この記事を読んだ方は、そういう販促グッズもぜひ見ていただければと思います。
山本:そうですね、今ちょうどPOPを描いているので……。
──アナログで描かれているんですね。
山本:線まではアナログで、トーンや集中線は、データを取り込んでからクリップスタジオで入れてます。
今はA4のスキャナーで取り込んでいるので、原稿を半分ずつ読み込ませているんですよね。単行本が売れたら、A3のスキャナーを買いたいですね……(笑)。
関わってくださる人の多さを知らなかった
──連載と並行するような形で、今回は単行本作業もあったかと思いますが、想像していたより作業量が多かったというようなことはありましたか?
山本:原稿の修正をしたいという部分に関しては、私のほうから多めに申し出たので、そこの作業量はある程度想定どおりでした。
──どのようなところを修正したのでしょうか。
山本:主に、キャラの表情と背景ですね。連載が初めてだったこともあって、安定していないコマがあったので、それを可愛く描き直したり。
あとは、6話まではすべて背景も自力で描いていたのですが、後から見ると至らないところもあって、それをまたアシスタントさんに依頼してよりよいものにしたりして。
──連載を重ねていく上で、前の自分が描いたものを見たときに、「もっとこうしたい」というものが出てきたわけですね。
山本:そうですね。読み返してみると、「ここどうしてこういうコマ割りにしたんだろう」みたいな部分も出てきたので、コマ割りごと変えたところもいくつかあります。ほかにも、「このコマいらないのでは」と思う箇所もあって、そういうところを、担当さんに相談しながら修正しました。
──単行本の他の作業についてお聞きします。1番読者の方の目につきやすいカバーイラストはどのように生まれたのでしょうか?
山本:カバーイラストのラフは、微調整含めると大体10枚くらい描いたと思いますね。その中で、編集部の方の意見やデザイナーさんの意見を反映していきました。
カバーイラストを作る工程でもそうですが、関わってくださる人の多さを知りませんでした。作業もそうですが、単行本を出すために必要な工程についても、勉強になりました。
──書店に並ぶまでに、関わる人たちというのは、やってみないと見えて来ない部分はあると思います。
山本:そうですね、カバー周りのデザイナーさんもそうですが、今回版元となっている祥伝社の方々や、宣伝担当の方など、多くの方に関わって頂いていることを実感しました。
担当編集:我々の手から離れた後、印刷所さんに送られたデータが印刷されて本になり、そこから取次さんに渡って、最終的には書店さんに配本される。これはやはり、単行本を出してみないとなかなか分からない部分だと思います。
──関わっている人が多いほど、作業遅れの影響は大きくなると思います。初単行本作業ということもあり、その部分は担当編集がかなり気を使った部分ではないでしょうか。
担当編集:最初に大まかな流れとスケジュールはざっと説明してはいるんですけど、言葉で聞くのと実際にやるのとではわけが違います。やってみるまでイメージがリンクしない部分もあるので。都度こちらから説明しながら、そこは柔軟に対応していただきました。
山本:一生懸命やりましたけど、担当さんがスケジュールを切ってくださったので、そこを守ればいいみたいな安心感がありました。
担当編集:予定どおりにいかないのは仕方ないですからね。
山本:そうなんです。出していただいたスケジュールが、一番理想的ということで言っていただいていたので、もしずれたらまた修正したスケジュールで……という形で。
──お話を聞く限り、かなり優良進行な単行本作業だった印象です。
担当編集:ただ実際、連載をしながら単行本作業をするということは、かなり大変です。
山本:なかなか難しい部分もあって、連載をお休みさせていただくこともありました。その分、単行本はよいものに仕上がったかなと思っています。
──今回のインタビューで読者はどこを修正したのか、アプリ版と見比べたりするかもしれません。
山本:アプリの方には今までの分が掲載されるんですよね?
担当編集:単行本化したときに、“定本”といって、そちらが本番になるんですけど、ある意味単行本を買っていただいた方へのプレゼントですね。「これをもって作者が、この話をこの絵で、このストーリーを確定させました」というのが、いわゆる単行本化です。
「ジヘン」の場合、アプリは、紙でいうところの”雑誌”。なので、繰り返し読むことはできるけれど、あくまでもそれは、そのときの状態のもの。そういう違いがあります。
──なるほど。勉強になります。
担当編集:電書や紙の本で買っていただいたから、本番を見ることができる。そこが、言ってしまえば、その作品のためだけにお金を払って読むことの違いというか。それを見てみたい、比べてみたい、まとめて読みたい……ということであれば、買っていただくという。
山本:今の話を聞いて、私が見比べたくなりました(笑)
担当編集:こだわってやっていらっしゃる他の作家さんの中には、”何箇所修正した”なんてことをSNS等にあげていたりするので、そういう部分もマンガの楽しみ方のひとつだと思います。
できるだけ多くの方に手にとってもらうために
──編集サイド側の話になるかと思いますが、単行本のカバー等の装丁はどこに重きを置いて作っているのでしょうか。
担当編集:う~ん、本当に色々あるとしか言えない気がします(笑)
一同:(笑)
担当編集:ただやはり、“できるだけ多くの方に手にとってもらう”というのが最大の目的なので、それに向けてどういう仕掛けを打つのかという部分から考えますね。
その仕掛けのやり方はたくさんあるんですが、今回山本さんと最初に話をしたのは、デザインというかイラストのレイアウトのことですね。ラブコメっぽくしてみようとか、上司の女神が陣内くんを叱っている絵にして内容が見えるようにしようとか、そういう話をしました。
──やはり手に取った時に、その作品を買いたくなるようなカバーを目指すわけですね。
担当編集:基本的にはそうですね。候補が固まってきたら、あとはデザイナーさんと一緒に作っていきます。タイトルロゴとか、いただいたイラストをどう配置するかとか、帯はどうするか。そんなことを色々考えながら作っています。
──最終的にはどういう仕上がりになったのでしょうか。
担当編集:9/7(金)に発売されますので、それはぜひ書店で手に取って確かめてみて下さい(笑)
あまり難しいことを考えずに楽しんで読んでほしい
──最後になりますが、読者へのメッセージをお願いします。
山本:少しでもより良いものになるように加筆修正したりもしているので、ぜひ手に取ってもらえたらと思っています! あとはコメディマンガなので、あまり難しいことを考えずに楽しんで読んでもらえたら嬉しいですね。
担当編集:今回は祥伝社さんにお声がけいただいて、紙の単行本として、非常に可愛い本に仕上がりましたので、ぜひ書店で手にとっていただきたいです。また「ジヘン」としても、これから色々なコラボを考えていますので、その辺りも注目していただけたらと思います。
──本日は本当にありがとうございました。
作品情報
後日談
インタビュー後、発売に向けて担当編集さんと宣伝担当さんが清土鬼子母神内の吉祥天像に大ヒット祈願しにいかれたとのことです。
©山本なぎさ/祥伝社・Nagisa