2018.11.14

【2018年10月】マンガ家が選ぶ 今月の注目!新連載マンガ

毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2018年9月24日~2018年10月21日の間に始まった新連載マンガから「マンガ技術研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『ギャンブラーズパレード』

『ダンガンロンパ』シリーズの小高和剛先生、『ねじまきカギュー』中山敦支先生によるギャンブルマンガの新連載です。

不運体質の少女と、ギャンブルを憎みながらもギャンブルでギャンブラーを撲滅せんとする教師が出会い、ギャンブルしていくお話ですが、本作の特徴はそのハッタリ描写です。教師は壁を爆破して登場するし、新キャラは頭から血を流しながら登場します。それも、大した意味もなく!

マンガは基本的にキャラクターの感情の流れを読者に追わせていくものですが、本作では視点キャラのヒロインの感情はそれなりに追えるものの、他のキャラの感情が追いにくい作りとなっています。これは普通に考えると悪手なのですが、本作はそこを強烈なハッタリと絵力、演出でカバーしており、最後まで読者を飽きさせず読ませることに成功していきます。

私もどちらかと言えばハッタリを重ねていくタイプの作風なので、「ハッタリ重視で」成り立たせている本作はとても参考になります!

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『エロの秘密結社 ドシコルド』

この連載でも何度かお伝えしてきた通り、昨今のマンガ界ではジェンダーやLGBTに関連するテーマの作品が目立っています。毎月、何作かはそういったテーマの新連載が始まっており、作家、読者双方の性に関する進歩的意識の表れを感じています。

が、その一方で! ある文化が栄えると必ずそのカウンター的な潮流も現れるものです! そして今月現れた本作、『エロの秘密結社ドシコルド』がまさにそれだと言えます。

本作は悪の秘密結社が、エロい体の女の子に向かって、「エロい」「シコい」と堂々と言い放つのです。「うるせえ、女をエロい目で見て何が悪い!」という強い気持ちを感じさせる作品なのです。

マンガ界にジェンダー的なテーマが幅を利かせていく中で、読者はそれらの「正しい主張」には首肯しながらも、それでいて理性の下で感情はまた別の働きをしているはずです。「ジェンダーとか考えていかなきゃいけないと思ってるよ」とイイ子ちゃんヅラした理性の下では、より根源的、動物的な情動がフツフツと煮えたぎっているはずで、本作はその「理性の下の感情」を刺激する作品と言えるでしょう。

こういったカウンターが発生するのは、全体を俯瞰的に見るならば、非常に正しく健康的であると感じます。女の子をエロい目で見るのは、だってそれも事実ですからね。

なお、作中での「コンプラ知ったことか」的な発言の数々は、発言主が「悪の秘密結社」であり、「悪なので声を大にして言える」「悪の組織だから一般人に嫌われるのは前提」という認識の下に行われているので作品的にも問題はなく、ギャグテイストも相まってテクニカルにクリアされています。

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『デイズ・オン・フェス』

これはすごい! 作品テーマがすごい! その名の通り、フェスを題材にした作品なのですが、フェスを題材に連載マンガを描こうとした時点で既にすごい。

バンドマンガだったら分かります。バンドマンを主人公にして、バンドがビッグになっていく過程を描くのなら描けそうです。バンドのファンのマンガも、まあまだギリギリ……。ファン活動を続ける中で、何かしらバンドに協力して……という形ならストーリーを転がせそう。

しかし、バンドマンではなく、何か特定の一つのバンドのファンでもなく、さまざまなバンドが競演する「フェス」という舞台をメインテーマに連載化したのはすごい! そんな依頼されたら私だったら頭抱えるね!

しかもちゃんと面白い。この作品で初めてフェスの仕組みとか雰囲気とか分かったし、読んでたらフェスに行きたくなりました! 芝生の上に寝っ転がって音楽聴くのいいなぁ……。本作は「フェスの楽しさ」がきちんと表現されていて、マンガの表現力の幅の広さを感じさせる作品でした。意外と色んな題材がマンガにできるもんなんだなあ……。

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『ゾン100 ~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』

来た! みんな大好きゾンビマンガ! そして、一風変わったゾンビマンガの登場だ!

本作の主人公はブラック企業に勤務する生ける屍の如き青年です。「朝になったら仕事に行かなきゃいけない」。そんな現実に押し潰されそうになっている彼に、ある日、福音が訪れます。そう、世界はゾンビ・アポカリプスで滅んでいたのです! おめでとう、これで仕事に行かなくて済むね!!

実際、主人公は大ハシャギ。これまで仕事でできなかったあんなこともこんなこともできる! 解放感に溢れた主人公は満面の笑みで自転車に乗って駆け出します。ゾンビがウヨウヨする世界で!

一般的に「悲劇的な事態」と認識されているゾンビ・アポカリプス。ですが本作は、それよりも遥かに酷いものとしてブラック企業での労働を描くことにより、ゾンビ禍を「相対的に素晴らしい環境」にしてしまいます。この逆転の作りが上手い。

世の中にゾンビが溢れたら辛く悲しい運命が待ち受けるものである。……ゾンビ作品を作る時に作り手がまず思い込んでしまう、そんな先入観を覆す画期的な作りです。

このテクニックを応用すれば、これまで「悲劇的な事態」だと思われていた、あれやこれやも違う角度から描けるんじゃないか、『デイズ・オン・フェス』と併せて、これまで考えもしなかった色んなマンガの可能性が広がるんじゃないか、と考えてしまいました。



以上、100作品以上の中からピックアップした4作を紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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