2019.04.20
ちっちゃく可愛い妖精さんと同居するほんわかコメディ!『うちのアパートの妖精さん』 あまからするめ【おすすめ漫画】
『うちのアパートの妖精さん』
一人の大学生が、無人になった建物の管理を条件に親戚から格安で借りたアパート。そこには、謎のちっちゃくてかわいい超自然な存在が2匹ほど棲みついていた。このアパート、人がいない代わりに妖精がおるやんけー!
我がもの顔で居座る妖精たちのあつかいに困る主人公だったが、自由気ままで楽しそうな彼女たちを見ていると、無理やり追い出す気にはなれない。ちょうど大学で専攻しているのが西洋民俗学だからレポートのネタにもなるし、と判断した主人公はそのまま一緒に暮らし始めるが、気が付けば新たな妖精さんが次々あらわれて、彼の周囲はみるみるファンタジー濃度を上げていくことに……。
というのが、オーバーラップのWebマンガ配信サイト「コミックガルド」連載作『うちのアパートの妖精さん』の大枠である。
例えば、江戸時代の長屋。あるいは近現代の学生寮。下宿屋、旅館、ホテルなどの借り宿。またアパートやマンションといった集合住宅……。それらは、さまざまな個性をもつ他人同士が集まって共同生活することで、自然とバラエティ豊かな出来事が生まれるため、フィクション作品の舞台として重宝される空間だ。そして本作の場合、キャラクター各人の多彩な個性がそのまま種族のバリエーションを意味する点が面白い。
奔放なピクシーと家事好きのコボルトを皮切りに、道案内が得意な鬼火ジャックランタン、雪の精ジャックフロストといった日本でもメジャーな妖精のほか、ウェールズ地方において“エルフ”にほぼ相当するキノコ食いの妖精エサソン、さらにスラヴ神話の水精ルサールカといった通好み(?)な種類や、四大精霊といった大物まで幅広くおさえている。
なかでも、メインをはるピクシーはマイペース・いたずら好き・勝手にひとのものを飲み食いする・口が悪い・態度がデカい……と言葉で書きたてると迷惑な挙動だらけの妖精さんだが、絶妙なバランスで描かれていてどうにも憎めない。それは、すべてが「そういう妖精だから」=人間とは違う行動原理や感性・常識をもっている、つまり「この子はありのままでこうだから」という裏のないシンプルさに収束しているからだろう。単に見た目がかわいいから許せるという以上のものがそこにはある。
生活する空間は共有する、それでいて性根のところでは各々の本分にのっとって動き、べったり同質化するわけではない。あなたとわたし、異質は異質。でもいっしょにいることはできるよね。そんな世界観だ。
ほのぼのわいわいとした笑いのなかで、つねに生態上の距離感をキープする清潔さが快い本作は、妖精をきちんと妖精として──人間に近いがそのものではない“隣人”として──描けている。
©あまからするめ/オーバーラップ