2019.05.13
【インタビュー】『長閑の庭』アキヤマ香「この二人は『ついばむ』ようなキスじゃないといけない。」【完結&ドラマ化記念】
「トンネルの先に光が差す」光景が好きだった
──そういうお話を聞いていると、先日迎えた本誌での最終回がより感慨深くなります。本当に、ここまで追い続けてきてよかったと心の底から思う、素晴らしい最終回だと思いました。
アキヤマ:そう言っていただけると、嬉しいです。とにかく最後は悩んだので……。
──どういう風に着地するか、というのは最初から考えてはいなかったのですか。
アキヤマ:いや、ある程度最初の方に固めてはいました。ただ、連載中に頂いた感想を読んでいると、自分が考えているクライマックスが喜ばしいものなのかどうかわからなくなる瞬間もあって。一年くらい、連載を続けながら同時に悩んでいましたね。
──読者の声としてはどういったものが多かったんですか。
アキヤマ:やっぱり、「榊教授を死なせないで」ですね。
──いくら歳の差恋愛といえど、相手が64歳となると、なかなか避けられない問題ですよね。実際、物語の途中からは教授の病気なども描かれていくのは、切ないけれど、この作品の大きな魅力でもあると思いました。
アキヤマ:単なるおじさま萌えの作品にはしたくなかったんですよね。おじさんがこんなことしてくれて、キャー! みたいな。もちろん、そういう作品もあっていいし、自分も好きなんだけど、そうじゃない作品があってもいいよな、って。自分自身が、「すべてが報われることってないよな」と思ってしまっているので、大団円が描けない、という部分もあります。
──報われないという点では、榊教授の助手である田中さんもかなりかわいそうな人ですよね。こういう当て馬役って、どこかで報われる瞬間があるのかなって思っていたんですけど、読んでも読んでもずっと報われない。
アキヤマ:田中は、不憫であれば不憫なほど輝く人ですね(笑)。万能なイケメンなのに、本当に好きな子には不器用になってしまう、そういうところが描いている側も愛おしいんですけどね(笑)。
──ただ、後味の良い作品ですね。これは意識されている部分ですか。
アキヤマ:素でやってしまっているところがあるので、うまくは言えないんですけど、ずっと「好きな光景」があるんです。
──好きな光景ですか。
アキヤマ:それは、トンネルの中から、先に光を感じるような場面です。真っ暗なトンネルでもなく、トンネルを抜けた光り輝く世界でもなく、先にうっすらと光が感じられる、そういう景色がずっと好きなんですね。こういうイメージを、自分自身が作品に求めているのかな、と思います。
辛いこともあるし、すべてが報われることはないけど、それでも先に光は感じる。心象風景のようなものが作品に影響している部分はあると思います。
ときめきは「距離感」で描く
──心象風景からストーリーが影響を受けるって、面白いです。だからこそ自分から自然と出るものなんですね。
アキヤマ:そうですね。あとは、後味のよさにつながるかはわかりませんが、榊教授を変にガツガツさせない、というのは気をつけていました。私は、歳の差があるからこそ、プラトニックな関係というか、触れるのすら怖い感じを描きたかったんですよ。付き合うことすらしない方がいいんじゃないか、と考えている時期もありました。
──たしかに、この作品の教授とシュバちゃんの関係性って、付き合ったあとですらかなりプラトニックというか。読んでいても、手を繋いでいる姿を見るだけでドキドキしてしまうようなうぶ感があるんですよね。
アキヤマ:やっぱり、教授には躊躇してほしい、という願いがあって。本当にこれでいいのか、と悩んで欲しい。慣れたように恋人つなぎをしたりはしてほしくない。お付き合いして手をつなぐようになるけど、それはやっぱり指先だけでつなぐようにしたり、かなり意識していましたね。
──中学生のような、というか、もしかしたら中学生よりもずっと初々しいやりとりをしていますね。
アキヤマ:そうなんですよ。キスシーンもあまり入れていなくて、したとしても唇をついばむ程度にしています。絶対に、ぶちゅっと密着するようなことはあってはいけない。榊教授がシュバちゃんにキスをするとしたら、大事にしたいという気持ちと、いいんだろうかという気持ちと、それでも愛しているから触れたい、という葛藤の中でするキスになるはずなので。
したかしてないか、くらいの緊張感をもって描いていましたね。これは、この作品に限らないのですが、「先っぽ」や「唇」は神経が集中していて敏感な部分だから、大切に描かなければいけない、というポリシーが自分の中にあるんです。敏感な部分だからこそ、雑に手を抜かず、慎重に丁寧に緊張感をもって描いていく。
──敏感な部分を大切に描く。
アキヤマ:読者に伝わらなくてもいいから、自分でこだわりたい部分ですね。あとは、「キワ」もかなり大事にしていて、これは美大受験のためのデッサンの授業で学んだことなんですけど、手の先などを大事に描くことで空間を生むことができるぞ、と。キワを大事に描くことで、キャラクターの距離感にもつながる。
──榊教授とシュバちゃんという関係性だからこそ、ついばむキスのような距離感につながるんですね。
アキヤマ:そうですね。逆に田中と樹里ちゃんは簡単に布団の中で密着したりする。
──ついばむようなキスに比べると、ぐっとドキドキ度は下がりますね。
アキヤマ:でも、田中とシュバちゃんがベンチに座るシーンは、シュバちゃんがちょっと遠慮して一人分空間を空けたりする。
キャラ同士の心の距離感や各々の性格は、身体的な距離感にも現れると思うんですよ。シュバちゃんと教授が急にべったりし始めたら、絶対に萎えるじゃないですか。繊細なところを見せていたはずなのに、って。
──確かに。その距離感が明確なのって、キャラクターが作り込まれているからこそ、とも思いますが。
アキヤマ:それもあると思います。あとは、自分が経験してきた距離感を当てはめている感じはありますね。学生と教授という間柄であれば、どれだけ親しくても、これ以上は近づけない距離というのがある。見えない壁のような。
──お話を聞いていて、アキヤマ先生の作品『僕のお父さん』を思い出しました。妻に先立たれたお父さんが、自分の元教え子や今の教え子からアタックされるシーンが多々あるのですが、お父さんは絶対に自分からは触りに行かないんですよね。生徒はシャツをつかんだり、わりと積極的に迫るんですけど。
アキヤマ:言われてみたら、そうですね。そういうのばっかり描いているな、私。それはやっぱり私の願いが距離感に現れているんだと思います。大人になった上での、立場としての「ダメだよ」という気持ちはもっていてほしい。分別ですね。もちろん、違う人がいてもいいんですけど、私はそれを大事にしている人を描きたい。
──それこそ、アキヤマ先生が作品で「おじさま」を描くときに込める”祈り”ですね。
アキヤマ:まさに、そうですね。
描くことでコンプレックスがある自分を救えるかもしれない
──先ほど美大受験というお話がありましたが、漫画家になると志したのはいつ頃からなんですか?
アキヤマ:とにかく漫画家になりたくて雑誌に投稿していたのは、小学五年生のときですね。楠桂先生が大好きで、私もりぼんに投稿していました。
でも、5回出しても一度も賞に引っかからなくて。講評で「その歳にしては絵は描けているけど、お話はもっと練った方がいい」と書かれていて、それで「ああ、私はお話がかけないんだな」と早々に諦めてしまいました。
──5回でスパッと諦めたんですね。
アキヤマ:ただ、漫画を読むことも絵を描くことも好きだったのは変わらなかったので、これからはもう趣味として楽しんでいければいいや、という感じでしたね。美大に入ったのも、高校の頃に所属していた美術部の部員で目指している人が多くて、私も学ぶなら美術がいいなと思って受験しました。漫画家になりたくて入ったわけではないんですよ。陶芸科でしたしね。
──なるほど。
アキヤマ:ただ、陶芸を続けていく気持ちに迷いが生じて、院には行かずに社会人になりました。デザイナーや、友人からもらうイラスト仕事など、ちょっとは自分の色を活かせる仕事を続けていく中で、だんだんと「漫画家を諦めたから」という冠が頭の上で大きくなっている感じがありました。「諦めたっていう理由だけでやってない?」みたいな心のうちの声が聞こえてくる。それって、その仕事をしている人たちにも失礼な話ですよね。諦めきってから進みたかった。
そこで、もう一回原点に返ろうと思って、26歳くらいの頃に、持ち込みをしたり投稿したりして、賞をいただくことができた。これはいけるぞ、と思っていたんですけど、結局そこから2年間、箸にも棒にも引っかからない地獄の期間を経て、担当編集も異動してしまいました。
──その後どうしたんですか。
アキヤマ:当時いくつも描いていたネームのうち、ひとつ、担当編集も私も気に入っていたものがあったので、それをブラッシュアップして他誌に持ち込みました。そこでやっとデビューできた感じですね。だからデビュー自体はすごく遅かったんですよ。
──社会人を一度経てからのデビューだったんですね。もともと漫画家になりたかった小学校時代はりぼんに投稿していたというお話でしたが、特に好んで読んでいたのは少女漫画などですか。
アキヤマ:というよりは、漫画全般好きでした。ただ、当時の「りぼん」で連載していた楠桂先生がすごく好きだったのと、なんとなく自分がしっくりくる雑誌ではあったんですよね。萩岩睦美先生の『銀曜日のおとぎばなし』とかもすごく好きでした。スコットという男の子のキャラクターが、すっごく格好いいんですよ。
あとは、小椋冬美先生や高橋由佳利先生も大好きでした。少女漫画なんだけど、キャラクター造詣や絵柄は大人っぽい作品が好きでしたね。小椋先生は、当時リキテックスという画材を使っていたらしいんですけど、柔らかくて透明感のある絵がとても綺麗だったんですよ。
中学生になってからは、吉田秋生先生に出会って夢中で読んでいました。一貫して、女性誌ではあるんだけど、男性も楽しめそうな作品が好きでしたね。
恋愛漫画でも、ゴールではなくて、その間のプロセスとかコンプレックスの葛藤とかに目がいってしまう。ただ、正統派の少女漫画を読むこと自体は好きだったので、りぼんを経て「別冊マーガレット」とかにいくし、そこでくらもちふさこ先生に出会って「うわあ、おしゃれな構成〜!」って興奮して読んでいました。
──とにかく漫画自体が好きだったんですね。
アキヤマ:そうですね。少年誌も青年誌も読んでいて、雑誌で娯楽として読んでいました。「ジャンプ」や「スピリッツ」、「モーニング」など。『月下の棋士』なども流行っていましたね。あれ、雑誌だと最初にある煽り文句がすごく面白かったんですよ。
好きなイケメンでいうと、『花のあすか組』を描いている高口里純先生の描く男性がすごく好きでしたね。あとは、多田由美先生も好きです。アメリカの男の子の孤独を描かせたら最高な方です。枠に収める構図もめちゃくちゃ格好良くて、一時期参考にしていました。
──そういった漫画の蓄積が、ご自身の作品に影響を及ぼしたと思う部分はありますか。
アキヤマ:単純な話でいうと、やっぱり、目が大きく描けないとか。内容でいえば、やっぱり現代で生きていく上で通じる思いや哲学がある作品に惹かれることが多いし、私自身が描く作品もそういったものに寄っている気はします。キャピキャピした感じの子を主人公にすえられない何かが自分の中にありますね。
結局自分から出ているものしか描けないのかな。自分ではない誰かを描いても、どこかしらに自分が入ってくると思うんです。そうなると、100%元気な人を描くのはすごく苦労する。
──「物語が描けない」というコンプレックスは、デビューしたことで解消されましたか?
アキヤマ:いや、全くです! むしろ、絵までコンプレックスになってきていて、あの頃の自信はどこにいっちゃったんだろう……という感じです。一念発起して漫画家に再挑戦していた当時、これは歳がいった人が投稿するときの講評のあるあるなんですけど「そこそこ書けているがそれ以上ではない」みたいなことが書かれていたんです。それが今でもすごく、自分の心の中に残っていて。
ただ、それでもなんとなく、自分の良さはあるのだろう、という漠然とした思いはあるんです。それこそ読者の方々の感想などを見ながら、「もしかしたら、自分は人間の感情をちゃんと描けているのかもしれないな」とか。そういう自分の良さを生かしつつ、担当編集のお知恵を借りていいものが描ければそれでいいのかな、と割り切っています。
これは『長閑の庭』のシュバちゃんにも通じる部分ではありますが、コンプレックスがあるのは仕方ないし、それ自体がもう個性なのかな、と。とにかくこれからもずっと悩みながら続けるんだろうな、視界がパッと開けることはないんだろうな、と思って描いてます。
──まさに、先ほど見せていた、トンネルの先に光が差すような状況の中で描いているんですね。
アキヤマ:そうですね。それに、そうじゃない人って本当にいるのかな? とも思っているんです。誰しも多かれ少なかれコンプレックスとは向き合っているだろうし、そういう人たちから「自分も同じ気持ちだったんです」と言われたりする。
私が漫画を描くことで、お互いに救い合える関係になれるかもしれない。それはあくまで、傷の舐め合いではなく、お互いに前向きになれるようなコンプレックスとの向き合い方です。だから、作品の中でも教授に「こういうことを言ってほしいんだよ」という台詞を言わせたりして、自分自身も救ってもらったりしているんですよね。そういう意味でも、『長閑の庭』は私にとってとても意義深い作品になったと思います。
──今日はありがとうございました。
アキヤマ:こちらこそありがとうございました。最終巻では田中の描き下ろし漫画も収録されているので、ぜひこちらも楽しんでください!
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