2019.05.24
【特別対談】『青野くんに触りたいから死にたい』椎名うみ × 『ハピネス』押見修造 インタビュー!【後編】
漫画を描くのは、セラピー? 供養?
──椎名さんは「読者と同一化することはできない」とおっしゃっていましたが、同一化はせず、でも「感情が重なる」ようにしていらっしゃるということですよね。
椎名:そうですね。私は登場人物に演出をつけることで、それをやっているんだと思います。押見さんは役者タイプですよね。
押見:確かに……描いていて自分で演技している感じがしますね。椎名さんはご自分が演技しているのではなくて、彼らを演出している感じなんですね。
椎名:ものすごい至近距離で彼らを見ている感じですね。
押見:なるほど、なるほど。確かにそんな感じがしますね。
椎名:本当にメンタルが強くないと、自分が演技し続けるような漫画は描けないと思います。へとへとになっちゃう。
押見:そうでもないですよ?
椎名:自分が全然苦じゃなくできることが才能なのかなと思うんですよ。だから押見さんにはその才能があるんだなと。
押見:漫画家になれてよかったです(笑)。
椎名:こんな感情を、こんなふうにスローテンポで延々と描いていたら、私は気が狂います。
押見:僕はもう狂ってるのかもしれない(笑)。ずっと、自分の感情が自分のものではない感じで生きてきているので……話すと長いのではしょりますけど、思春期における自立に失敗しているというか、「これが僕の人格である」というものの獲得に失敗したまま来てしまった。本当は苦しいのに、苦しんでいる状態を自覚できていないのかもしれないです。漫画を描くことがセラピーのようになっている。
椎名:私が漫画を描くのは、供養みたいな気持ちかもしれません。
押見:何の供養ですか?
椎名:「私」のです。漫画を描き終わったら死んでも大丈夫だと思っています。
押見:生前供養。
椎名:そうです。描けば描くほどラクになるかもしれないです。
押見:セラピーより供養のほうが、徳が高い感じがする……。
椎名:言葉の違いだけだと思いますが(笑)。
押見:でもやっぱり視点の置き方が違いますね。僕は自分の側に引き寄せてセラピーという言葉を使いましたけど、供養っていう言葉は、やっぱりちょっと引いた視点からの言葉ですよね。似ているとは思うんですけど。
椎名:すごく似ているけど、種族が違う感じ。すごくおもしろいです。
押見:供養っていうのは、『青野くん』のテーマそのものとも重なっているじゃないですか。この漫画では供養されることがゴールですか? いろんな意味での供養。
椎名:そうですね。みんなの呪いを解いてあげたいなと思っています。
押見:解いてほしいです。みんな呪われてますもんね。
椎名:スタート地点が、「いばらの森の眠り姫」なので。その呪いを解くのがゴールになると思います。今、2つ目の山を登りきろうとしているところで、そこから最後に向けてガーッと行こうと思っています。
押見:楽しみです。
──そのくらいまで来ると、次の作品のことはもう頭にあったりするものですか?
椎名:あります! 描きたいものがいくつかあって、全部、描き終わったら私の供養は終了します。このままじゃ死んでも死にきれないなと思って、漫画を描き始めたので。もちろんエンターテイメントを描いて楽しんでもらいたいんですけど、目的の1つとして、自分の供養でもある、という感じです。
押見:僕は、その供養の部分に興味があるし、読みたいです。椎名さんのはらわたの、さらにエグいところがどんどん出てくるのが見たいですね。
椎名:押見さんは恐れず自身の深いところに行って、それを読者に伝えるための努力をずっとされてきているというのが読んでいて伝わるので、これからも押見さんの道をどんどん行かれるのを、ずっと楽しみに拝見していきます。
押見:ありがとうございます。元気が出ました!
椎名:こちらこそです!
押見:あの……完全に出すタイミングを逸してしまったんですが(カバンから何かを取り出す)……思わず描いてしまって。
椎名:うわーーーっ!!! すごーーーーい!!!
押見:いちファンの、ファンアートです……。
椎名:泣きそうです……死ぬときに一緒に燃やしてほしい……うれしい……ありがとうございます! 宝物にします!
押見:喜んでもらえてよかったです。自分の絵柄で申し訳ないですが。
椎名:顔がすごいかわいい……! これを見ながら死んでいきますね!
押見:もうちょっとがんばって生きてください(笑)。
椎名:(笑)。サインしていただいてもいいでしょうか……。
押見:はい! 僕もサインください!
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— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) 2019年5月23日
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