2019.05.24

【特別対談】『青野くんに触りたいから死にたい』椎名うみ × 『ハピネス』押見修造 インタビュー!【後編】

登場人物に一回でも違う行動をとらせたらそこから全部崩れてしまう

押見:椎名さんは、作画はアナログですか?

椎名:最初がフルデジタルで、今は線画がアナログで枠線とトーンはデジタルです。でもまたフルデジタルに戻そうと思っているんですが。押見さんはどこからどこまでがデジタルなんですか?

押見:『惡の華』の1巻から6巻まではデジタルで、7巻の途中からは、トーン以外はアナログに戻しました。衝動的に戻したくなってしまって。椎名さんは、最初にフルデジからアナログにした時、描きにくくなかったですか?

椎名:描きにくかったです。「死……」って感じでした(笑)。

押見:なぜアナログにしたんですか?

椎名:やってみたかったんです(笑)。漫画を描き始めた時はめちゃめちゃ貧乏で、画材を買えなかったこともあって。

押見:今日、ペンの持ち方を聞いてみたいと思っていたんですけど……どうやって持っていますか?

椎名:ヘンだと思います(人差し指と中指が前に来て、その上に親指がかぶさる形でペンを持つ)。

押見:あーなるほど。

椎名:押見さんはどうやって持っていますか?

押見:まだ研究中というか……前は小指が食い込むような持ち方だったんですけど、矯正しました。最近は、ペンのお尻のほうを持つようになって。持ち方で絵柄が変わるなと思ったんですよ。

椎名:どうやって描くんですか、これで!

押見:これで描くと、手に邪魔されずにペン先がよく見える。それがメリットですかね。

椎名:すごい……。

押見浦沢直樹先生の『漫勉』を観ていたら、みんなペンの持ち方が違うなあと。真似して描いてみたら、その人のペンタッチになるんですよね。ペンの持ち方で決まるのか! と思いました。

椎名:私、めちゃめちゃ筆圧が強いんですよ。

押見:力の入る持ち方ですよね。ネームは、どう描いていますか?

椎名:本ネームの前に、紙を小さく折ったものに小さめに描きます。ぐしゃぐしゃ、と順番に描いていく感じですね。

押見:描きたい場面から描くとかではなく、順番に書くんですね。

椎名:そうですね。まずはセリフをわーっと書いちゃいます。

押見:セリフが先なんですね。

椎名セリフとセリフのテンポですかね。このテンポにするためには3コマ目までにこのセリフが入らないといけないとか。じゃあ、ここは携帯を持っていることがわかる絵にしないといけないな、と絵をいれていく感じですね。

押見:なるほど。プロットは書かないんですか?

椎名:書かないです。押見さんは?

押見:書きます。脚本みたいにこう「河原に静一が座っている」とか(『血の轍』単行本を見ながら、プロットを書く)。

僕はプロットがないとできないですね。なんとなく頭の中で1ページでどれくらい入るかなとか考えながら書いていきます。そのあとで、すごく小さくコマ割りをします。こういう感じで。

これくらい小さいと、前後を組み替えたりしやすいので。それをもとに本番のネームにします。

椎名:この紙がほしい……。

担当:編集者とあらすじの打ち合わせはしますか?

押見:します。一通り、あらすじの話をしつつ、さっき言ったような自分の話も聞いてもらう感じです。あらすじが決まっても、登場人物にはなるべく自分の感情とか本当に思っていたことに近い行動をとらせたいんですよね。登場人物が本質的に間違っていないかどうかということを確認するために、身の上話をする、という感じでしょうか。一回でも違う行動をとらせてしまうと、そこから全部崩れてしまうので……間違わないように、一歩一歩進んでいかないとだめなんです。担当さんと話して直しが2、3か所出てきたら、最初から全部直します。

椎名:押見さんの漫画は、全部つながっていますもんね、監視カメラみたいに。感情と空気を描いているからだと思います。

押見:『青野くん』も感情の流れに沿って描かれているから、パズルみたいには描けなさそうだなと思います。

椎名:私も、一歩一歩方式です。全然決めたことを描けないので。

押見:感情の流れは、描いてみないとわからないですからね。それを優先すべきだと思うんですよ。その結果、出来事が変わってくるべきだと。

椎名:そう思います!

担当:椎名さんは事前打ち合わせがほぼないんですよ。打ち合わせをすると描きにくいと。

押見:たぶん本質的には似たタイプだと思います。打ち合わせなしで描いた方が、純度が高くなる。僕も肝心なところは勝手に描いちゃいます。ネームを描いてから打ち合わせしたいですよね。口頭では頭の中のことをあんまり伝えられないので……間違って伝わってしまって、それをもとに進むのはいやだなと。

椎名:感情って言葉では伝えられないですよね。だから物語があるんだと思うんですけど。物語で追体験することによって自分の感情が重なり、読者が理解できる、ということなのかと思います。

押見:同意します。

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門倉 紫麻

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