2018.02.16

性別が変わると興奮する!? 知られざるTSマンガの世界 〜『幼なじみは女の子になぁれ』森下真央インタビュー

───いやー、しかし、すごいですね。一口でTSと言っても、こんなに細分化されてるんですね。ジャンルがさらにそこから6つも分かれてるなんて。

森下
:いや……。

───えっ?

森下:いや、実は「可逆/不可逆」「随意/不随意」という概念があるので、ここからさらに24種類に細分化できるんですよ。

───は?

可逆/不可逆と随意/不随意

森下:可逆/不可逆と随意/不随意が、さっき挙げた六系統に付くわけです。なので、例えば“変身可逆不随意”みたいな言い方ができるわけです。

───なんか、アブラカラメニンニクみたいな……。

森下:まあ、そうですね。可逆・不可逆というのは、性別変化後に元の性別に戻れるかどうか、を示しています。

可逆:元の性別にちょくちょく戻れる
不可逆:ずっと元に戻れない

森下:ただし、元に戻る方法を探し続けて、最後の最後に元に戻る作品は“不可逆”に入れてしまっても良いんじゃないかと思います。本編中では基本は不可逆なので。

───はあ。

森下:面白いのは可逆から不可逆に変化するケースがあることです。基本は戻れるんだけど、急に戻れなくなる。らんまもたまに戻れなくなる話がありました。いつでも戻れると思っていたのに、急に戻れなくなってあたふたする様は非常に興奮しますね。

───なるほど、深いですね。可逆と不可逆だと一般的にどちらが好まれるんでしょうか?

森下:僕がこれまで見てきた感じでは不可逆の方がファンは多い印象ですね。男に戻れないというのは女の子になってしまった狼狽や苦悩、それにどう対処していくかなどの展開を描きやすいので、TS的においしいと言えます。でも、可逆も、もう少しライトなノリにしたり、物語を動かすギミックとしてTS設定を使ったりできるので、こちらもこちらでファンはたくさんいます。「不可逆状態に慣れすぎたTSキャラは普通の女の子にどんどん近づいてしまうので、ときどき男に戻れるくらいの方がむしろいつまでもTS的においしい」みたいな意見もありますしね。

───なるほど、業が深い。

森下:ただ、六系統と可逆/不可逆には相性の悪い組み合わせもあって、例えば、入れ替わりは不可逆なことが多いです。元に戻れないからこそお互いの生活を守るために相手のフリをして……という展開が面白いですからね。『君の名は。』は可逆の入れ替わりなので、実はTS的には結構レアなんじゃないかなって思いました。あとは転生系も基本は不可逆ですね。

───転生が可逆ってちょっと意味分かんないですもんね。

森下:で、随意/不随意ですけど、これは自分の意志で変われるかどうかです。

随意:自分の意志で性別を変われる
不随意:自分の意志と関係なく変わる

───でも、今まで挙げてもらった作品を見ると、圧倒的に不随意の方が多いんじゃないですか? あんまり自由に元の性別に戻れたら、焦りや困惑が描けなくなってドラマ性が作りにくそう。

森下:いや、随意キャラもちゃんといますよ。でも、随意キャラの場合は“自在に変身できる能力者”って感じが多いですかね。

───ああ、なるほど。

森下:ただ、随意で可逆だと、仰る通り、TS萌えがメインの作品として作劇するのは難しそうですよね。僕もずっと随意可逆のTSモノって成立するのかな?って思ってたんですけど、『まじとら!』という興味深いケースがありまして。

『まじとら!』香椎ゆたか/eBookJapan Plus

森下:魔法少女部に入部した主人公の男の子が、自在に魔法少女に変身できるアプリをもらって、全力で女の子ライフを楽しんじゃうマンガです。自分の意志で変身も変身解除もできるので随意可逆ですね。これだとTSに翻弄される主人公、という構図が描きづらいのでどうするのかと思ったんですが、この主人公が女の子ライフを全力で楽しむ主義のキャラクターなので、難しい随意可逆を成立させています。これはちょっとびっくりしましたね~。

まとめ

───森下先生、ありがとうございます。とっても勉強になりました。これで僕もTSマスターですね?

森下:いや~、いろいろ言ってきましたけど、でも実はそんなに明確に分類できる作品ばかりではないんですよ。

───え、そうなんですか。

森下:例えば僕の新作が電子書籍ストア「BookLive!」の「NINO」というところで3月から配信が始まるんですけど。『ただし俺はヒロインとして』という作品でして。

『ただし俺はヒロインとして』森下真央/NINO

作品情報を見る

森下:ギャルゲー大好きな三十路童貞男が「ギャルゲーの主人公にしてください!」と神社で祈ったところ、神様の手違いで主人公ではなくヒロインにされてしまい、ヒロイン視点でギャルゲー世界を体験しなければならなくなるというお話です。……これなんかは何に分類されるのか自分でもよく分かんないんですよね。不可逆・不随意ではあるんですけど、他者変身のような、憑依のような……。

───実在してないヒロインになるのって、憑依って言うんですかね……。

森下:難しいところですよね……。

───ともあれ、今回はありがとうございました。新作も楽しみにしてます!



いかがだったであろうか。厳密な区別は難しいという話もあったが、TSの六系統、そして、可逆/不可逆、随意/不随意の概念を知ることで、読者の皆さんはTSの概略を俯瞰的に知ることができたのではなかろうか。それになんか、可逆/不可逆、随意/不随意とか言ってると何となくカッコよくないだろうか。

皆さんも、これからは『らんま1/2』を見るたびに、

「性別変化可逆不随意!」

などと突然に言って、周りの友人達を驚かせてみてはいかがだろうか。(注:らんまは自分で女になったりもするので、随意な面もあります)

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この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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