2019.06.27
【インタビュー】『まちカドまぞく』伊藤いづも「子どものころの自分を満足させられるマンガ家になりたい」
子どものころの自分を満足させられるように
──『まちカドまぞく』は4コママンガの中でも特に絵が細かくて、そのぶん作画コストも高いと思うのですが、そのあたりの大変さは感じていますか?
伊藤:描くのは確かに大変で、締め切り前はよく担当さんに弱音を吐いてます。だけど、コマに白いところが残っていると埋めたくなるんです。
きっかけのひとつになったのが、子どものころ読んだ新井理恵先生の『×-ペケ-』というマンガでして。4コマなのに少女マンガみたいな絵柄で、ずっと誰かが何かを喋っているからコマがセリフでビッシリなんです。4コマでもこんなに描き込んでいいんだと衝撃を受けました。
──昔から4コマはよく読まれていたのでしょうか。
伊藤:はい。むしろ、4コマばかり読んでいました。小学校時代は家が結構厳しめで、中学受験のために週に数日塾に通っていて、マンガやゲームの摂取もある程度制限されていました……。この話、長くなるけどいいですか?
──ぜひ。伊藤先生の4コマのルーツ、お聞きしたいです!
伊藤:そのとき行っていた塾もかなり厳しいところで、先生が怖くて、授業中に何度もトイレに行くくらいプレッシャーだったのですが、唯一の楽しみが、塾の近くの複合文化施設にたくさん置いてあった新聞4コマの単行本と、新聞の縮刷版に載っているマンガを読むことだったんです。
学校が終わって塾が始まるまでの隙間時間と、夜の8時半に塾が終わったあと、親には自習すると嘘をついて、10時くらいまでずっとそこで4コマを読んでいました。
──新聞4コマというと、『コボちゃん』とかですか。
伊藤:植田まさし先生やいしいひさいち先生、長谷川町子先生あたりの作品ですね。
私が生まれる前の時代の新聞4コマなので掲載されていた当時の時事ネタも多くて、小学生の私はあまり意味を分かってなかったはずですけど、マンガを読んでいるときだけは別な世界に飛んでいけるというか、現世のプレッシャーから解放されてほっとするんです。マンガの世界だけが逃げ場というか、居場所でした。
あと、当時はまだみなさん電車の中で雑誌を読んでいたので、おじさんが網棚の上に置いていったり、そのへんに捨ててあったりするファミリー4コマ誌を拾っては読んで……。とにかくマンガの存在に飢えていました。
──子どものころから4コマを読んでいたことで、自分でも4コマを描きたいと思うようになっていったのでしょうか。
伊藤:そうですね。もちろん、普通のマンガも描きますし読みますけど、私のマンガ人生の軸になっているのは4コマだと思っていて。たぶん、読んでいるときだけは家や塾のことを忘れて安心できた、子どものころを思い出せるからかもしれません。
だけど最近は、すごく面白かった作品が2巻や3巻で終わってしまうことが多くて、もったいないなあ……と。一昔前、マンガの単行本がもっと売れる時代なら続けられた作品が短命で終わってしまうんですね。
私としては4コマは読めれば読めるほど嬉しいですし、才能のある新人さんや、ニッチだけどとても面白い作品を描ける作家がある程度生活できる状況でないとマンガの世界全体が先細りになってしまいますので、今の状況がよくなってくれるように私にできることはないかなと考えています。
──お話を聞いていて納得がいきました。キャラクターのかわいさや伏線の多さはもちろん、『まちカドまぞく』は何よりもまず「4コママンガ」として面白いと思っていたんです。全体のストーリーも進めつつ、4コマごとにちゃんとオチがついているのがすごいなと。
伊藤:そこが4コマのいいところですからね。さきほどマンガを与えられるのが制限されていたと言いましたが、旅行で新幹線や飛行機に乗るときだけは例外で、本屋さんで好きなマンガを買っていいということになっていたんです。私は大体、『ドラゴンクエスト 4コママンガ劇場』シリーズを選んでいました。
なぜドラクエ4コマを選んでいたかというと、両親が多忙なとき、祖母の家に預けられることがよくあって、そのときはおじさん(母の弟)が昔使っていたゲーム機でずっと遊んでいたんです。なのでドラゴンクエストが大好きだったんですよね。
ゲームアンソロジー4コマはひとつひとつのネタが完結しているから、限られた時間で、続きの巻が買えなくても楽しめますしね。あとは、子供心に大判のマンガのほうがコマの数が多くて、そのぶん長時間読めると思っていました。
──それぞれのネタにタイトルがついているのも、最近のきららの4コマでは珍しい気がします。
伊藤:タイトルは毎回、結構時間をかけて考えています。おそらくみずしな孝之先生の『幕張サボテンキャンパス』の影響なんですけど、4コマ目にオチがあって、さらにタイトルでもオトしているという二段構えになってるんですよ。
4コマごとにタイトルがついて区切られているからこそ、普通のコマ割りマンガとは違ったテンポ感を生み出せるのかなと思います。
──タイトルが実質5コマ目の役割を果たしているわけですね。
伊藤:ニャロメロン先生の4コマは、上じゃなくて下にタイトルがついていて、すごいなというかずるいなと思いました(笑)。あれこそまさにコロンブスの卵だなと。
──伊藤先生の4コマトーク、とても面白かったです。きららで連載するからという考えではなく、4コマを描きたいという明確な意思があるからこそ、『まちカドまぞく』は多くの4コマファンに愛される作品になったのだと思います。
伊藤:ありがとうございます。もちろん、読者の方に楽しんでほしいとも思っていますが、子どものころの私を満足させてあげたいという気持ちが一番強いですね。
私はマンガを買ってもらう機会が限られていたので、1冊で摂取できる情報量は多ければ多いほど嬉しかったんです。描き込みやセリフが多ければそのぶん時間をかけて読めますし、伏線がたくさんあれば同じ本を何回読んでも楽しめる。さらに、1冊で綺麗にまとまるとなお良いと思います。昔の私は『まちカドまぞく』を読んで喜んでくれるだろうか、といつも自問自答しながら描いています。
”新しい時代の関係性”を発信できるマンガ家になりたい
──『レベルE』や新聞4コマなど、作風に影響を受けたマンガをいくつか挙げていただけましたが、他におすすめのマンガがあればぜひ教えてください。
伊藤:堀尾省太先生の『ゴールデンゴールド』は、新刊が出るのをすごく楽しみにしています。のどかだった日常が、ある日を境にじわじわ壊れていく感じがリアルでぞくぞくします。
あと、武田一義先生の『ペリリュー-楽園のゲルニカ-』も好きですし、前作の『さよならタマちゃん』もおすすめです。そちらは精巣がんと診断された武田先生のエッセイマンガで、「タマちゃん」っていうのは……そういう意味の「タマ」なんですけど(笑)。
もちろん闘病のつらさも描かれていますけど、それ以上に極限状態での人と人のふれあいにスポットが当てられている作品なんですよね。他のがん患者さんたちと、みんなで軽口を言い合って笑ったりしていて。
たぶん、非日常的なことが起こったときに、その非日常にカメラを当てるのではなく、非日常の中の日常を見せてくれるマンガが好きだし、そんなマンガを私も描きたいんだと思います。
──非日常の中の日常。『まちカドまぞく』にも通じるテーマのような気がします。
伊藤:そういう意味だと、こうの史代先生の『この世界の片隅に』も大好きな作品です。戦時中の広島が舞台なんですけど、周りの人との人間関係とか衣食住の確保とか、ささやかな日常が初期のころはずっと描かれてるんですよ。だけど、それがだんだん壊れていく。
あのマンガの中の、「お前だけは最後までこの世界で普通でまともでおってくれ」というセリフが特に印象に残っています。
「日常系」ってよく使われる言葉ですけど、それは何も事件が起こらない話という意味ではなく、どれだけ日常からかけ離れた世界であっても人である以上避けて通ることができない普遍的な日々の営み、それを通して変化していく心の機微や関係性に焦点を当てた作品を「日常系」と呼ぶのではないでしょうか。
──単行本1巻の最終ページのタイトルは「この町の片隅で」でしたが、やはり『この世界の片隅に』のオマージュだったのでしょうか。
伊藤:そんなタイトルでしたっけ? (単行本を確認中)……あ、本当だ。すみません、これは意識していませんでした(笑)。無意識のうちにつけてしまったのかも。
元ネタが明確にあるのは、3巻の「この不可思議な大きな町のなかで」ですね。宮沢賢治の詩集『春と修羅』の「この不可思議な大きな心象宙宇のなかで」という一節から拝借したのですが、桃の生き方にも通じる内容なので、よければ全文を読んでみてください。
──最後に、マンガ家としての今後の目標をお聞きしてもいいでしょうか。
伊藤:『まちカドまぞく』の次回作の話になりますが、新しい時代の関係性を世の中に提示できるマンガが描けたらいいなと思っています。暇なときはよく妄想していて、担当さんと1時間くらい電話で話しちゃうんですよね。
──新しい時代の関係性……。
伊藤:きらら系って、女の子同士の関係性を描いた作品が多いですけど。意図的にせよ偶然にせよ、その中でも今の社会が求めている人と人の距離感を描いた作品が特にヒットすると思っているんです。
たとえば『けいおん!』だと、りっちゃんとムギちゃんって同じ教室にいてもノリが違って、友達にはならなさそうなタイプの組み合わせじゃないですか。
そんなふたりに唯ちゃんと澪ちゃんも加えて軽音部で出会って、全然ノリの違う4人が放課後に顔を合わせてお茶をする時間を交えてかけがえのない関係性や青春を作っていく姿が「放課後ティータイム」という言葉に象徴されていて。あの距離感が、当時の人たちに受け入れられたんだと思います。
──なるほど。
伊藤:『ゆるキャン△』は、それと同じつくりをするなら、ソロキャンをしていたリンちゃんが野クル(野外活動サークル)に入って、みんなでキャンプしたほうが楽しいねという話になっていたと思います。けれど、『ゆるキャン△』はそうせずに、また違った距離感を描いているんです。
『ゆるキャン△』の特徴は、『けいおん!』の時にはなかったスマホという通信手段を活用していることです。回線速度も発達して、複数人でも動画や写真などで情報交換をするタイムラグや画質の劣化がほぼ無いことが、『ゆるキャン△』の印象的なシーンをたくさん生み出しているのではないでしょうか。
例えば、リンちゃんが道に設置されたライブカメラから野クルメンバーに手を振っているシーンとか、深夜になでしこちゃんとリンちゃんが夜景の写真を交換するシーンとか。リンちゃんは野クルに入らなくても、スマートフォンを通じてなでしこちゃんたちと気持ちや情報を交換しあっている。
これは、相手と直接顔を合わせなくても、共同体にゆるやかに属することができるようになった時代の関係性だと思います。いつも一緒にいたいとは思わないけど完全な孤独は寂しいという、ゆるい距離感がみんなの心に刺さったからこそ、あれだけヒットしたんじゃないかなと。
──伊藤先生が考える、次の時代の関係性とは?
伊藤:次にくるのは……何でしょう、仲間内だけでなく「1対多で共有する世界」とか。
「一億総発信時代」という言葉が最近ありますが、ここ数年で人が何かを発信・発表できるツールが飛躍的に増えました。そのぶんいろんな娯楽や情報が高速で流れるようになって、情報の海の中から「私」を見つけてもらえることの喜びとか、逆に、情報を受け取る側の「自分の心にバチっとはまる、かけがえのない発信者を見つけたい、応援したい」みたいな渇望があるんじゃないかなって……。
ユーチューバーや動画配信者のように、世界の片隅から必死で何かを発信している人を誰かが見つけて応援して、社会全体で大きな波を作っていく。そんな関係性の作品を描いてみたいですね。
未来の話ばかりになってしまいましたが、もちろん今は『まちカドまぞく』を全力で描いていくつもりです。「こことここがつながっていたのか!」と、いい意味で読者の予想を裏切り続けたいと思います。
──本日はありがとうございました!
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— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) 2019年6月27日
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