1回リセットされた状態で、恋をやり直していた。

──ここからはパーソナルな質問になっていくんですが、「初恋ゾンビ」というタイトルでもあったので、峰浪先生にとって「初恋」とはどんなものかというのを教えていただけますでしょうか。

峰浪：タイトルからそうなんですが、この作品は初恋に対するアンチなんです。というわけで、あまり良いものだとは思ってないですね。あまり「初恋」というものに取り憑かれないでねみたいな。

初恋がポジティブに作用しているなら良いんですが、「初恋の人ほど良い人はいない」って言う人も少なからずいると思っていて。本当に自分の良い思い出としてパッケージングしてしまっておくとかならまだしも、そこに執着しすぎて呪われてしまうようなことは不幸じゃないかなと。

初恋という呪い

──まさに初恋がネガティブに働いてしまっているというか。

峰浪：恋愛って酔いやすいじゃないですか。酔った気持ちを1番ギュウギュウに押し付けられているのが初恋なのかなと感じていて。素敵な面はもちろんあるけど、ある種グロテスクな部分も持っているんじゃないかと思っています。

──タロウの場合は初恋が成就したと捉えることもできるんですが、個人的にはそうでなく、作中でもう1回指宿くんに恋をしたのかなと感じています。

峰浪：そうですね、指宿リリトという「性別が不明な存在」に対して性別関係ないまま好意を抱いていったんだろうなと感じています。だから幼稚園の頃からずっと好きだったわけでは当然ないし、（幼稚園の時に好きだった）あの子だから好きというわけでもないと思うので、やり直してますよね、恋愛を。指宿くんも多分同じだとも思うんですが。

指宿くんにときめき始めるタロウ。

──指宿くんもずっと好きだったわけではない、と。

峰浪：多分1回は、嫌ったり憎んだりもしていたと思うので、やっぱり転校して来てから色々経験していって、改めて15歳のタロウを好きになっていったんだろうなと思います。

──二人とも、初恋と全く繋がっていないわけではないけれど、結局はもう1回恋をし直したということなんですね。

峰浪：そもそもタロウは、思い出が結構イヴによって変えられているんですよね。初恋ゾンビのイヴという存在によって、タロウが昔好きだった「イヴ」は割とグチャグチャになっていたんですよ。指宿くんもそれは分かっていたと思います。

なので、やっぱり1回リセットされた状態で、恋をやり直していたんじゃないですかね。

元々は小説家志望

──これまでのお話の中で、高橋留美子先生イズムという発言があったかと思いますが、これまでに影響を受けた作品は何でしょうか。

峰浪：子供の時は圧倒的に高橋留美子先生の作品ばかり読んでましたね。あとは手塚治虫先生の作品も大好きで。『ブラックジャック』や『火の鳥』を読んで、死生観とか、人間とは……みたいなことを考えるのが好きになっちゃって（笑）。

それで哲学的な作品を読むようになって、山岸凉子先生の作品も読んだりしましたね。

──高橋留美子先生以外、ラブコメとなかなか結びつかないイメージです。

峰浪：本当にそうですね。少年サンデーも『らんま1/2』以降あまり読んでなかったので（笑）。だから何というか、原点に立ち返ったというか、懐かしさを感じた人も少しいたんじゃないかと思いますね。昔読んだサンデーっぽい、みたいな。『犬夜叉』とかも読んでいたんですが、その辺りの頃は結構漫画から離れていたので。

──漫画をあまり読んでいなかった時期があるんですね。

峰浪：元々私は、小説家志望だったんですよ。なので、中学くらいまでしか漫画を読んでいませんでした。高校生くらいの頃からはほぼ本ばかり読んでいて、小説の投稿ばかりしていましたね。

──なぜそこから漫画の道に進むことになったんですか？

峰浪：全く小説の賞が取れなくて、才能ないかもとか考えたりして（笑）。その時は福岡に住んでいて、フリーペーパーのライターとかをやっていたんですよ。それでその時のライターの先輩に、「小説にこだわらない方が良いんじゃない？」みたいなことを言われ、シナリオライターとか他の選択肢に気づきました。

──なるほど。そこで他の道が見えてきたと。

峰浪：あと、当時父親がずっと「ビッグコミック オリジナル」を読んでいて。私、村上もとか先生のところでアシスタントをしていたんですけど、あれもずっと『龍-RON-』を読んでいたからです（笑）

──そうだったんですね……！

峰浪：で、そんな頃に、ちょうどビッグコミックで大賞が出ていて……ウン百万とかの賞金が。

担当編集：「新人コミック大賞」の大賞ですよね。今だと賞金は200万です。

峰浪：めったに出ないんですよね、大賞。それがたまたま出ていて。そんなに賞金もらえるんだ……みたいな（笑）。これを見てストーリーは書けるし、漫画もありかなと思ったんです。

担当編集：最初の動機がそれとは、私も知りませんでした（笑）。

峰浪：美術の授業は高校の時にはもう取っていなかったんですが、まあ何とか絵は描けるだろうと思って。

──えー！ その発想が凄い。それまで小説をずっと描いてて、漫画というか絵は描いてなかったんですよね？

峰浪：全く描いてなかったですね。まだ今ほどインターネットも発達していなかったので、本屋とかに行って漫画の描き方とかを調べながら、原稿やペンを揃えて。それで初めて描いた漫画を、賞に投稿したんですよ。そしたらそれが、奨励賞を取ってしまって。

担当編集：本当に凄い……。

──凄すぎる……！

峰浪：それで、「あ……漫画はいける！」みたいな（笑）。その後もう1回送ってくれと言われて、もう1回送ったら今度は佳作が取れたんです。次は授賞式に来いと言われて、受賞パーティに行った時に、「本格的に漫画をやりたいんだったら、絵が全く描けていないからまずは勉強に来なさい」と言われて、上京してまずはアシスタントに入って二年間絵の勉強をしたんですよね。

──そこで漫画の基礎的な部分を固めたわけですね。

峰浪：で、「週刊ヤングサンデー」で読み切りとかを描いていたんですけど、ヤングサンデーが休刊で無くなってしまったんです。どうしようかと思っていた時に、モバMANっていうweb媒体でとりあえず連載してみない？ って言われて、「やるやる」と（笑）。そこで『溺れる花火』の連載を始めて、そこからずっと漫画家をやってる、という感じですね。

──それでやっていけるのが凄いですね……。

峰浪：美術の成績も中学の時とかずっと5だったので、多少はいけるんじゃないかなと……（笑）。

──いやその中学美術の成績での判断はかなり怪しかった気がしますが……（笑）

峰浪：そうですね（笑）。まあなんか描けるだろうくらいに思ってました。

──思い切りの良さが凄まじい。

峰浪：結構合理的なんですよね。やれるならやってみて、やれないならやらないだけみたいな感じで。

──今、かなり絵が上手くなってますよね。

峰浪：今でも不思議に思う時があって、自分で「こんなにも描けるようになったか！」と思ったりしますね。もちろん他の作家さんに比べればまだまだ下手だとは思っていますが、自画自賛はめちゃくちゃします（笑）。

──初恋ゾンビは、ヒメゴトの時ともまた少しタッチが違うなと思う時もありました。

峰浪：村上もとか先生の元で、結構リアルっぽいのを描くのに慣れていたので、『溺れる花火』の頃はまさにそんな感じでしたね。

──なかなかいない経歴ですよね。そういえば昔、峰浪先生のブログで、漫画家として生きようと思う、みたいな投稿があったのを見た気がします。

峰浪：そんな投稿してましたか……。もうブログの内容はあまり覚えてないです（笑）。実はパスワードを失くしちゃって、書き込めなくなっちゃったんですよね。見てはいるんですけど、自分が書き込めないという……まさにゾンビ状態。ブログもゾンビ化しちゃうという（笑）。

読んでいる人がいるというのは、本当に励みになった

──では最後に。普段のコミスペ！だとこの記事を読んでいる読者に向けてという形なんですが、今回はもう完結ということで、今まで初恋ゾンビを読んできた読者に向けてのメッセージをぜひ、頂けたらと思います。

峰浪：本当にただただありがたいです。ヒメゴトの時は、ファンの反応が全く分からなかったんですよ。まだTwitterも流行ってなかったと思いますし。

──確かに、今と違ってライト層まで浸透しているツールではなかった気がします。

峰浪：だからリアルタイムで読まれている感触がなくて。たぶん誰かが読んでるのかな？ みたいな感覚で描いていました。それが初恋ゾンビの時は反応が毎週出てきて。読んでいる人がいるんだな、というのが実感できました。これって、本当に励みになったんです。恥ずかしいものは出せないなと思いましたね。読んでくれている人の期待を裏切るようなものは描きたくないというか。一人で作っていた感じのヒメゴトと比べると、色んな外的要素が入って描いた作品なのかなと感じています。

──その要素の中に、読者がいたわけですね。

峰浪：そうですね。だから作品も変わっていったなと。テキトーなノリから入った部分もあった作品でしたが、キャラクターがどんどん動くようになったのは、読んでくれた読者がいたからこそだと思います。本当にこんな変わったラブコメを読んで頂いて、ありがとうございました！

おまけ

──厚かましいことを承知で1つ良いでしょうか。『初恋ゾンビ』の連載が終了したくらいで、「少年サンデープレミアムSHOP」が始まったと思うんですが、何卒そこで『初恋ゾンビ』の複製原画を売って頂きたく……。どうしても欲しくて。

担当編集：実はその話をちょうど今日、峰浪先生にちょっとご相談しようと思っていたんです。読者からの要望も多かったので、ぜひ販売したいと考えているんですが……。

峰浪：そうなんですね。全然大丈夫です！

──やったー！！ 楽しみに待ってます……！！

作品情報

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