2019.09.18
二人きりで安心して眠れる場所は、少年少女の秘密基地『君は放課後インソムニア』オジロマコト【おすすめ漫画】
『君は放課後インソムニア』
二人きりで安心して眠れる場所は、少年少女の秘密基地
睡眠は、人の三大欲求の一つ。食欲はグルメ漫画で、性欲はエロ漫画で表現され、大きなジャンルになっている。そして以前も特集したように、睡眠欲もここしばらくの間で、漫画のテーマになりつつある。
「安眠する」ということは、心の底からリラックスしている、ということだ。となるとそこに至るまでに、何らかの物語性が生まれてくる。
『富士山さんは思春期』や『猫のお寺の知恩さん』」などを描いたオジロマコト先生の新作は、高校生の睡眠がテーマ。
中見は夜になると目がさえて、昼になると眠くて仕方なくなる、厄介な体質。
あまりにしんどくてイライラし続けている彼は、学校の最上階にあるいわくつきの天文台に忍び込む。ここは誰も近づかない、隔離された場所。寝るのに最適だと思った瞬間、先客がいたことに気づく。
少女の名前は曲伊咲(まがり・いさき)。彼女もまた、夜は全然眠れず、昼に睡魔が襲いくることで悩んでいる一人だった。
誰にも言えない秘密を共有した二人。こっそり天文台に忍び込む日々は、憂鬱だった二人の心をちょっとずつ解放しはじめる。
睡眠で心を通わせ合う、ボーイミーツガールストーリー。二人が心から安眠できるのは、自分たちの言えない秘密をお互いに受け止めあえるから。安らげる場所を一緒に守る、貴重な同志になっていくから。
天文台を寝やすくするため、二人で快適な空間に作り変えていく様は、秘密基地づくりのようでワクワクする。くたびれたあとは、床でぐっすり。体質がわかっているため、お互い起こしてくる心配がない。何も考えず思いっきり眠ることが出来る。
深夜、二人で家を抜け出して「夜のおたのしみ会」に出発する回がある。中見と曲が歩く街の中は人一人歩いていない。世界が自分たちのものになったかのよう。
見ている世界、頭に浮かぶ曖昧な感情を共有できることで、二人の心はどんどん開けていく。夜中歩き回る二人のテンションは非常に高い。朝が訪れるにつれて同時に眠くなり、つい笑ってしまう。
特殊な状況なこともあり、一人より二人でいるほうが安心して眠れる、というのがこの物語のミソだ。特に曲は、中見と出会ったことでより深く眠れるようになっている。
「中見がいないとさ。眠れないから。」
そんな事言われたら、ドキッとしてしまう。あなたには心を開いています、という告白に限りなく近い。
この心理がただの安心感なのか、もっと違うものなのかは、現時点ではわからない。ただ少年と少女が自分たちの弱いところをさらけだし横たわる様子は、変わっているけれどもかなり青春しており、ちょっとだけフェティッシュ。
眠りがもたらす人間関係は、想像以上に深い絆。キュンときそうな展開も含め、読んでいるこちらまでリラックスできる作品だ。
©オジロマコト/小学館