2019.12.07
女子高生×吸血鬼を中心に繰り広げられる、はちゃめちゃ異種族コメディ!『ヴァン子さんは無職』Rootport, つきぼしりょう【おすすめ漫画】
『ヴァン子さんは無職』
見目麗しき黒髪ロング女子高生が街道を逃げまどっている。
名前は花子ちゃん。何らかの事情を抱えた彼女は、謎の女ニンジャに襲撃されている真っ最中だ。ニンジャは式神と呼ばれる怪物をけしかけ、もはや絶体絶命……と、そのとき偶然に通りがかったひとりの女性が立ちはだかり、花子を救う。
おおざっぱにくくった長髪に野暮ったいジャージという冴えない風情の女性は負傷した花子の血が口に入ったとたん、すさまじいパワーで刺客を追い払ってみせる。
女性の名はヴァン子さん。伝説にいう、かのヴァンパイア。そして無職だ。頼る相手もいない花子はヴァン子さんに連れられ、神社の至近距離で「魔王城」を名乗る怪しい喫茶店へアルバイト店員の形で身を寄せることとなる。
献血センターで働いていたが速攻でクビになった過去をもつ残念な吸血鬼ヴァン子さんを筆頭に、アイスコーヒーに梅干しをセットでつける壊滅的センスの魔王兼店主「マスター」、何もかもあけっぴろげなサキュバス「めろん」、マイペースすぎる人狼「犬飼狼子(いぬかい ろうこ)」とその妹に手を焼かされる兄「雨瑠風(うるふ)」、さらに花子を狙った刺客でありながら喫茶店に出入りするようになる「六角丸子(ろっかく まるこ)」。
人外や超人がそろった普通でない常連客を相手に過ごす、普通の日常が続いていく……。
という異種族コメディが大枠で、ファンタジー設定からくる派手なアクションとスペクタクルもあるのだが、基本的な趣はとにかくキャラクター同士のかけあいが楽しいコントである。
会話シーンが続くだけでも楽しいのはつまり、「こいつならこういう時にはこういう言動を選ぶ」というキャラクターの“芯”のようなものがビシッと通っていることを意味している。出てくるキャラみんな勝手なことを言い放題やり放題するのが面白い、というのもその“芯”あってこそ成り立つ趣だ。
その点でとりわけ大きな補強材になっているのが、趣味と実益をかねてイメクラで風俗嬢をしている淫夢魔・めろんのはっちゃけた言動だろう。彼女が起点となって他のヒロインも巻きこみ、日常風景のなかで女性による性的な物事への言及がへんに抑えこまれず引っ張り出される場面は、毎度いっそすがすがしい(女子高ノリ……というのとはちょっと違うかもしれないが、まあ近いか)。
ともかく、エロトークが合間合間に挟まってもカラっと明るく、いわゆる艶笑劇として高いレベルをキープしていく手際がお見事な作品である。
Web配信は「comicブースト」(旧「デンシバーズ」)で、すでに完結済み。
単行本全2巻とコンパクトなボリュームのなかで展開の山場は途中に寄せてあるので、まずは第1巻を読み、キャラクターにもっと親しみたくなったら最後まで追いかける流れでもいいだろう。
ちなみに個人的なお気に入りは、登場時点では凄みがあったのにヴァン子さんに撃退されて以来、おもらしやら拉致られやらさんざんに不憫な弱キャラ属性がついていく刺客の六角さん(コンビニ店員)。
かわいそう寄りのかわいいキャラとして主人公コンビより強く印象に残るかもしれない。が、がんばれ……!
©Rootport, つきぼしりょう/幻冬舎コミックス