2019.12.16
不老不死をめぐる葛藤と秘密を軸に繰り広げられる、切なくエロい異種間恋愛BL!『わだつみの嫁取り』文善やよひ【おすすめ漫画】
『わだつみの嫁取り』
美しい人外を描く、異種間恋愛の名手、文善やよひ先生の新刊です。「人外専門誌」ことコミックマージナル創刊号からの作品が1冊にまとまったものです。
カップリングは、「一途な触手人魚 × 不老不死のおっさん」です。
人魚の肉を食べた人間は不老不死になる……という伝説のお話。人魚は本来、伴侶に異性を選ぶはずが、キヨは男なのに人魚の嫁になってしまいました。人魚に与えられた不老不死の身体で、死に方を探しているけれども見つけられず、終わりのない生を厭いながらも人魚と2人で生きてきました。
人魚は、ある秘密を抱えながらもキヨを手放すことができず、仲間に死に方を聞いてくると偽って59年もキヨをひとりにしたりもしました。59年って大した時間ですよ……放置プレイにしても長すぎます。寿命のある人間の社会で、キヨは59年間、とてつもない孤独と闘うことになりました。人魚はいい子だけどちょっと長く生き過ぎていて想像力が足りないと思います。
あるときついに、キヨは人魚が隠していた秘密を、別の妖怪から聞かされることになります。
自分だけが死ぬ方法。人魚の性質と運命。
そして、いま自分の夫である人魚が、この世界最後の人魚であり、自分が死ねば人魚は永遠に生き続けることになるという現実を。
キヨは、自分が死んでも人魚は海に帰れば仲間がいると思っていたのです。でも実際はそんなものはもういないといいます。
キヨが死ねば、人魚はこの世界にたった一人になっても生き続けることになってしまう……。死にたいけれど、そうすると人魚は永遠の一人ぼっちです。死ぬ方法を知ることができたというのに、その途端に死ぬことへの迷いと躊躇いが生まれてしまうというのは皮肉なことですね。
長年の望み通り、関わった人たちを看取りながら生き続けることを終わらせ、人魚をこの世界に残すのか、生きられる限り人魚と生き続けて永遠のふたりぼっちになるのか。異種間恋愛でしか存在しない命題ですが、キヨは最終的には人魚に寄り添うことに決めます。
ふたりが抱える悩みや秘密が、まさに人外BLならではの壮大さで、切なさはもう増し増しです。溢れて大変なことになっております。しかも人魚はオプションとして触手が付属しておりまして、いちゃいちゃシーンもなかなかにマニアックにそそる仕上がりです。
異種間恋愛が大好物の皆さんには絶対に読んで損はさせませんということで、強くお勧めしておきたいと思います。
©文善やよひ/双葉社