『彼女が可愛すぎて奪えない』

吉田夢美先生の新連載『彼女が可愛すぎて奪えない』の第一巻が発売されました。

角の生えたイケメンが表紙に映っておりますが、悪魔的な男子というわけではなく、悪魔です。はい、ファンタジーです。

物語の主人公は、魔王継承試験のために人間界へと舞い降りた悪魔の皇子・シオン。兄弟は他に６人。兄たちに負けないよう、生まれてからずっと魔王継承のためにひたすら魔力だけを高めてきました。

そんな彼に与えられた試験内容は、「対象の人間の処女を奪うこと」。残念ながら、ターゲット相手には自慢の魔法が使えない制約付き。

女性経験はおろか、まともに女子と接したことも無いシオンは、魔法が封じられてはただの童貞男子。それでもどうにかターゲットの人間・梅子に接近するも、梅子は一筋縄ではいきそうにない、だいぶ変わったど天然美少女で……!?

表紙のイメージから、オラオラ系ヒーローとのラブロマンスかと思っていたのですが、まんまと騙されましたよ。コメディというか、ノリとしてはギャグマンガに近い印象です。

主人公のシオンは悪魔ってところを除けば、純正童貞という感じで、その女性経験の乏しさから来る有り余る妄想力が本当に素晴らしい。女性への耐性はゼロで、見つめられれば赤面、触れられたら鼻血。なんなら妄想だけでも鼻血出しますし、キャパオーバーから壁にガンガン頭打ちつけちゃったりするので、半分ぐらいのコマで血出てるんじゃないかな……。

そんなクソみたいな恋愛力にも関わらず、皇子ゆえに他人には上から目線で接してくる態度とのギャップが残念カワイイです。童貞ゆえに相手にも清廉潔白さを求めると言いますか、妙に期待しちゃうところがあったりと、童貞にありがちなネタを極限まで肥大化させたような、完全なネタキャラです。

ちなみに普段は人間に化けて学校に通っているので、学園系のイベントもきっちりカバー。童貞力を発揮させるには申し分ない舞台設定となっております。

そんなシオンのお相手となるのが、超絶美少女の梅子ちゃん。シオンは当たり前のようにひとめ惚れ（本人は強く否定）。可愛すぎるからか、男子からも女子からも遠巻きに見守られるだけで、友達すらひとりもおらず、人との触れ合いというものに強い憧れを持っています。

そのため、クソみたいにヘタレた行動をするシオンに対しても、「私に興味を持って話しかけてくれた」とめちゃめちゃ好意的に受け取ってくれ、とんとん拍子で仲良しになることができます。一緒にお弁当を食べたり、すぐにお家に招待されたり、圧倒的にウェルカムな態度。

しかし仲良くなればなるほどわかってくるのが、「処女を奪う」という目的達成の難しさ。というのも、とにかくド天然で普通の感性を持ち合わせていない彼女は、普通のアプローチが一切通用しません。加えて、長所でもある、何事も好意的に受け取ってくれるという性格も、あくまで友達としての目線から。

恋愛的な思考は一切持ち合わせておらず、いい感じの雰囲気になることも一切ありません。なかなかに難攻不落な女の子という感じでございます。
　
物語全体を通して、とにかく勢いがすごい。シオンは梅子のことを考えると感情が抑えられなくなり、とんでもなく情緒不安定になると共に、思考が暴走してしかもそれが文字として起こされるので、１ページごとの描き込みがすごい上に、ページをめくると途端に違う情景になっていたりするので、面白いんだけどめちゃめちゃ読み疲れます（笑）。そしてそれだけの情報量に対して、得られるものが一切ない感じがいっそ清々しい。

令和元年最後に、なかなかにロックな個性派コメディ作品が登場致しました。DT（童貞）悪魔とDT（ど天然）美少女のすれ違いすぎる恋模様、微笑ましく見守りましょうじゃありませんか。

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©吉田夢美/集英社