2020.02.05

少年と、少女型ロボットを巡る「心」の触れあいを描いたヒューマンドラマ!『おはようサイコパス』あおみ現場【おすすめ漫画】

『おはようサイコパス』

蝶は殺して飾ってもいいのに、ネコを殺したらなぜダメなのですか

人間は生まれながらにして良心を持っている。親や誰かに教えられたわけでもないのに、「人に迷惑をかけてはいけない」など、なんとなく本能的に認識している。その一方で「やってはいけないこと」をどうやって見分けるかは、説明がものすごく難しい。

『おはようサイコパス』は、何も知らないロボットに世の中を教える際に生まれる矛盾を通じて、人間の倫理を描いた作品だ。

少年けいすけの家にやってきたのは、人間にしか見えない最先端の少女型ロボット、リリ。生活機能はほぼ人間同様にトレースされており、残るは「心」を育てるのみ。リリはけいすけと一週間一緒に過ごし、人間の反応を見て感情を理解し、心を育むよう試される。

けいすけはリリに興味津々。まだ知識も知恵もなにもないリリの遊び相手として、彼女と一緒に暮らすことになる。やっていいことと悪いことを説明しながら、様々な「嬉しいこと」を教えていく。

けいすけがリリに見せたのは、母親の作った蝶の標本。

「こうやってきれいなものをきれいなまま残すんだ」と説明するけいすけの言葉を覚えたリリ。彼女はけいすけに喜んでもらいたいと考え、けいすけが大好きだった野良猫を殺して首を切り、ネックレスを作った。

このリリの行動は、一般的な人間であればおぞましい行為だと感じるはず。ではリリに対して、なぜそれがダメだと説明すればいいんだろう。蝶はきれいだから殺して標本にするのに、猫は同じ生命なのになぜ殺してはいけないのか。

リリがここで学んだのは、殺していい悪いの倫理ではなく、けいすけが悲しむことをしてしまった、という苦痛だ。

「タヌキは剥製にすればほめられて 蝶々の死体はきれいでながめて ネコはダメ 私ちゃんと 覚えるから…!」

リリは極めて純真なロボットとして描かれ続けている。だからこそ突然人間の倫理から外れる行動を咄嗟にとると、ぎょっとしてしまう。彼女の「知らない」は、知識量の問題だけではない。五感を通したあらゆる体験と、人と人との関わりの中で芽生える感情、それらを重ね合わせてイメージする想像力、全てが足りていない。

彼女は誠実なので一生懸命けいすけと世界から吸収しようと努力するが、理由のつかない「良心」の部分がどうしても欠けてしまう。

リリが人間に近づこうとすればするほど、人間が常識だと思っていた価値観の狂いが浮き彫りになっていく。けいすけとリリがいる時間の大半はほのぼのした描写が続くが、突如何かが狂ってしまう描写は秀逸。かわいい絵柄なのに全く気が抜けない。タイトルの「サイコパス」が誰のことなのかもわからない。

登場人物たち全員悪意ゼロの、不穏な物語だ。

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たまごまご

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