2020.02.29
「乙女ゲーム」の中の異世界と、現実世界を繋ぎ両軸で展開される異色の悪役令嬢ストーリー!『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』逆木ルミヲ, 恵ノ島すず, えいひ【おすすめ漫画】
『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』
本日は、「コミックビーズログ」公式サイト(「ニコニコ静画」内)および「ComicWalker」で配信中のWebマンガ『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』という作品を紹介したい。
小説投稿サイトで連載され商業書籍化した同名小説のコミカライズだ。
主な舞台は、魔法が存在する洋風ファンタジー世界。高貴なるイケメン王太子・ジークはある日とつぜん天上にいる二柱の神々よりお告げを授かった。
神託の内容は、彼の婚約者・リーゼロッテに関する重大な注意である。
リーゼロッテは見目麗しく文武両道のハイスペックなご令嬢だ。ただし人当たりが過剰に厳しく、ジークはてっきり自分が嫌われているものと思い込んでいた。ところが神様いわく、そうではないらしい。逆。むしろ逆。実はリーゼロッテ嬢、ジークが好きで好きでたまらないのだ。けれど素直になれない反動でつっかかってしまうだけなのだという。
「リーゼロッテはツンデレですからね」
ツ・ン・デ・レ……? とは一体?
聞きなれない言葉に困惑する王子をよそに、神の声はジークがリーゼロッテと親密になれるよう行動を誘導する。そうしなければ、ある事情から彼女は破滅を迎えてしまうからだ。そこでジークが担った使命は、リーゼロッテの意地っ張りをスルーして正面から好意を伝え、スキンシップもためらわないこと。
そうするとあら不思議。いままでイヤミでキツく感じられたリーゼロッテの言動から、熱い恋心を燃やし、けれどそれをなかなか表にあらわせない不器用な少女の姿が見えてくるではないか。こんな可愛い子が自分の婚約者だったとは!
神が教えたもうた“ツンデレ”の概念を通して、ジークはリーゼロッテがとてもキュートな女性であることを理解していく。そして天に導かれし彼らのラブコメ関係は、やがて世界をゆるがす大きな流れに変化をもたらすのだった……。
と、この一次的なシチュエーションだけでもじゅうぶん楽しめるのだが、本作の真骨頂はジークとリーゼロッテの世界に“もうひとつの舞台”がかぶさる点にある。
それは、ほかならぬ我々の現実世界。実はジークたちがいるのはいわゆる乙女ゲームの世界で、彼らはゲーム内の登場人物なのである。そして彼らに神託を下す二柱の神々とはゲームプレイヤーのこと。とある学校に通う女子生徒・小林さんと男子生徒・遠藤くんの二人組だ。
これは小林さんがイチオシのゲームを解説プレイするため遠藤くんを相方につけ、本来は主人公に敵対して身を亡ぼす悪役令嬢・リーゼロッテの命を救うルートを模索する物語でもあるのだ。
リーゼロッテの好感度が変動するのを見るたび「きたー!」「もっとやれー!」とはしゃぐ高校生たちの軽いノリを、神の声がこうおっしゃっている! と重々しく受け取るファンタジー世界の住人というギャップがなんとも楽しい。
ときにテレパシー系の異能で他人の恋愛感情を知るような作品があるが、本作ではいったんメタフィクション要素を経由して天からのお告げという形でヒロインの心情を漏らす趣向に、独特の奥ゆかしさがある。
人の本音を勝手に盗み知るのはある意味いやらしい状況だが、それを「神様が強引に教えてくる」という構図を敷くことで当事者の誰も悪くないように描けるわけだ。
なお、劇中で小林さんたちがプレイしているゲームには超常要素があり、ジークは小林さんと遠藤くんの声かけに本来シナリオにないセリフで交信できる……つまり単なるゲームキャラではなく実際に自我をもった人間として存在している。
だから、ふたりのゲームプレイには本物の生死に干渉する重みもあり、神様のまねごとをするロールプレイだったものが本当に神としての責任を帯びた立ち回りへ移っていくのも見どころである。
もともと、本作が応用している“天上にいる神々が遊戯のかたちで地上人の行動を差配する”という構造は古式ゆかしいフォーマットでもある。例えば特撮映画史上の名作『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)はギリシア神話の探検船を題材にする上で、オリンポスの神々が盤上駒を動かす様子を重ねて描いていた。
天界の水面に地上の光景を映して俯瞰し、主人公イアソンの活躍について言葉を交わす主神ゼウスと女神ヘラの長い長い延長線上に、テレビゲームの画面を見ながら実況解説する遠藤くんと小林さんをみることは可能だろう。
©逆木ルミヲ, 恵ノ島すず, えいひ/KADOKAWA