2020.03.17
【インタビュー】『俺を、たたせてみろよ』嶋永のの「誇りをもってエロを描いているし、このジャンルが本当に大好き」
大事なのは挿入よりも愛撫
──先生の作品はとにかく女性が本当に気持ち良さそうな描写がエロティックで印象的ですよね。
嶋永:ありがとうございます。私自身が優しく愛撫する男性が好きだというのもありますが、ラブグッズの会社で働いていたときに知ったことも大きく影響している気がします。
当時は漫画を描く仕事以外にも、お客さんからのお悩みのお便りを確認して整理する業務も担当していたんですね。そこには毎日大量に女性からのセックスの悩みや要望が届いていて、特に多かったのが「挿入が痛い」というものでした。
挿入が痛いのは、病気ではない場合、十分に濡れていないことが原因として考えられます。年齢によって濡れにくくなることはありますが、そこに届くメールはどれも20代や30代の若い女性のものばかりでした。
そうなると、おそらく男性の愛撫が足りていないんだろうな、と。男性はAVを参考にしている人が多いですが、あれは最初から女優さんが濡れていてあまり参考にならない。おそらくティーンズラブ作品を読む人にも、愛撫が足りていなくてセックスに満足できていない女性って多いと思うんですよね。
──男性の愛撫が足りていない問題は、よく女性の悩みとしてあげられますね。
嶋永:「むしろ挿入しなくてもいい」みたいな人も多いですよね。だから、ティーンズラブという女性向けのエロ漫画を描くなら「女性が気持ちよくなること」を最優先にしよう、と。
だから挿入は、最大限盛り上がったときにやるものとして描いています。そこに至るまで、丁寧に愛撫のシーンを描く。
そう考えると、ティーンズラブって女性向けではありますけど、男性こそ読んで欲しい気がしますね。これだけの手順をふまえて気持ちよくするんだよ、ということを知ることができると思います。
もちろん、ティーンズラブ作品にも色々ありますから、中には女性を粗雑に扱うような作品も多くあります。むしろそういう男性キャラクターが多いように感じたから、私はそれに対抗するようにひたすら優しい男性を描くように意識している気がします。作中の壱なんて、まさに私の理想の男性ですよ。
縛りだらけのティーンズラブ
──壱は、ちょっと強引なところがありながらも、決して梅子が本当に嫌がることはしないんですよね。ティーンズラブ作品って、読者は基本的に「どれだけエロいか」という点に期待して読むと思うのですが、濡れ場を描く上でこだわっている部分などはありますか。
嶋永:色々ありますが、たとえば男性の、主人公に対する触れ方ですね。
強引にセックスをしているときでも、髪を優しくかきあげてあげたり、背中にキスをするだけで、まるで印象って変わります。男性が女性を、実は大切に想っていて優しく扱っている、というのが伝わってくる。
──なるほど。
嶋永:線の引き方でいえば、なるべく強弱をつけるようにしています。単調な線でもエロい漫画はありますが、私の場合はなるべく見せ場のシーンでは少し線を太くしたりして迫力を出したりしています。
あとは、男性が手を置く場所とかはけっこう意識していますね。どこに置くと一番エロく見えるかな、とか、肩に置くと胸が見えないな、とか。そういうアングルや構図は「シルクラボ」(註:女性向けアダルトビデオメーカー)の作品をよく参考にしています。見えそうで見えない、きわどい構図でけっこう参考になるんですよ。
──見えそうで見えない、ですか。
嶋永:作中では性器が描けないし、そもそも読者は性器を見たいとも思っていない。それよりも、キャラクターの関係性をふまえたセックスを見たいんです。そこが男性向けの成人漫画とはちょっと違う点ですね。
そのためにも、エッチなシーンだけではなくて、胸がときめくようなシーンや、セックスに至るまでの流れ、その後のピロートークや余韻が続くシーンなども全部入れないといけない。ティーンズラブは色々と縛りが多い中で、毎回新鮮なストーリーや関係性を作らないといけない点でかなり難しいですね。
──なるほど。
嶋永:セックスシーンではリテイクは出ないですが、そこに至るまでの過程や全体のストーリーは毎回かなり悩みながら描いています。
読者は単なる日常のセックスではなくて、気持ちがアガるような、非日常を感じられるようなストーリーを求めているので、手を替え品を替え、面白い設定を考えないといけないですね。
第一話で梅子が壱に「ち●こを見せてください」とお願いするシーンも、現実だったらありえないですけど、彼らがいかにエッチな関係性に至るかという装置として必要だった。少女漫画や少年漫画など他ジャンルと比べて、一話に詰め込まないといけないくだりが多いから自由度は低いですね。
誇りをもってエロ漫画を描いている
──ただ、その縛りに悩まされても、先生にとってはティーンズラブ作品が天職だと言えるくらい面白いものなんですね。
嶋永:そうですね。他のジャンルに比べて歴史が浅い分、もっといろんなことができそうというワクワク感もあります。
それに、色々と偶然が重なった結果いまの仕事をしているけど、ラブグッズの企業で多くの女性がセックスで悩んでいると知ったことは、自分の作品を描く使命感にもなっています。私の作品を読んで、少しでも多くの女性が快感を感じてくれたらいい。
女性向けのエロ漫画って街中で見ることがあまりありませんが、自分が描く立場になって、ものすごくたくさんの人が電子で買ってくれるということを知りました。きっとひとりでひっそりと楽しんでくれているんだと思います。
──たしかに私もエロ系はすべてデータで買って、人目のないところで楽しんでいます。読者の方からの反応はありますか?
嶋永:とても情熱のこもったファンレターをもらうことは多いです。あと、「付箋本」を送ってくれた人もいます。
──「付箋本」ですか。
嶋永:これはBLジャンルなどでは多いらしいのですが、紙の本に直接感想を書いた付箋を貼り付けて送ってくれるんです。よかった場面ひとつひとつにいろんな付箋がついていて、「最高!」とか「この手の置き方エロすぎ」とか書いてくれている。エッチが盛り上がるところで「マジでありがとうございます」とかね、こっちの方こそお礼を言いたくなるくらい嬉しかったですね。
──熱量がすごいですね。男性読者もいるものなのでしょうか。
嶋永:サイン会に来てくれる方の中には男性もいます。梅子を可愛いと言ってくれる人もいるし、壱に抱かれたいという人もいる。現実世界では女性が恋愛対象だけど、漫画や小説などでは男性に恋をするという男性もいるらしいです。
ティーンズラブにはそういう需要もあるのか、というのは新しい発見でしたね。
──必ずしも女性が抜くためだけの作品ではないと。最後に、嶋永先生にとって「エロを描くこと」に込めている想いを聞かせて頂けますか。
嶋永:以前、男友達からとある成人向けコミックを指しながら、「俺はこのエロ漫画を通って大人になった。誰にも言わないけど、今でもその先生は俺の中の伝説なんだ。だからあなたも、知らないうちに誰かの伝説になってるかもよ」と言われたことがあります。
たしかにエロ漫画って日の目を見ることはありませんが、人によってはその人生を大きく形作るものにもなりうるんですよね。
中には「エロ漫画なんて描いているんだ」とちょっと揶揄してくるような人もいますが、私自身は誇りをもって描いているし、このジャンルが本当に大好きなんですよね。
──本日はありがとうございました!
作品情報
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— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) March 17, 2020
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