2020.04.25
元・傲慢お嬢さまが、女子高生のうちから充実した老後を目指して全力をかける生き直しの物語!『JKからやり直すシルバープラン』 林達永, 李恵成【おすすめ漫画】
『JKからやり直すシルバープラン』
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「コミックヴァルキリー」の大看板『フリージング』の林達永先生が原作をつとめる、同サイト配信中の新作『JKからやり直すシルバープラン』だ。
若い盛りの女子高生と、老後のシルバープラン。遠く離れたそれらに、さて一体どんなつながりがあるのか。
かつて日本の景気がよかった時代。上流階級に生まれ育って金も権力も色恋すら思いのまま、まさにセレブすぎる一人の女性がいた。自分に劣る者を徹底的に軽蔑し、まるで傲慢の二文字が人の形をとったような女だった。
名は二ノ宮小百合。本作の主人公である。
ところが、日本経済のバブルが終わったのを機に二ノ宮家の事業が崩壊。小百合は貧乏暮らしが何十年も続いて家も仕事もない中年の浮浪者となり、ゴミ箱から食べ物をあさる日々に甘んじていた。あげくのはてに行き着いたのは、ホームレス狩りに石を投げつけられ致命傷を負う悲惨な末路だ。
死の暗闇に沈みつつ、小百合は深く後悔する。金持ちであることと、幸せをつかむことは別の問題だった。それにもっと早く気付いていれば。
「もし… あの頃に戻れるのなら… うまく生きてみせるのに…」
そんな独白をこぼした次の瞬間。小百合は、暖かい陽だまりの下でハッと目を覚ます。
生きてる! しかもなぜかやたら元気。若々しい……というか実際、若返ってる!? 目の前には見覚えのあるお堅い建物、そして周りにいるのは10代の少年少女たち。
混乱しながらも、何が起きたのか徐々に把握していく。ここは1990年。どういうわけか、小百合は高校生時代に魂が送り戻されたらしい。ならば今度は本当の幸せが得られるように、人生のレールを切り替えよう!
まず孤独にならないよう他人を尊重し、きちんと人間関係を結んで友達を作ろう。そしてバブル崩壊に備え、父母には資産の無駄遣いをさせない。食べ物は粗末にしないし、健康にも気を付けるべきだ。etc、etc…
かくしてタイムリープした元・傲慢お嬢さまが、女子高生のうちから充実した老後を目指すシルバープランに全力をかける生き直しの物語が幕開けるのだった。
SFにせよファンタジーにせよ、人生をやり直す趣向の作品には「叶わなかった望みを実現する」「しくじりをリセットする」など強調される切り口がある。
本作の場合は、小百合が徹底的に改心して「自分はなんて悪いことをしてきたのか」と懺悔の視点を重ねていくことで、チャンスを得た喜び以上に、罪を償おうという切実な気持ちが強調されるのが特徴。
一度目の人生では酷いイビリをした相手に必死の形相でくらいついて親切に接しようと努力する流れなど、読者からすると「ここまで申し訳なく思ってるんだから報われてもいいよな……」と肩をもちたくなってくるよう仕立ててあるのがうまい。
さらに、そこから派生するもうひとつのポイントも見逃せない。周囲からすると小百合がどうしていきなり良心的な行動をとるようになったのか分からないため、いい子として行動すればするほど誤解が生じてしまう可笑しさと悲しさが展開の軸になるのだ。
自分が悪い生徒だったと担任の先生に泣いて謝れば、嘘泣きで先生を悪者にする気かと勘繰られ。本来はライバルだったクラスメイトに友達としての交流を求めれば、慇懃無礼なナメた態度でケンカを売っていると解釈され。いじめられっ子を助ければ舎弟にするつもりだと恐がられ……。
つまりはアンジャッシュ的な勘違いコントの面を備えているのだが、先述のとおり小百合がとにかく重く激しい自責の念を抱えているので「本当はもういい子になってるのにかわいそう!」と感じさせるバランスが絶妙なのである。
タイムリープから間もない時、小百合が路上の屋台でタコ焼きを買い食いして美味しさに泣くほど感動する場面がある。
そこだけならお嬢さまと庶民的な食べ物のギャップでコミカルになりそうな図だが、“極貧の飢えと孤独を経験したから”というヘビーな前提ががっつり強調されて、そりゃー泣くよな……と思わずホロっとさせられる。
そしてその細かい心情のアヤは(現時点では)劇中の他人には分からず、われわれ読者だけが理解者となれる。だから応援したさが募っていく。そういう作品なのである。
©林達永,李惠成/キルタイムコミュニケーション