2020.05.20

ふわふわ金髪ちび先輩と、黒髪ロングのっぽ後輩の現実逃避の突発旅行!『二人エスケープ1+2』田口囁一【おすすめ漫画】

『二人エスケープ1+2』

女子2人、仕事を置いて現実逃避の突発旅行へいざ出発

追い詰められればられるほど、人は「遠くへ行きたい」と逃避したくなるもの。その感情に対して「行けば?」と一緒に行動してくれる人がいたら、どんなに素敵だろう。いやまあ逃避なので問題解決はしてないけれども。

作者・田口囁一先生がコミティアで発表した2作品を一冊にまとめた短編集。

今年は諸事情で開催できなかったコミティアを補うがごとく、ネットでは「エアコミティア」という、オンラインで創作漫画を発表するムーブメントがあった。それに合わせての刊行だ。書店での販売はないので、Kindleで入手してほしい。

漫画家の後輩は、締切が来週に迫っているのに何も書けず、心が限界状態。ペンが全く動かずポロポロ涙がこぼれるばかり。そんな彼女に、金髪碧眼の小柄な先輩が現実逃避のお付き合い。

お酒を飲んで、勢いでホテルを取って、そのままグランクラス(JRの特別座席)で移動。後輩は爆睡したまま、気がつけば金沢に到着。もちろん仕事的には、とてもやばい。

だが先輩は言う。「いいか 現実逃避のコツは 振り返らないことだ」

何もかもをかなぐり捨てて現実逃避することで得られるものを描いた作品。金沢に着いた2人は仕事を一切忘れる決意をする。

「この旅で起こることは多分 お前の仕事の役にはなーんも立たない」という先輩の言葉が印象的。ものづくりをしていると見るもの全てから何かネタにしようとしがちだが、最初からそれを考えていると心は休まらない。

「これは役に立たない」と割り切ってからの「仕事かもしれないけどやりたい」は、プラスに動く思考だ。

やらなきゃいけないことがあるのに逃げた、だけだとマイナスの後ろめたさしか残らない。けれども、役に立たないところにいる自分が何か発見した、ならテンションはあがるし得るものも大きい。

仕事から逃げたはずの後輩も、なんだかんだでついつい資料写真を撮ってしまうが、その顔は自宅で悩んでいる時と異なり晴れやかだ。

何もかもを投げ捨てて現実逃避するのは、一人だと非常に難しい。未来のあれやこれやの心配があるからだ。しかし先輩のように背中を押してくれる人がいたからこそ、後輩は意外にも逃避に飛び込めてしまえた。

先輩が無職で、明日を憂うような荷を負っていない、という割り切った設定もいい。なぜ一緒に住んでいるのかはわからないのも含めて。

2話では恐竜が大好きな先輩が後輩を、後輩を福井県の恐竜博物館に連れて行く。こちらは金沢と違って、本当に何も漫画の資料にはつながらない。しかし2人の感受性がもりもりと蘇ってくる様子が描かれる。多少エモがバカになって変なところで泣いちゃうのも、全力現実逃避しているからこその心の栄養だ。

女の子2人が旅行してまわるだけでもきっと楽しいだろう。しかしストレスから逃避しているというエッセンスがあるからこそ、この作品では普通より貪欲に楽しもうとする姿を見ることが出来る。

ふわふわ金髪ちび女子と、黒髪ロングのっぽ女子の組み合わせは非常に絵になるので、もっと2人の関係を見てみたい。後輩は漫画家という年中なにかしらのストレスにさらされていそうなお仕事をしているので、これは四季折々、日本津々浦々、あらゆるところに逃避しまくってほしい。

続編あるいは連載を期待したい作品だ。

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たまごまご

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