2020.06.13
ディズニーのあの「スティッチ」が戦国時代に現れた!?『殿さまとスティッチ』和田洋人【おすすめ漫画】
『殿さまとスティッチ』
世界レベルの大企業は自国のコンテンツを素のまま諸外国へ配給するだけでなく、送り先に合わせて形を整えるローカライズにも気を配るもの。
例えばウォルト・ディズニー社は日本法人のウォルト・ディズニー・ジャパンを介して、しばしば独自のテレビアニメを製作することがある。人間文化を知らないロボットお嬢様のボケ倒しがチャーミングな『ファイアボール』(第1期2008)、マーベルヒーローを東映アニメの制作でキッズアニメ化した『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』(2014〜15)。
そして、忘れてはならないのが映画『リロ&スティッチ』(2002)からのスピンオフ『スティッチ!』(第1期2008〜09)だ。
宇宙人の科学者が違法実験で造り出した暴れんぼうな人工生物スティッチが地球の少女と家族の絆をむすび、自分の居場所を探していく……という趣向を引き継ぎながら、舞台をハワイから日本の沖縄へと移している(時系的には『リロ&スティッチ』の後年譚)。
オリジナルキャラクター以外にも沖縄の妖怪キジムナーが登場するなど、ローカライズの面白みがいろいろと味わえるシリーズで、三期続いた。
──で、ようやく本題。今回ご紹介するのは、そんなディズニー公認のスティッチ関連作で、「ローカライズにもほどがある!」とのけぞらせるインパクト抜群なマンガ『殿さまとスティッチ』だ。
時は戦国時代。天下取りをかけた戦が各地で繰り広げられるなか、ひときわ情け容赦なく敵を滅ぼす覇道の武将がいた。その名は大和命尊(やまとめいそん)。かぎりなく織田信長っぽいが信長ではない、ちょっと信長なお殿さまである。
ある時、命尊が敵城を焼き落そうとした矢先、天空から謎の物体が落ちてきて戦場は大混乱。巻き起こる煙のなかからひょっこり出てきたのは、青くてちんまりした体につぶらな瞳、牙の生えそろった大きな口、左右に広がる耳などなど特徴豊かな異生物。
そう、われらがスティッチであった。
もしもスティッチが不時着したのが地球は地球でもハワイではなく、沖縄でもなく、そもそも現代ですらなく、戦国乱世のまっただなかだったらどうなる!?
いやー、こんなんもう設定の時点で勝ちでしょう。
見どころは、やはりスティッチと戦国の組み合わせそれ自体だろう。まず宇宙船から飛び出すエイリアンが刀や槍をもった武士たちに囲まれるというSF×時代劇の眺めが刺激的だが、ここで注目したいのは情緒的な側面だ。
オリジナルでは、ものを壊すことしか知らないスティッチが、家族愛あふれる幼い少女に影響を受けるところに肝があった。しかし本作の場合、むしろ地球人の側こそが破壊と殺しにまみれた荒々しい存在で、それがスティッチとふれあうことで可愛い・いとおしいというソフトな感情を初めて芽生えさせていく。ある意味、構図をひっくりかえしているわけだ。
宇宙人の概念なんてない時代であるうえ、まず言葉が通じないのでコミュニケーションがズレ続ける殿さまとスティッチ。時にはスティッチに不満を抱かせ怒らせてしまい、必死に機嫌をとって遊び戯れようとする殿さまの姿は毎回涙ぐましくも可笑しい。それでいて部下には威厳を保とうとするので、微妙にツンデレっぽくなるのもポイントだ。
なんというかもう、色々と「その手があったか〜〜」と感心しきりになる異色のコミカライズになっている。
ちなみに本作は講談社「コミックDAYS」でWeb配信されているのだが、そこではところどころ、スティッチが実際に動くアニメーションがGIF動画表示で織り込まれているコマがある。
単行本でチェックする予定のひともWeb版で一見しておく価値ありだ。
©和田洋人/講談社