2020.06.29
【インタビュー】『見える子ちゃん』泉朝樹「最初から今まで、ずっと読者に支えられてきた作品」
シリアスな話もあるけど、本質はやっぱり「ホラーコメディ」
──どのキャラクターも基本的にはいい人たちですが、遠野善は少し毛色が違いますよね。2巻のラストで再登場したときは驚きました。
泉:初登場は、第4話の捨て猫の回でしたね。あの話はあれで完結していますけど、遠野善はまたどこかで出したいとずっと考えていました。単発で終わらせるにはもったいないキャラクターだなと。
──単行本3巻は、その遠野善を中心にストーリーが進んでいきます。
担当編集:『見える子ちゃん』はヤバいやつの怖さがセールスポイントですけど、人間の本質的な怖さも描けたら作品の幅が広がりそうですねという話を泉先生としたことがありました。3巻のエピソードは、そこから広げてもらった内容になります。
泉:遠野善というキャラクターは、最初はもっと純粋な悪役にするつもりだったんですけど、描いているうちにだんだん愛着が湧いてきてしまって、「やっぱりただの猫好きにしよう」と思ったんです。なので担当さんには迷惑をかけましたが、当初の予定からはだいぶ展開が変わりました。
だけど、それだけでは終わらせたくない、読者さんをいい意味で裏切りたい気持ちもあって。最終的に、いいやつなのか悪いやつなのかすらよくわからないキャラクターになってしまいましたね。
──まさに裏切られました。猫を助けたシーンで「こいついいやつじゃん」と思ったのですが、まさかラストであんなオチが待っているとは……。
泉:単行本3巻の描きおろしは、ヤバいやつは出てこないのに一番怖いと言われたことがあります。
ただ、遠野善の一連のエピソードは、「読むのがつらい」「マンガであっても猫がひどい目にあうのはかわいそう」と思っていた読者さんもいたみたいで……。その方々には申し訳なかったですけど、ワタシがいま描きたいのはこれなんだ、だから最後まで描かせてくれ! という気持ちで描ききりました。
──『見える子ちゃん』は「ホラーコメディ」と銘打たれている作品ですが、最近はシリアスな話も増えてきていますね。
担当編集:僕は泉先生の前の作品も拝読していて、シリアスなストーリーものが描ける演出力も持っている方だと感じていました。その実力を3巻では存分に発揮していただけたと思っています。
とはいえ、あくまでも『見える子ちゃん』はホラーコメディなので、これから完全にストーリーマンガにシフトしていくわけではありません。その点はご安心ください。
泉:やっぱり『見える子ちゃん』は、かわいさと怖さとギャグが融合した作品だからこそ読者さんに受け入れてもらえたんだと思うので、ただ怖いだけのマンガになっちゃうのは少し違うかなと。
基本的にはホラーコメディでありつつ、ときには日常回があってもいいし、ガチホラーの回があってもいいし、ヤバイやつ同士のバトル回があってもいい。そのときワタシが描きたいものを描く、ライフワークのような作品に育てていきたいと考えています。
──仰るとおり、『見える子ちゃん』にはコメディ回もあればホラー回もあり、ときに家族愛を感じる回もあります。特にお気に入りのエピソードはありますか?
泉:色々な話を描きたいと言ったあとですけど、Twitterに投稿した第1話は特別ですね。4ページで『見える子ちゃん』がどんな作品なのかすぐにわかってもらえる、名刺代わりの話にできました。
もうひとつは、第11話の神社にお参りする回。ハナがのんきに映画の話をしている後ろでバケモノたちが戦ってて、みこだけがそれに気づいてあたふたしてるというギャップが面白い。あの回から登場した2匹のデザインも気に入っています。
──度々みこを助けてくれている2匹ですね。あれは、猫の妖怪なんでしょうか。それとも狐?
泉:何なんでしょうね……? 猫に見える方にとっては猫なんだろうし、狐に見える方にとっては狐なんじゃないかと。
──あえてぼやかしているということでしょうか。
泉:そうかもしれません。作中に出てくる向こう側のやつら──ワタシは「ヤバいやつ」って呼んでますけど、あいつらだってそもそも幽霊なのか妖怪なのか神様なのかよくわからないですし。
ホラーマンガの面白さって、わからないところにあると思うんです。わからないからこそ恐怖を感じたり、逆に何度も読み返したくなったり、考察したくなるんじゃないかと。
──ちなみに、「ヤバいやつら」の中で他に好きなものは?
泉:第15話に出てきた斧持ってるやつは好きですね。あいつのフィギュアがあったらほしいくらい(笑)。ああいうダークヒーロー的な造形が大好きなので、怖いやつだけじゃなくカッコいいやつをこれからも描きたいです。
マンガ家には、「なりたい」じゃなく「なるもの」だと思っていた
──絵を描き始めたのはいつごろからですか?
泉:物心ついたときにはすでに何かしら描いてた気がします。2~3歳のころに、親がおもちゃの代わりにノートと鉛筆を与えてくれて、それでずっと絵を描いていました。
──親御さんも絵を描くのが趣味だったり、マンガをよく読まれたりしていたんでしょうか。
泉:いえ、むしろ親は全然マンガを読まない人で。何か描かせていればおとなしくなるだろうくらいの気持ちだったんじゃないかと。
ましてや、自分の子どもをマンガ家にしようとは思ってなかったはずですけど、好きなだけ絵を描かせてくれる環境だったのはありがたかったですね。あのころの経験が、今この仕事ができている原点になっていると思います。
──子どものころはどんなマンガを読んでいましたか?
泉:小学校低学年のころは、「コミックボンボン」や「コロコロコミック」を読んでいました。連載作品のマネをして、ポケモンとデジモンとたまごっちが同じ世界観でバトルしてるようなカオスなマンガを自分でも描いてましたね。
それで、小学3年生くらいから教室内で連載するようになりました。といっても、私物のノートに描いたマンガを友達に見せていただけなんですけど、1冊しかないから「お前は月曜、お前は金曜な」という具合にワタシが読む曜日を指定して。
──そこがマンガ家としての原点だったんですね。
泉:本当にずっとマンガを描いていたので、将来はマンガ家に「なりたい」じゃなくて「なる」ものだと思っていました。なれる実力があると思っていたわけではなく、マンガ家以外の仕事をしている自分が想像できなかったんです。
──現にこうしてマンガ家として活動されているわけですから、適性があったのだと思います。
泉:ありがたいことに、タイミングや縁に恵まれました……。いま思えば、戦場に裸の状態で突っ込んでいくような無謀さでしたね。
──奥さんのいずみえも先生もマンガ家ですが、出会いにもマンガが関係しているのでしょうか。
泉:出会ったのは高校1年でしたが、そのとき奥さんはまだマンガを描いてませんでした。ワタシが描いているのを隣で見ていて、「面白そうだから私も描いてみる」って言い出して。
なのに、マンガ家デビューしたのは向こうのほうが早かったんですよ。なんであとから描き始めたのに先にデビューするんだ! って(笑)。ただ、そのときの悔しさが、ワタシも絶対デビューするぞという原動力になったと思います。
──インタビュー冒頭で、『見える子ちゃん』が生まれたきっかけに奥さんの助言があったと仰っていました。反対に、泉先生が奥さんにアドバイスをすることもありますか?
泉:奥さんはネームを描くのがあまり得意じゃないみたいで、コマ割りや構成についてアドバイスすることはよくあります。
何せ学生時代からの付き合いで、どんな表現がしたいか、何が得意で何が苦手かなどほとんど共有しあっていますから、ワタシも奥さんもマンガに関する相談は担当さんより先にお互いにすることが多いです。日常生活においても仕事においてもかけがえのないパートナーですね。
──ご自身の作風に影響を受けたマンガはありますか?
泉:皆川亮二先生の『ARMS』や、弐瓶勉先生の『BLAME!』の影響は確実に受けていると思います。弐瓶先生のマンガを初めて読んだときの衝撃は大きかったですね。中1の多感な時期に出会ってしまったというか……。
他には、林田球先生の『ドロヘドロ』も好きでした。ワタシも『見える子ちゃん』の前はバトルものを描いてましたし、カッコいいクリーチャーが出てくるダークな雰囲気の作品が好みです。
あと、いま挙げたマンガって基本的にコマ割りが四角なんですよね。斜めのコマやぶち抜きが使われていないのがシンプルでカッコよくて。『見える子ちゃん』のコマ割りがだいたい四角なのも、無意識に影響を受けているからかもしれません。
──『見える子ちゃん』のホラー要素という観点ではいかがでしょうか。
泉:ホラーマンガはそれほど詳しくないのですが、学生時代に奥さんの家に遊びに行ったときにいくつか読ませてもらったことがあります。印象に残っているのは中山昌亮先生の『不安の種』や、呪みちる先生の作品集ですね。
特に『不安の種』は、読者さんにも似ていると言われたことがありました。もちろん真似しているわけではないですけど、生理的に怖さを感じさせるデザインとか、ページをめくったら不意打ちで驚かせてくる演出とか、ワタシの中における「ホラーマンガとはこういうもの」という価値観の基礎にはなっていると思います。
──最近はどんなマンガを読まれていますか?
泉:今はあまりマンガを読む時間がなくて、原稿の合間にゲームをしていることが多いです。だけど、『僕の心のヤバイやつ』は単行本をずっと買って読んでますね。
──「僕ヤバ」も、今回のTSUTAYAコミック大賞を受賞していますね。
泉:山田のお菓子ばかり食べてるところとか、ワタシもお菓子好きなので「わかるぞ山田」って思いますし。市川の陰キャぶりも、ワタシも学生時代そっち側の人間だったので「わかるぞ市川」って(笑)。この先ふたりの関係はどうなるんだろうとワクワクしながら読んでいます。
──お子さんもいらっしゃるとお聞きしましたが、もうマンガを読まれたりしていますか?
泉:はい、娘が2人いて、上の子は5歳なのでマンガも読むようになりました。というより『見える子ちゃん』を読んでます。キャラクターの中ではユリアが好きみたいです。
──『見える子ちゃん』読んでるんですか……! 「ヤバイやつら」を見て怖がりませんか?
泉:それが、わりと平気みたいなんですよ。ワタシが今こういうマンガを描いていて、奥さんも昔ホラーマンガ家で、別に遺伝しているわけではないと思うんですけど。
担当編集:子どもって、案外オバケとか怖がらなかったりしますよね。単行本1巻が出たとき、角度によってヤバイやつが見えたり見えなかったりする販促パネルを作ったんですけど、お子さんたちはむしろ面白がってるみたいでした。
有隣堂横浜駅西口コミック王国さんにて展示して頂いてるパネル、見る角度でヤバイのが見えたり隠れたりするお茶目パネルとなっております。あ、発売中と表記されてますが発売日は22日になります。何卒よろしくお願いいたします(΄◉◞౪◟◉`)
見える子ちゃん1巻 amazon https://t.co/mP9sEM3bhq pic.twitter.com/KqjSYbS3Kc
— 泉【見える子ちゃん③巻発売中】 (@izumi000) April 18, 2019
泉:たぶん、大人が怖がるから子どもも怖がるようになるんじゃないかという気がしています。大人がテレビのホラー番組で怖がっているのを見たりして、これは怖いものなんだと学習していく。何も知らない子どもの目には、ヤバいやつらも違う見え方をしてるのかもしれませんね。
──それでは最後に、読者の方々へのメッセージをお願いいたします。
泉:『見える子ちゃん』はTwitterから始まった作品ですし、TSUTAYAコミック大賞もTwitterで読者さんが投票する賞ということで、つくづくTwitterに縁があるなと感じています。特に、第1話に反応がもらえていなかったら今ごろどうなっていたかわからないので、連載前から読んでいただいている方には感謝しかありません。
昔からの読者さんはもちろん、今回の受賞をきっかけに『見える子ちゃん』を知った方に対しても面白いマンガを描いてお届けしていきたいと思っています。今後も応援よろしくお願いします!
──本日はありがとうございました!
作品情報
第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞
\「第4回みんなが選ぶ #TSUTAYAコミック大賞」受賞作品発表!/
7位は泉朝樹 @izumi000 先生『#見える子ちゃん』✨https://t.co/OP0A3RqbZV pic.twitter.com/jEy5Wx5TPp
— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) June 17, 2020
『見える子ちゃん』がトップ10にランクインした『TSUTAYA×comicspace「第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」』は、次にヒットする「ネクストブレイク作品」を読者投票で決めるマンガ賞です。結果発表ページでは、大賞作品や上位10タイトルに加え、一緒に投票されたタイトル、投票が多かった人気作品をご紹介しています。
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— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) June 29, 2020
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