2018.06.27
【インタビュー】『映像研には手を出すな!』大童澄瞳「そもそも僕にはマンガ的手法のいろはがひとつもない」
自分にとっての「最強の世界」を空想してデザインする、浅草みどり。アニメーター志望の読者モデル・水崎ツバメ。プロデューサー気質の、金森さやか。この女子3人組がアニメ制作を志す様子を描いた青春冒険録、『映像研には手を出すな!』。
本作は、『ブロスコミックアワード2017大賞』『俺マン2017第一位』『マンガ大賞2018ノミネート』といった数々のマンガ賞において高い評価を得るなど、今、各所から大注目されています。そこでコミスペ!は、第3巻が発売されたばかりの大童澄瞳先生にインタビューを敢行!
大童先生の創作の原点や、独特のパースを使ったセリフや背景など、こだわり部分を徹底追求。物語の内容についても、3巻の新キャラ・百目鬼をはじめ、細かなストーリーにまで及ぶ根掘り葉掘りの質問責めで、読みどころたっぷりのロングインタビューとなっています。ぜひ最後までご覧ください!
大童澄瞳:東洋美術学校絵画科卒業後、独学でアニメーションを学ぶ。その後、コミティア111にて漫画を製作し出品、スピリッツ編集員に声を掛けられ、2016年9月号『月刊!スピリッツ』(小学館)から連載されている『映像研には手を出すな!』でデビュー。
(取材・文:かーずSP/編集:コミスペ!編集部)
メカや設計図は『ドラえもん』から。『映像研』制作秘話
──まず、『映像研には手を出すな!』の連載がスタートしたきっかけから教えてください。
大童澄瞳先生(以下、大童):もともとアニメーションが作りたくて個人制作をしていたんですけど、2年間で2分ぐらいの動画しか作れませんでした……。ただ、1シーンをこんなに枚数描かなきゃいけないんだったら、絵コンテをマンガ風に分割すれば、その時点で作品になって効率がいいのではって思ったんです。
それで同人誌を描いてコミティアに出たら、今の担当編集さんにスカウトされた、というのがきっかけです。
──「アニメ制作」を題材にしたのもそれが理由でしょうか?
大童:高校の部活で実写映画を撮っていた経験もあるので、最初は実写の予定でした。でも編集さんから「実写よりもアニメの方がとっかかりがいい」と言われて、1年近くネームのやり取りをしながら詰めていったのが今の『映像研』になりました。
──タイトル名を『映像研には手を出すな!』にした理由はなぜでしょうか?
大童:僕はこういう文章系のタイトルが好きなんですが、担当編集さんは「もっと短い方が覚えやすい」とあれこれ話し合いました。
でも、古い映画のタイトルってかっこいいじゃないですか。『北北西に進路を取れ』『俺たちに明日はない』『アニーよ銃を取れ』『ダイヤルMを廻せ!』とか古い映画のような、そういうカッコよさに憧れて『映像研には手を出すな!』にしました。
──「手を出すな」っていうことは、やばい奴らってことですか?
大童:そうですね。1巻から柵をへし折るとか、壁を壊すとかしていますし、これからも徐々に暴れていって、周りの人間からそういう認識になっていくんじゃないでしょうか。
それから、「生徒会には手を出すな」ってセリフの通り、生徒会もそれなりにやばい奴らです。
──設計図(図解ノート)も本作の魅力です。緻密な科学考証や知識は、どうやって得たのでしょうか?
大童:『ドラえもん』ですね(即答)。『ドラえもん』には図解説明がけっこうあるんですが、『ドラえもん大百科』ではアニメオリジナルのひみつ道具も更新されていて、中身もどんどんバージョンアップされているんですよ。
なので、『映像研』のメカが宮崎駿さんっぽいと感想をいただくこともあるんですが、第三者的な視点から見ればわからなくもない。けど、実は『ドラえもん』からきています。『映像研』とかどうでもいいから、とりあえず皆さんも『ドラえもん』を読んでください!
背景が隠れて邪魔だったから、吹き出しを斜めにした
──いやいやどちらも読みましょうってことで! 以前『空挺ドラゴンズ』の桑原太矩先生にインタビューをした時に、本作を「構図の作り方がマンガっぽくなくて、アニメっぽい」と評されていました。マンガ的手法(動線、効果線、残像など)を使わないのはどうしてでしょうか?
大童:動線はたまに使うので全くないわけじゃないんですけど、そもそも僕にはマンガ的手法のいろはがひとつもないんです。
長いマンガの歴史で積み上げられてきた手法は、書き手から読み手に同じ共通言語として伝えられるので、偉大な発明だと思っています。
でも、それに乗っかると、自分の中にある表現が削られてしまう。要するにシャッシャッって線を引くと、直ちにマンガを指す証拠にもなってしまいます。それが自分のマンガには相応しくないので、使わずにやれるんだったらそれでいいかなと思っています。
──ピントやパースをつける映像的な描画も独特です。背景の柱を曲げて奥行きをつけていることを他所でおっしゃっていました。
大童:映像的な手法は、使えるんだから使ってもいいし、使わない理由は別にないっていうだけのことです。マンガの背景の描き方にも、過去のノウハウが積み上げてきたルールがあるんですよ。連載し続けるための効率的に組み上げていく背景の描き方を、先達が築いています。
でも『映像研』の場合、作品の本質に近い中枢部分に「背景」が大きな要素になっています。なので、自分なりの描き方をするのが一番しっくりきます。
ピントを使う時も、キャラクターの表情で読者に訴えることは考えず、とにかくいい絵が欲しくて使用します。
──吹き出しに角度をつけて立体感を出す手法も話題です。どのような着想からこの発明を思いつかれたのでしょうか?
大童:よくTwitterで「アニメ化したらこの表現ができなくなる」って言われるんですけど、これは音を表現するためにこうなってるので、音が出せるなら、わざわざこういう吹き出しを使う必要はないってことです。
──音を視覚的に表現していると。
大童:一番最初は吹き出しが邪魔だなぁと思ってやりました。画面のパースを構成している要素──下に向かって伸びている柱とか、壁の模様、床のフローリングの線。それが平面的な吹き出しで隠されるのが嫌なんです。
吹き出しが大きいと空間が把握できなくなってレイアウトも崩れちゃうので、それだったらセリフにパースをつければいいという考え方です。
──たしかに、斜めにすることで吹き出しの表面積が減りますね。
大童:角度をつけて読めるのか心配だったんですけど、看板とか斜めでも読めるじゃないですか。読みづらいって人も一定数いるんですけど、それだったら読まなくていいです。
──そんな挑戦的な言い方をしなくても(笑)。
大童:いえ本当に。斜めの吹き出しはオフの音といいますか、重要じゃないセリフなので、読まなくても話は理解できるようになっています。重要なセリフはちゃんと正面を向くように、流し読みできそうなセリフだけパースをつけることもあるってことですね。
──キャラクターの描き方も独特ですよね。
大童:僕の描く人間はああいう感じですけど、それでも劇画寄りだと自称しています。「スイカを咥えてるみたいな口」って言われることがあるんですけど、目や口の造形をデフォルメして、立体感だけデフォルメしていないから、そう言われるのかなって。
フィギュアって目が大きくて、鼻が小さくてマンガ的にデフォルメされた絵を、立体的な整合が取れた造形にしていますよね。そういう意味でフィギュアっぽいとか3Dっぽい絵って、指摘されるのかもしれません。
──旧型の扇風機、ブラウン管テレビの裏側など、小道具一つ一つを綿密に調べたり考証しながら描かれているとおっしゃっていました。人物と同じか、それ以上に背景にこだわるのはなぜでしょうか?
大童:ひとつは自分が、悪い読者・視聴者だったからだと思います。例えばマンホールが丸く描いてあって茶色く塗られていて、金属的な光沢が塗られているだけの描写があると、「いや、違うよ」って言いたくなってしまいます(笑)。
穴が開いてないと鍵のような鉄棒で引っ掛けられないので、そのマンホールをどうやって開けるんだって思ってしまう。マンホールも縁があって内側にはめてあるので、線は二重になってないといけません。縁の部分も外側はアスファルトに隣接しているんで、多少溝がないとおかしいです。
マンホールの下もただストンと落ちているわけじゃなくて、台形に広がっていて、しかも中心軸に対して均一に広がっているわけではなくて、片側に広がったりしているんです。
地震とかで地面が隆起して出てくるシーンでも、適当な描写だとマンホールの穴がボコって開いてそれだけなんですけど、本来ならばコンクリート下がそのまま地表にドボンとせり上がって、歪な形で斜めに突き出していないとおかしい。
そういうのを見ると「調べないで描いたのか」って責めてしまう、意地の悪いユーザーだったので、自分ではちゃんと描かざるを得ないんです。
──自分に嘘がつけないんですね。
大童:もうひとつの理由としては、読者の中にはマンホールを設計したり作業している方がいるかもしれないと思うからです。電気工の方が読んだら蛍光灯の細部が違うとバレますし、ちゃんと描かなきゃいけません。
それでも映像研の倉庫部室でも波板の波打ちがあまりにも細いとか、僕の中では色々悔しい部分があるんですけど。
──そこまで細部に時間をかけすぎることで、時間が足りなくなりませんか?
大童:足りなくなります。白く抜けちゃっている背景もあって、心苦しくはあるんですが、それはもう宿命と諦めるしかありません。単行本の加筆修正もするんですが、次の連載が控えていると、そこまで時間は割けないので。
最初は描き溜めもあったのでこだわりも深くできたんです。でもある一定の評価を受けると、「まあこの辺でいいか」って自分で妥協して、こだわりがどんどん削がれてきているのが辛いです。
「こうしなきゃダメだろ、ちゃんと描けよ!」って自分の中にある怒りを、僕は悪魔って呼んでいるんですけど、自分の中の悪魔が浄化されて、どんどんヌルくなってしまうのが怖いんです。
──マンガを描いていて楽しい点はありますか?
大童:浅草の可愛い顔が描けるのは嬉しいです。他にはいい背景とか良いショットが描けるとすごく嬉しくなります。3巻だと、これとかいいですね。
中心に金森がいて、そこにパースが向かっていて、手前と奥の光のコントラストもあります。金森が全身でドアを開けているような動きも可愛くて、これは上手く描けました。
──ご自身の体験談が反映されたシーンはありますか?
大童:体験談というより、12話の「ロボアニメは、やめよう!!」って浅草が言い出すくだりは、マンガを描きながら自分が思っていたことです。
このまま作中にロボットを出したら、ロボアニメの描写で絶対文句つけられるじゃんって。それでこのテーマ自体をやめたい想いが「ロボアニメは、やめよう!!」ってセリフになったので、これは自分自身の心の叫びです。
だからそのあとの「(ロボアニメは)何をやっても非の打ち所がある」っていう水崎のセリフは、自分を擁護している言葉でもあります。
子供時代の空想ごっこが、浅草の中に流れている
──浅草みどりにはモデルやモチーフとなる人物はいるんでしょうか?
大童:引きこもっている時の、弱い自分です。人が怖いとか、人と話すのがめんどくさいとか気が小さいとか。
──1話のアニ研に行けない浅草みたいな。でも今は社交的に見えます。
大童:最近は矯正しましたけど、基本的には引きこもっている時期が長くて、浅草に対する愛情とか愛着はすごく強いんです。
──ぬいぐるみの吸引もご自身のことだと語っておられました。
大童:はい、実体験です。わかりやすいニュアンスだと、干したての布団の匂いを嗅ぐ感覚に近いです。口に柔らかいものを当てたりすると落ち着くのを、僕はぬいぐるみの吸引と呼んでいます。
──浅草のような想像力たくましい少年時代を送ってらっしゃったとか?
大童:そういうところを掘り返しています。「幼少期にこういうことがあったよね」って思い出とかバカ話を語ったノスタルジーものは多いんですが、それとは別のベクトルで描きたいと考えていました。
布団に突っ伏してダンジョンに見立てるとか、山に見立てて妄想するような一人遊びって意外と他の作品で触れていることが少なくて、それが浅草の中に流れています。
──浅草は、「オープンセサミ」「あっと驚く為五郎」など古いネタも知ってますね。
大童:『映像研』は2050年代の話でして、古い流行語が掘り返されて使われていることがあってもいいと思っています。
今でいう「エモい」って言葉が2050年代に使われている可能性は低いです。でもその古さを表すために「エモい」を『映像研』のキャラが喋っても意味はない。それだったら「あっと驚く為五郎」にしたほうが、時代が巡っている感じがするんですよ。
映画部の経験や家庭のお小遣い制が金森の元になった
──プロデューサー気質の金森さやか。どういった経緯から生まれたのでしょうか?
大童:金森は、言うならば僕の中の外交官。映画部をやっていた時の経験がキャラクター造形の元になっています。
学校の卒業後も映画部にインストラクターとして参加していたときに、教師と喧嘩して「俺はもう部活を辞める!」って生徒がいたんです。
彼は脚本と監督を担当していたので、僕が「わかった、お前は映画部をやめていい。その代わり俺が雇うから」ってWiiUとSplatoonを買い与えて、「これでお前は俺が雇ったから、お前は映画を撮れ」って。
──そんな熱いやり取りが。
大童:他にも役者をやりたい人はあまりいなくて、いろんな人を優しく説き伏せてやってもらいました。そこでスタッフのコントロールや指揮系統、お金の使い方を経験したことが金森の造形になっています。
──人や金のマネージメント、まさに金森の役割をされていたんですか。
大童:僕の家はお小遣い制だったんですが、洗車をしたり雑草を刈ったり、お手伝いをしたらお金をくれるって方針の家庭でした。おじいちゃんおばあちゃんの家だとレートが上がったり(笑)。そうしてお金を稼ぐのが好きになっていったので、それも金森の一部になっています。
──3巻の21話、金森の幼少時代ですね。「良い店なら自然と客が来るなどという考えは甘い!」と力説する金森が印象的な回でした。
大童:自分で宣伝するのがダサいと感じたり、自分からグイグイ行くのは苦手っていうクリエイターもいらっしゃると思います。確かにグイグイ行くことで逃げてしまう読者も一定数いるんですが、モノを売るということは、その逆もあるよと言いたかったんです。
認知度が上がれば上がるほど、作品を読んでくれる人が広がると考えて、この話は描きました。
ツバメのアニメーション哲学は、大童先生の体現
──水崎ツバメはお嬢様で読者モデルで、他の二人と比べて突出しています。ツバメはどうやって決まったのでしょうか。
大童:3人目はクールで物静か、飄々としているようなキャラを最初イメージしていました。でも編集さんから「バックグラウンドでめちゃくちゃ個性がある超お金持ちってどうですか」ってことで、可愛くて明るいキャラクターになったという経緯です。
──大童先生の内面は浅草、外交官は金森。水崎は先生の中にはないタイプですか?
大童:造形的にはないんですが、アニメーションの思想的には僕まんまというか(笑)。
──14話で熱弁するロケットの美学ですね。
大童:はい。アニメーションが話、音、動画などいろんな要素で構成されている中で、僕は「動き」が一番好きで、実写でも良い「動き」を見るだけで泣く時があるくらいなんです。
ロケットも炎が噴射して煙が吹き上げていけば、打ち上げにはなります。カメラ固定で背景をスクロールさせれば飛んでいる描写にはなるんですけど、ロケットの打ち上げのカッコよさって、そういうところじゃないでしょって。
それじゃ本当のロケットのカッコよさは1ミリも伝わっていない。そういうところで僕は興ざめしちゃうので、本当にロケットをカッコいいと思ってるアニメーターに描かせてほしいという気持ちが14話になっています。
──2巻の最後、水崎のお父さんはアニメ作るの許してくれたんでしょうか?
大童:どんな作品でも親を敵にしがちじゃないですか。でも僕はそういうことがしたくなかったんです。水崎の両親はただ子供に構っている時間がなかっただけで、愛情がないわけではない。ただ接する機会がなかっただけです。
両親も表現のフィールドに生きてきた人間ですし、自分の娘に演技の才能があると勘づきますし、心も広い。そういうところで問題として浮き上がってくるのは親ではなく親の取り巻きといいますか、環境が一番問題になってくる。ただそれだけのことにしたかったんです。だから娘のことは応援しているんじゃないでしょうか。
むしろ誤解を生んでしまった、女子三人組の構成
──『映像研』を女子3人にした理由について教えてください。
大童:女女男でも、男男女でもいいなら、女女女でもいいでしょってことで、女の子が描きたかったんです。
「女3人組にしたことで売れようとしている」って指摘もありますが、むしろ失敗したと感じています。女の子がキャッキャ言いながら、日常を過ごしてる可愛さを描くマンガだと思われていて、あ、これは失敗したなって。
──日常系萌えを狙っていると勘違いされてしまった(笑)。
大童:僕の中のプロデューサー的な視点でいえば、女の子の可愛さで売るならもうちょっと描き込んだ方がいいんじゃないのって(笑)。ちなみに僕の設定ではメインキャラで一番美人なのは金森です。
──読者モデルのツバメよりもですか?
大童:ツバメはちょっと可愛い少女系で、美人度だと金森。でも本人が気にしていないんで、ああいう感じになってます。
新ヒロインの百目鬼が、映像研に入部しなかったワケ
──新キャラの百目鬼(どうめき)はどのようにして生まれたのでしょうか?
大童:ここらで音、ここらで新キャラってことで、前から想定していました。音響部ということで分けたのは、『映像研』を3人から4人に増やさなきゃいけなくなるのは描く時に面倒だなって(笑)。
──ぶっちゃけすぎです(笑)。
大童:いくつか理由はあって、アニメ制作の工程で、音をつける作業って後半にならないと出てこないんです。そうすると手持ち無沙汰なキャラクターが発生することになっちゃうので、部活を分けました。
もう一つ、「集団に属さなくても自分一人でやればいいじゃん」って個性の強さを表現できるかなと。映像研にあえて自分から参加しようとしないキャラクターを作るのも一つの正解だと思ったんです。
──百目鬼は孤高というか、マイペースって感じですよね。
大童:社交性がないタイプです。一つの作品に元気なキャラクターが重複してもいいと思うんですが、「内気」って個性は強いから、一人くらいしか出せないんですよ。
バトルものだと主人公とライバルが「やってやるぜ!」的な熱血タイプで複数人出てきている時に、内気な奴が一人いたらシリアルキラーみたいな怖さでキャラが立ちます。『映像研』では、内気タイプが数名いてもいいんじゃないかなっていう実験的なところもあります。
──3巻22話では警備部や強制退学など、芝浜高校のユニークな一面が目立っていました。ああいう賑やかな作風で影響を受けた作品はあるのでしょうか?
大童:『機動警察パトレイバー』や押井監督からです。押井監督のギャグってだいたい思想警察が出てくるんですよ。「押井さんのギャグはちょっとダサいじゃん」って岡田斗司夫さんの番組に出た時に言われたんですが、火炎瓶とかゲバ棒をかぶって闘争するような、あの押井監督のノリが好きなんです。
映像研に警備部が押し入ってくるところは、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の冒頭のオマージュで、素子が外側から撃つシーンとか、色々となぞっています。
──3巻ではここを見てほしいっていうお気に入りシーンを教えてください。
大童:金森と浅草がモノレールに乗り込んだ時の一コマ目です。ここは浅草が小心者で陽気なところが描写されていて可愛いです。
アニメーションの転倒シーンで心が湧いた
──先ほどアニメを個人制作していた話をお聞きしましたが、その辺りをもう少しお伺いできますでしょうか。
大童:中学生の頃からアニメーターになりたかったんです。
例えば、今敏監督の『千年女優』で、雪が降っている中を走って車にぶつかりそうになった時、肘から倒れるところが気になって。『AKIRA』でも、井上俊之さんが描いた、バイクからコケるシーンはやっぱり肘から地面につくんですよ。そういうアニメーター特有の演技があるんだなって気づいて興味を持ちました。
そこから『未来少年コナン』に戻るとか、新しく始まった『エウレカセブン』を見るとか、反復しながら映像表現に傾いていった時期がありましたね。
──やはり、昔から「動き」が第一だったんですね。
大童:はい、リアル系のアニメの動きが好きで、プロペラの回転だけで泣けますね。
そこから高校二年の時に映画部に誘われて、実写映画を撮り始めたんです。編集作業や画面の色味、イマジナリーラインとか色々と学んで、アニメにもつながるだろうと思いつつ、東洋美術学校の絵画科に進学しました。
でも筆が遅くて一枚の絵に数ヶ月かかるのはザラで、卒業制作さえも区切りはつけて提出したんですけど、完成させられませんでした。そこから2年間、アニメを作り続けたんですけどやっぱり完成しなくて、冒頭の同人誌即売会に参加した話に繋がります。
──先日発表していた、ご自身のサークル「科学少女隊」の新作同人誌『Blackblueblue』は、その同人誌の続きなんですか?
大童:いえ、別です。コミティアに当選すれば出られるんですけど、中身はこれからで、まだ落書き本かマンガを描くのかも決まってません。
──結果は大童先生のTwitterで発表される感じですね。『ドラえもん』以外に影響を受けたマンガはありますか?
大童:『それでも町は廻っている』『ネムルバカ』など、石黒正数先生の作品は全部面白いですね。
軽妙な会話というか、会話の選び方がナチュラルな感じがします。もちろんギャグ的なツッコミもあるんですが、不自然な感じがしなくて、キャラクターの思考も自然なところがすごくいい。あとはお話の組み立て方、構造もいいです。
──ほかに今、注目しているマンガはありますか?
大童:入江亜季先生の『北北西に曇と往け』が良いですね。ジムニーの裏側もちゃんと描いてあるんですよ。人間的なキャラクターの掘り下げもすごくいいと感じます。
──やっぱり大童先生にとっては、細かい作画が評価ポイントになるんですね。
大童:そうですね。マンガもアニメもストーリーが頭に入ってくると、後は惰性というか転がるように作品を追っていけるんですが、僕の場合はその転がり抵抗がすごく重いんです。
ジムニーの描き込みとか転がり始めがすごく遅いので、それでも読み続けられるマンガが自分に合うマンガなんだなと感じます。
──マンガ以外のご趣味とか、ストレス解消法は?
大童:庭いじり、ガーデニングです。100円で買ってきたハーブが、思いのほか繁殖力があって、雑草みたいにいっぱい茂ってます。
今はメダカとかカワムツを飼っていて、水槽で生態系を作ろうとしています。あとは自転車に乗ったりもしますね。ストレス解消はガーデニング、寝る、サバゲーに行く、『WorldofTanks』(ゲーム)をやる、などです。
──それでは皆さんへのメッセージをお願いします。
大童:毎度毎度自信はないんですが、もしよければ第3巻よろしくお願いします。雑誌よりも加筆されてますんで注目していただければと思います。ご期待ください。
──本日はありがとうございました!
作品情報
©大童澄瞳/小学館