2018.02.24

【2018年1月】マンガ家が選ぶ 今月の注目! 新連載マンガ

毎月150本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2017年12月11日から2018年1月21日の間に始まった新連載マンガから「マンガ新連載研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『地獄楽』

様々な極刑に処されても死なない超人忍者主人公が、無罪放免を勝ち取るために、新発見された謎のヤバイ島へと冒険に向かう時代劇アクションです。

主人公は忍術を駆使して、常人なら当然死ぬ死刑にも難なく耐え抜いちゃう超人ですが、「それでもヤバイんじゃないか?」と思わせる程に冒険の舞台もヤバく、ハンターハンターの暗黒大陸めいた底知れぬ不気味さがあります。

個人的には、こういう人を越えた能力の持ち主が、さらに人知を超えたヤバイ場所を冒険する「カテゴリの違う超能力対決」が大好きでして、ワクワクさせられます。ハンターハンターも「念能力者」という超能力者が、自分たちの超能力大系を超えた暗黒大陸の謎と危険に挑んでいるわけで、同じ方向性のワクワク感と言えます。

さて、『地獄楽』(賀来ゆうじ/集英社)では幕府の目的は全国から死刑囚を集めて、謎の島へと送り込み、不死の仙薬を持ち帰らせることです。第二話で既に全国から死刑囚たちが選別されて、死刑囚探検隊が作られました。様々な個性と能力を持つ、エキセントリックな死刑囚たちが、謎の島でどんな冒険を繰り広げるのかとても楽しみです!
試し読みはコチラ!

賀来ゆうじ の過去作

『バスタブに乗った兄弟~地球水没記~』

引きこもりの兄貴と、イケメンだが地味に性格の悪い弟サバイバルマンガです。ある日、起きると地球が水没しており、二人はバスタブに乗って母親を探しに行きます。

櫻井先生は前作の『絶望の犯島-100人のブリーフ男と1人の改造ギャル-』にて、主人公が女体に改造されて、100人の性犯罪者が集められた無人島に投げ込まれるという、凄まじい設定のサバイバルマンガを描きました。

前作は、どこを見てもクズ人間しかいないという清々しい作品でしたが、今作『バスタブに乗った兄弟~地球水没記~』(櫻井稔文/双葉社)でもそのスピリッツは継承されており、イケメンの弟は一見まともそうに見えるものの、やはりクズ。それも、読者がギリギリ共感できてしまう……できてしまうんだけど、人として明らかにアウトな範囲で嫌悪感を感じさせてくる絶妙なリアルクズとして描かれています。

弟に比べると、むしろ引きこもりのお兄ちゃんの方がカッコいいシーンもありヒーロー性を感じさせますが、一話ラストでは女の子の死体のスカートをめくってパンツを確認するなどのクズさを描いてバランスを取っており、「シンプルなヒーローは描かないぞ!」という櫻井先生の信念を感じさせます。

また、水没した都市にはサメが跋扈(ばっこ)しており、必死に立ち泳ぎしてる生存者をバリバリ食い殺していくという、昨今のサメ映画ブームへの安易な乗っかり方も魅力の一つです。こういった「安易な乗っかり」や「安直なパロディ」は決して手抜きではなく、キッチュな俗悪美であり、B級C級映画好きの琴線に訴えかけてくる特殊な力があるのですが、これに関してはまた後述。

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櫻井稔文 の過去作

『曖昧な関係』

女性向け雑誌からも一作。恋愛マンガなのですが、この『曖昧な関係』(志真てら子/講談社)が特徴的なのは、主人公のヒロインが「都合の良い女」であること。

主人公は憧れの先輩と一夜を共にするのだけど、先輩には既に彼女がいて、体だけを貪られたことに主人公は憤慨します。……と、ここまでは分かるんですが、主人公は先輩の態度に憤慨しながらもズルズルと肉体関係を続けてしまい、次第に「まあ、いっか」くらいの態度に落ち着いてしまうというですね……。

掲載誌の「ハツキス」主要読者層の対象年齢が高めなので、こういう恋模様もアリなんだと思います。当会の女性会員からは「この主人公はちょっと……」という評価もあり、女性視点からは特に評価の分かれそうなキャラ造形ではありますが、個人的には新しく感じましたし、ヒロインの流されがちな態度もどことなくリアルです。

さらにヒロインとくっつきそうな男の子も追加投入されて、これは今後、余裕ぶっかましてる先輩が、競争相手が現れたことで煽られて主人公にガチ恋する流れになるのでは? なんて色々な妄想も膨らむ、スタート地点の面白い恋愛マンガでした。

『レギオン』

今月の個人的イチオシ作品です。

内容はSFアクションギャグ(たぶん)。これ、シリアスなストーリーなのかギャグマンガなのかイマイチ分からないんですが、作者の過去作(SFコメディなど)から総合的に判断するに、おそらくは狙って描いているギャグマンガ、もしくはギャグ成分多めのストーリーマンガだと判断しました。

そして、ギャグマンガと考えるとかなり秀逸。本作『レギオン』(星男のまご/TORICO)を一言で言うなら、

「もしチェストバスターが家族愛に目覚めたら」

です。チェストバスターってあれです。映画『エイリアン』に登場する、人間のお腹を突き破って出てくるモンスターですね。

本作はおそらく『エイリアン』シリーズのパロディであり、本家『エイリアン』ではグロテスクに人間を殺す無慈悲な寄生生物であったチェストバスターを、「母体への愛」に目覚めさせるというネタをぶっこんでるわけです(でも生まれた瞬間に腹を突き破るので母体は死ぬ)。ラストシーンは『エイリアン3』のシナリオに添いながらも本家と立場を逆転させておりニヤリとさせられます。

また、この作品にも「安直なパロディ」の俗悪な楽しさがあり、「その表現、もうみんな知ってるよ!」「そのネタ何度も見たよ!」というのをポンと投入することでギャグに昇華しています。敵エイリアンを溶鉱炉に落として倒すシーンはすごかったですね!

全体的にキッチュでスラップスティックで、他にない読後感をもたらす唯一無二の作品でしたが、『エイリアン』のパロディであること、ツッコミ不在のキッチュな面白さを追求しているところから、読み手側にかなりの前提知識を求める難しいマンガだとも思いました。掲載媒体の「スキマ」はかなり挑戦していますね。

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『ムラサキ』

今月、当マンガ新連載研究会がもっとも着目した作品がこちらの『ムラサキ』(厳男子/LINE)。LINEマンガで連載中の、コンテンポラリーダンスを主題とした作品です。作者の厳男子先生は以前にも『TOUGEI 闘芸』という陶芸マンガを描かれており、「芸術上の自己表現」という非常に描きにくいテーマを描くことに長けているマンガ家です。

しかし、本作を読んで「面白い」と感じた人も、このマンガの何が面白いのかはなかなか言語化できないと思います。そこで当研究会では、この作品の面白さが何に依拠しているのかを分析し、議論の結果、以下の結論を得ました。

「『ムラサキ』は本来つまらないはずのシーンに画力と演出技法をぶち込むことで、むりやり面白くしている」

つまり、通常のマンガ創作メソッドでは、面白いネタを面白く見せるために画力や演出技法を注ぎ込んで、「面白いものをちゃんと面白く見せる」努力を払うのですが、『ムラサキ』の場合は、「面白くないシーン」「本来は省略すべきシーン」をあえて面白く描こうとします。その結果、マンガとして確かに面白いのだけど、そのシーンそのものは本来面白くないはずで、すごく不思議な感覚を読者に与えることになるのです。

第3話より(©厳男子/LINE)

最も分かりやすいのが第3話のこのシーン。本来であれば真っ先に省略すべき移動シーンに1ページをあえてまるまる使用し、第三話の見せ場としています。ここが見せ場として機能しなければ第3話は別に見せ場を作らねばならず、逆に言えば、こんな何気ない移動シーンですら見せ場にできるなら、一話のうちに見せ場を自在に作ることができると言えます。

しかし、本作は「本来面白くないはずのシーンをむりやり面白くしている違和感」が特徴であるため、そもそもマンガに慣れておらず、違和感を感じ取れない人には伝わらない可能性があります。やはり、かなりの前提知識を求められる作品と言わざるを得ません。

また、読者が単行本を購入する動機は基本的に「作中キャラクターの魅力」であるとされており、その点では『ムラサキ』はやや弱いのがネックです。この異質なエンタメ性が広い層の読者に支持されるのか、購買動機にまで繋がるのか、といった辺りが今後の着目点となりそうです。

試し読みはコチラ!


以上、160作品以上の中からピックアップした5作を紹介いたしました。

他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、2017年12月11日〜2018年1月21日 新連載情報|マンガ新連載研究会から色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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