2020.07.06
【インタビュー】『可愛いだけじゃない式守さん』真木蛍五「自分の中の善意を全部絞り出して描いている」
このマンガに殺意いらないなって
──連載当時と現在とで、変わったなと感じるところはありますか?
真木:初期のころは、式守さんのキメ顔に殺意が滲み出ていた気がします。昔はキャラクターが途中で死んでしまうようなマンガばかり描いていたので、何かしらへの漠然とした怒りを思い浮かべながら描くのが癖になってたんですね。
だけど、2巻あたりで「このマンガに殺意いらないな……」ってようやく気づいて。最近は式守さんの表情もだいぶ柔らかくなったと思います。
──和泉くんをからかった男子たちを睨みつけたときの顔とか、怖かったですよね。
真木:今はやさしさだけで描いてます(笑)。
──単純に変わったところといえば、1話あたりのページ数も増えました。
真木:Twitterマンガから始まった作品なので最初は1話4ページだったんですけど、構成が毎回同じになってしまっていたんです。和泉くんのモノローグから始まって、式守さんのイケメン顔で終わるという。
それだと読者さんに飽きられてしまうから、もっと読み味に変化をつけようと担当さんと打ち合わせして。それで友人たちの出番を増やしたりして情報量が多くなった結果、だんだんページ数が増えていきました。
──2巻の第18話で初めて犬束くんたちの名前が出てきましたが、あのあたりからですか?
真木:厳密には、1巻の豆まきの回だったと思います。名前はまだ出てないけどあの回で犬束たちを出して、そこから意識的に友人たちとの絡みを描いていくようになりました。
──豆まきの回には犬束くん以外にも男子生徒が2人いましたが、最近は犬束くんしか出ていませんね。
真木:他のふたり……そういえばいましたね(笑)。
あの時点では単なるクラスメイトだけど、気がついたら和泉くんの親友になっていそうなのが犬束で、他のふたりはあくまで犬束を介しての友達というイメージで描いてました。なので自然と犬束だけが残った感じです。
──犬束くんも根は真面目な子ですが見た目は派手なので、現実だと和泉くんとは仲良くならなそうな気もします。
真木:犬束の性格を掘り下げるにあたって、こいつは「いいやつ」が好きという価値観を持っている人間なんだと定義づけしました。
だから、地味だろうと不幸体質だろうと関係ないんです。和泉くんは間違いなく「いいやつ」ですから。
──外側じゃなく、人の内面を見られるキャラクターということでしょうか。
真木:そうですね。犬束の親友であるということが、間接的に和泉くんがいいやつであることを証明しているんじゃないかと思います。
──猫崎さんは体育会系の女の子ですが、式守さんのかっこよさと描き分ける上で意識している点はありますか?
真木:猫崎はフレンドリーで明るい女の子というイメージで描いているので、かっこよさはそんなに意識していませんね。
ただ、初期はまだキャラが定まっていないこともあってキューティクルがつるつるだったんですけど、いつの間にかツンツンのトゲトゲヘアーになってて……。そのせいでちょっとワイルドな感じが出ているのかもしれません。
──4巻のおまけページでは式守さんと猫崎さんが仲良くなったきっかけが描かれていましたが、このエピソードはいつごろから考えていたんでしょうか。
真木:あれは完全にあとづけです(笑)。式守さんと猫崎が友達になったのはどのタイミングだろうと単行本を読み返したら、たぶん体育のバスケでガチバトルしたとき(1巻第5話)かなと。1巻の時点ではまったく考えていませんでした。
文化祭編は大きな挑戦だった
──読者人気が高いエピソードは何ですか?
真木:4巻の文化祭編はマガポケのランキングでも1位になったことがあり、反響が大きかったです。それまで長く続いても3話くらいだったのが、文化祭編は初めての長編でもあったので個人的にも印象に残っていますね。
──作中で行われていた「カップルナンバー」(※各生徒に番号が割り振られ、同じ番号の異性を探すイベント。その相手と一緒に写真を撮ると両思いになると言われている)。妙にリアリティがありますが、先生の実体験だったりしますか?
真木:はい、私の学校にも似たようなイベントがあったんです。一緒に写真を撮ったら景品がもらえるだけで、その相手とくっつくというジンクスはなかったですけど、恋愛ごとに積極的な子たちは自主的に連絡先を交換していました。
──ちなみに、先生は誰かと写真を撮りましたか……?
真木:いやぁ。私はそのイベントにあまり興味がなくて、番号が書かれた名札もいつのまにかどこかにいっちゃってました。
──1年生のときの和泉くんと同じですね。
真木:たしかに(笑)。
──その文化祭編で登場した狼谷(かみや)さん。式守さんとは違ったかっこよさを持った女の子ですし、恋のライバルというポジションも本作としては異色でした。
真木:文化祭編にはテーマがふたつありました。ひとつは式守さんと和泉くんの馴れ初めを描くことで、もうひとつが「ふたりの関係性に影響を及ぼす出来事」を作ること。そのために登場してもらったのが、和泉くんに密かな恋心を抱いている狼谷さんというキャラクターです。
最初は私の好きな属性を全部入れようと思い、ツンデレの巨乳キャラにするつもりだったんですけど、デザイン案を担当さんに見せたら「これはない」と言われてしまい。色々あって、式守さん以上にかっこよくて爽やかな女の子になりました。
担当編集:巨乳はともかく、ツンデレという部分が少し引っかかったんです。「式守さん」の世界の人たちはみんな優しくいい人であってほしいので、たとえライバルでも読者に始めから応援してもらえるようなキャラクターにしてくださいとオーダーしました。
──第43話では、その狼谷さんと式守さんがついに対面します。
真木:あの回、ネームだけで18日かかったんですよ。今でも根に持ってるから日にちまで覚えてるんですけど。
担当編集:根に持ってる……!?
真木:最初のネームを担当さんに見せたら「80点ですね。でもここは満点を目指しましょう」って言われて。だけど修正するたびに点数が下がっていって。いったん最初に戻して……みたいなことを繰り返してたら2週間以上経ってました。
──あの回のネームは、担当さんもいつも以上に厳しくチェックされたのでしょうか。
担当編集:仰る通りで。あの回だけは最初から一切妥協なしでやりましょうと先生にはお伝えしていました。
狼谷さんのエピソードは、「式守さん」という作品にとって大きな挑戦だったんです。誰も傷つかないし傷つけない世界に初めて起きた不穏をどうやって消化するか。ここで美しい失恋が描けなければ、今まで築き上げてきた世界観がすべて壊れてしまうと。
それゆえにハードルも上がってしまいましたが、最終的にはこちらが期待していた以上の話を描いていただけました。あの回は担当編集としても思い入れがありますし、一読者としても大好きな回です。
真木:自分の中にある善意という善意を全部絞り出して描きました。読者さんにも「こんな失恋の描き方もあるんだ」って言ってもらえましたし、大変だったけど苦労した甲斐がありましたね。
「友情」がテーマだった体育祭編
──「式守さん」の作品にはかっこいい女性がたくさん出てきますが、個人的にはちっちゃな八満(はちみつ)さんも好きです。
真木:私もです! 他のマンガを読んでいるときも、主人公たちよりコマの端っこにいるキャラのほうを好きになることが多くて。
──最初のころはもっと普通の女の子だった気がしますが、体が溶けるようになったりだんだん超人じみてきたような。
真木:その場のノリでキャラづけしてたら、どんどん変なやつになっていきました……(笑)。
だけど、毎朝ちゃんと髪を内側に巻いて、薄い色のカーディガンを着て、大きなリボンをつけていたりもする。ある意味、一番女の子らしい女の子でもあります。
──運動の苦手な八満さんが、体育祭のリレーで転んでも立ち上がる姿が健気でした。
真木:文化祭編で狼谷さんが目立ちすぎてしまったので、体育祭編はあらためて式守さんたち5人組に焦点を当てようと考えていました。イメージ的にも、体育祭は「恋愛」より「友情」という感じですし。
特に、今までメイン回らしいものがなかった八満にがんばってもらおうと。読者さんにも「八満が好きになった」って言ってもらえて嬉しかったですね。
──体育祭編も、ザ・学園青春ものという雰囲気で面白かったです。
真木:ありがとうございます。単行本でまとめて読むとスピード感があって好きなんですけど、結果的に文化祭編より長くなってしまい、「最近ラブコメしてないな?」と思われないか不安でした……。
だけど個人的には、ラブコメでも恋愛ばかり描く必要はないと思っていて。普段は友達とワイワイ遊びつつ、その合間に式守さんと和泉くんのイチャイチャを描くくらいが高校生カップルっぽくていいのかなという気がしています。
──5巻では、和泉くんが学校を休んでしばらく登場しない時期もありました。
真木:『可愛いだけじゃない式守さん』というタイトルの通り、和泉くんの彼女な「だけじゃない」、他の人たちから見た式守さんも描いてみたかったんです。そのため和泉くんには季節外れのインフルエンザにかかっていただきました(笑)。
──今後、描いてみたいエピソードはありますか?
真木:作中の季節がそろそろ一巡するので、1年生のときに描いたイベントをもう一度描いていきたいです。クリスマスだったり、初詣だったり。
──あえて同じイベントを?
真木:はい。実際のカップルたちも、毎年クリスマスを一緒に過ごすけれど、本当の意味で同じクリスマスはひとつもないじゃないですか。
文化祭編でも、和泉くんに誘われたときの式守さんのリアクションの違いで、この1年間にふたりが積み上げてきた時間の濃さを表現しました。同じイベントだからこそ際立つ関係性の変化を描いていけたらと考えています。
──イベントといえば、2月のエピソードで豆まきの話を描かれていたのが印象的でした。ラブコメなのにバレンタインを描かないんだ……と。
真木:言われてみれば、なんで描かなかったんだろう……。単純に描き忘れたのかも(笑)。今年はバレンタインもちゃんと描きます!
もしかしてすごく名誉な賞をもらったのでは?
──あらためまして、「第4回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」トップ10入りおめでとうございます!
真木:ありがとうございます! ……といいつつ、実はTSUTAYAコミック大賞というものがあることを今まで知らなくて、担当さんに「入賞したよ」って教えてもらったときも「そうなんだ~」と流してしまっていました。
だけど結果発表があった日、Twitterのタイムラインが盛り上がっているのを見て、もしかしてすごく名誉な賞をもらったのでは? ってやっと気づいて(笑)。今日こうしてインタビューも受けて、ようやく実感が湧いてきたところです。
──TSUTAYAコミック大賞は、ノミネートや推薦でなくユーザー投票のみで結果が決まるマンガ賞でもあります。読者からの反響は感じていますか?
真木:はい、Twitterのリプライで感想を送ってくださる方も多いですし、マガポケに書いていただいたコメントもいつも見ています。日ごろから読者さんに応援してもらっているなというのはひしひしと感じていますね。
──もし真木先生がTSUTAYAコミック大賞にユーザーとして参加していたら、どの作品に投票したと思いますか?
真木:最近はあまりマンガを読めてないんですけど、『極主夫道』と『僕の心のヤバイやつ』はめちゃくちゃ面白いですね。自分が一読者だったらこの2作品に投票したと思います。
──それでは最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
真木:TSUTAYAコミック大賞に投票してくださった皆さま、本当にありがとうございました!
『可愛いだけじゃない式守さん』は、読者の方々を飽きさせないことを目標にして、過去の話を忘れるレベルで毎週一生懸命描いています。更新を楽しみに待っていただけたら私も3倍くらい頑張れますので、これからも応援よろしくお願いします!
──本日はありがとうございました!
作品情報
第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞
\「第4回みんなが選ぶ #TSUTAYAコミック大賞 」受賞作品発表!/
9位は真木蛍五 @nankatobidesou 先生『#可愛いだけじゃない式守さん』✨️https://t.co/4HZrIqzkXG pic.twitter.com/r2xJY0uqDh
— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) June 17, 2020
『可愛いだけじゃない式守さん』がトップ10入りした『TSUTAYA×comicspace「第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」』は、次にヒットする「ネクストブレイク作品」を読者投票で決めるマンガ賞です。結果発表ページでは、大賞作品や上位10タイトルに加え、一緒に投票されたタイトル、投票が多かった人気作品をご紹介しています。
サイン入り色紙を読者プレゼント!
今回のインタビューの実施を記念して、真木蛍五先生の直筆サイン入り色紙を1名様にプレゼントいたします!
下記の応募要項をご確認の上、どしどし応募くださいませ!
プレゼントキャンペーン応募要項
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2020年7月6日(月)~2020年8月6日(木)23:59まで
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— comicspace / コミスペ! (@comicspacejp) July 6, 2020
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