2020.07.03
転校生をめぐって思春期の少年達が奏でる、繊細な学園ストーリー『僕らの奏でる物語』かわい千草【おすすめ漫画】
『僕らの奏でる物語』
かわい千草先生の新作『僕らの奏でる物語』の第1巻が発売されました。
前作『101人目のアリス』完結から実に5年ぶりらしいんですが、あれ、そんなに経ってましたっけ。時の流れの早さに驚くばかりですが、ひとたびページをめくれば、変わることのないかわい千草ワールドがそこに。
転校生をめぐるストーリー
物語の舞台となるのは、ヨーロッパのとある田舎町(的な場所)。主人公は、中等部3年生の2人の少年です。ひとりはクラス代表の優等生で、トランペットを奏でるニコル。そしてもう一人は、ある日突然転校してきた、黒髪の少年・リュカ。
季節外れの転校生ということで周囲から注目されるリュカですが、全く周りと馴染もうとせずに、早々にクラスから浮いてしまいます。そんな彼の面倒を見てくれと頼まれたのが、ニコル。しかし何気ない会話の中で、ニコルはリュカの「声変わり」という地雷を踏んでしまい、二人の仲はますますこじれ……というストーリー。
ナイフのような少年・リュカ
なんで「声変わり」が地雷なんだって話ですが、元々有名な合唱団に所属しており、声変わりによって退団。自分自身の居場所を見失ってしまっているのでした。
高校生じゃなく中学生というところもポイントで、この転校生のリュカくん、とにかく気難しい。一切周囲と仲良くしようとしないどころか、触る者みな傷つけるぐらいの勢いで、ちょっかいを出してくる面々に過剰反応するのです。突然走り出したり、突然キレたり、それでいて声がコンプレックスになっているので、全然話そうとせずに事態は悪化という泥沼状態。
物語が進むにつれ、改善の兆しが見えるのかと思いきや、そんな状態で1巻が終わるので「え、これ大丈夫か?」となります。こいつはなかなか筋金入りですぞ。
安定感あるお人好し・ニコル
そんなアンタッチャブルな少年に対峙するニコルは、リュカとは対照的に精神的に非常に安定した少年で、周囲からも慕われています。頼まれたら断れない性格ということも相まって、彼には常にお願い事が舞い込むような感じ。
気難しいリュカに対して、匙を投げることなく付き合うのは、もちろん彼に対する興味というのもありますが、何より面倒を見ることをお願いされているからという、義務感による部分も大きいです。この「興味」と「義務」のバランス感が、二人の仲が深まるごとに変化を見せていくことになるのですが、それが一つの見どころとなるでしょう。またニコル自身にも何やらワケがありそうで、その辺も徐々に明らかになってくるようです。
前作踏襲で抜群の安定感
なんとも繊細で、エネルギーに溢れる少年少女がワチャワチャするのは、前作『101人目のアリス』でも見られた光景で、5年を経ても全く変わっていません。絵柄も本当に変化しないので、突然スマホとか出てきて逆に違和感を覚えたりする現象に見舞われました(褒めてます)。
なお前作は音楽学校が舞台でしたが、本作もリュカは唄を、ニコルはトランペットを吹いており、楽器や音楽というのが二人をつなぐキーになりそうな気配があります。元々の舞台設定も前作と同じようなイメージとのことで、これはなかなか手堅く前作の雰囲気を再現してきてますね。令和でもなお、ウイングスの気風感じられる良作だと思います。オススメ。
©かわい千草/新書館