2020.07.14

【インタビュー】『僕の心のヤバイやつ』桜井のりお「読者にも、二人の初恋を追体験してほしい」

『僕ヤバ』を描くことで、人間関係の付き合い方に答えを出したい

──山田がくれるお菓子について。最初ゴミだったのに、それが段々ちょっとだけ分けてくれるようになり、パピコの半分になってと、だんだんグレードアップして好感度のパラメータになっているように感じました。

桜井:お菓子をシェアすることで、同じ気持ちになりたい。そんな山田の乙女心といいますか。お菓子関係は自然に描いているような感じでして、私が考えているよりも、山田が勝手に動いている感じがありますね(笑)。

──お菓子といえば30話の「僕は溶かした」、市川が手をぎゅっと握るところや山田の表情が最高にドキドキしました。

桜井:最初からどのタイミングでも市川は山田を助けているんですけど、面と向かって助けたのはこれが初めてだったので、頑張って描きました。

──プルーチェの回であったり、オチのバリエーションも多い印象です。

桜井:『僕ヤバ』にはいろんな要素を入れたくて、ちょっとシモネタも混ぜつつって感じです。毎回だとくどくなるんで、たまにやりたくなる感じですね。

──クラスメイトにも触れていきたいんですが、神崎くんの紹介文が「ブス専」ってヒドい言われようだなって(笑)。

桜井:これは市川が、「山田を好きにならないってことはブス専なんだろう」みたいな短絡的な思考で決めつけているだけなんです。

──「山田があんなに美人なのに好きにならないってことは……」って逆算で決めつけていると。

桜井:そうなんですよね(笑)。

──単行本の紹介文で原さんも巻き込まれていますが(笑)、原さんの誕生秘話を教えて下さい。

桜井:具体的なモデルはいないんですが、「ちょっとぽっちゃりめで、地味だけどよく見ると可愛い子」ってクラスにいたよなーという着想からです。そういう子ってリアリティあると思うんですよね。

──29話では、山田を他人からエロい目で見られたくないことが語られました。「性欲と恋愛ってどう違うんだろう」って悩みが、思春期の折り合いのつかなさを丁寧に描かれていると感じます。

桜井:これについては、私もずっと疑問として抱えていて、だからこそしっかり描きたいと思いました。永遠の課題なのかもしれません。

──そういった10代の繊細な感情をリアルに描けるのはどうしてでしょうか?

桜井:私が中高生の頃は、市川と山田みたいな体験をしてきませんでしたし、友達も少なかったから、今からでも経験してみたいって理想を描いているからだと思います。

──他人との距離感に悩む市川の姿を見て、「そういえば思春期に同じ悩みがあったなー」って共感します。

桜井:私も人間関係とか距離感をどう詰めたらいいのか、全然分からないタイプなんです。今も、どうやって人間関係を築いていけばいいんだろうって悩み続けています。それを、『僕ヤバ』を描くことによって自分の中で答えを出したいと思っています。

読者の方々にも、二人の初恋を追体験してほしい

──市川のお姉さんも物語に登場するようになりました。彼女の造形について教えて下さい。

桜井:私はサバサバ系の姉が好きで、サバサバしてるけど溺愛してる感じの姉キャラとして登場させました。ちょっとクールだけど、弟には甘いお姉さんがツボなんです。最近はお姉ちゃんの人気がにわかに上がってきていて嬉しいですね。

──彼女の裏設定はありますか?

桜井:大学生で軽音楽部に入ってます。バイトもやっている、今どきの大学生という感じですね。

──市川と山田のお母さんも登場して、家族にもスポットが当たってきています。

桜井:あの三者面談の回(36話)はすごく気に入ってます。市川のママにのど飴で助けられた時の、山田の顔。心情を描いてないので、あの表情から山田の気持ちを察して頂けると嬉しいです。

──「猫背!」って叱咤に反応しちゃうお母さんも微笑ましかったです。

桜井:可愛らしいおばさんを描きたいと思って、普遍的な、どこにでもいるお母さんって感じですね。

みつどもえ』の頃から、キャラクターの家族を描くのが好きだったんです。この子はどういう環境で育ってきたのかなって想像するのが好きなので、家族が出てくるシーンは描いていて楽しいですね。

──Twitterでも『僕ヤバ』ネタを投稿しています。通称「ツイヤバ」を積極的に更新している理由はなんでしょうか?

桜井:『僕ヤバ』の初期はラブコメよりも観察系のコメディでしたので、序盤に求心力がないと思っていました。だから、分かりやすく魅力が伝わるような短いページのマンガを載せようと決意したんです。今の時代、ラブコメは最初からイチャイチャしていないと飽きられちゃうんじゃないかって不安がありましたから。

本編は二人が徐々に近づいていく話なので、Twitterではなるべく関係性が分かりやすい、キャッチーなコマを入れるようにしています。

──序盤からイチャイチャさせず、じっくり描くことを選択したのは勇気がいる決断です。

桜井:徐々に近づく方が恋愛のリアリティがあると思いますし、読者の方々にも、二人の初恋を追体験してほしいんです。だから共感されるためには、慎重に距離を縮めていきたい気持ちがありました。

担当編集:二人が好きになっていく過程を丁寧に積み上げてきたからこそ、それがめちゃくちゃ効いていて、最近の爆発的な人気に繋がっているのを感じます。

『ロロッロ』で週刊連載を達成できた喜びと、イチカたちと思い出を共有できた楽しさ

──読者コメントには漢文やハングル、英文など、海外の方の感想も散見されました。海外の方にも読まれていることについてはどう思われますか?

桜井:海外の方に受けようと狙って描いてはいませんでしたので、とても意外な嬉しさがあります。

日本の学校って独特な空気感や文化があるじゃないですか。「陰キャ」と「陽キャ」って分けられ方が海外でも理解されるんだろうかって。でもそういえば、海外にも「otaku」とか「ギーク」「ナード」って言葉がありますし、そういう部分で共感していただけたのかなって。

──担当編集さんが選ぶ、お気に入りのエピソードはどれでしょうか?

担当編集:いっぱいあるんですが、そのうちの1つとしては48話の「僕らはゆっくり歩いた」です。

──公式Twitterでもつぶやかれていた回のことですね。

担当編集:担当編集は最初の読者なので、いわば最初の犠牲者になりました。本当に殺傷能力が高かった!

特に、市川の頑張りでひとしきりトロけた後の満員電車シーン、まさか手汗がこんな形で活きてくるとは。というか、こんなにも手汗を美しく、そして尊く物語に導入した作品、今まであったでしょうか。ネームを読む私の目からも変な汗が……。

──感想コメントで「作者が『子供学級』『みつどもえ』『ロロッロ!』を描いていた鬼才の桜井のりお先生なのが驚きです」という声もありました。

桜井:はい。新しい試みをしている感じはあります。

──『僕ヤバ』から他の作品を読む人も増えると思います。作者としては、すべての作品を等しく愛してほしいお気持ちですよね。

桜井:そうですね。でも、無理はせずに……

(一同笑)

──改めて『ロロッロ!』が大団円を迎えたことについて、完結したお気持ちを伺えればと思います。

7月8日に発売したばかりの『ロロッロ!』最終巻

桜井:週刊連載で、基本的には休まず終えたことにホッとしています。『みつどもえ』は途中で雑誌を移籍して週刊じゃなくなりましたので、次に週刊連載する時はちゃんと週刊のまま終わりたいってことが目標でした。無事に終えることができて本当によかったです。

──みんなの将来の姿が描かれる最終話がすごくよかったです。

桜井:『ロロッロ!』のテーマは、ちとせ達が成長していくことでした。なので、どういう風に成長したのかって部分を最後まで描けて、達成感があります。

──連載中に苦労したことはありますか?

桜井:そうですねー……いや、苦労はそんなになくて(笑)。自由に、キャラクターと一緒に歩んでこれたと感じています。

私が一番入りたい理想の美術部を描けましたし、合宿って響きに憧れがあってサバゲーしたり、イチカたちと思い出を共有できて楽しかったです。

──ちなみに『ロロッロ!』が終了したことで空いた時間は、どう使っていますか?

桜井:週刊連載が終われば楽になると誰もが思うんですけど……そんなことはあまりなくて、不思議なんですけど(笑)。

でも『ロロッロ!』の単行本作業が入っていたこともあったので、それが終われば、もう少しゆっくりできるかもしれません。もしも時間が空いたら、飼っている猫のためにベランダを開放して、人工芝を敷きたいですね。

──今ハマっている、新しめのマンガはありますか?

桜井:最近は新しいマンガがなかなか読めていないので難しいですね……ん~『チェンソーマン』が好きです。自分が描いてる作品とは違うジャンルの方が、何も考えずに読めるんです。同じジャンルのマンガは読むのが怖いんですよね(笑)。

──怖いというのは?

桜井:なんでしょうねぇ、面白かったらどうしようみたいなナイーブな感情が。すごく負けず嫌いなのかも。自分のマンガと比較しちゃいますし。でも実際に読んでみたら、面白くてハマったりするんですけどね(笑)。

──好みのジャンルはどんなものがありますか?

桜井:ホラーとかミステリーとかですかね。中学生の時から、楳図かずお先生がずっと好きです。最初に『漂流教室』で衝撃を受けて、ものすごく面白くて。『14歳』も好きですし、『洗礼』がドロっとしていて一番好きですね。

──では、最後に皆さんへのメッセージをお願いします。

桜井:最新話まで読んでくださった方から、「『僕ヤバ』、もうすぐ終わっちゃうんじゃないの?」ってよく言われていて……。

(一同笑)

桜井:まだまだこれから描きたいことはたくさんありますので、楽しみにしてください! 市川と山田の二人には、やってほしいことがいっぱいあります。むしろ、やってないことしかないって感じです(笑)。応援してくれてありがとうございます!

──本日はありがとうございました!

作品情報

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第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞

『僕の心のヤバイやつ』がトップ10入りした『TSUTAYA×comicspace「第4回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」』は、次にヒットする「ネクストブレイク作品」を読者投票で決めるマンガ賞です。結果発表ページでは、大賞作品や上位10タイトルに加え、一緒に投票されたタイトル投票が多かった人気作品をご紹介しています。

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下記の応募要項をご確認の上、どしどし応募くださいませ!

プレゼントキャンペーン応募要項

【賞品】
桜井のりお先生の直筆サイン入り色紙1名様にプレゼント

【応募期間】
2020年7月14日(火)~2020年8月14日(金)23:59まで

【応募方法】
以下の2点の手順にしたがい、ご応募ください。

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②公式アカウントよりツイートされた以下のプレゼント情報を、「#僕ヤバプレ」ハッシュタグを付けて、コメント付きリツイート

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かーずSP

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