2020.07.22
死んで生まれ変わったら、大好きな美少女アイドルの子供になっていました。『【推しの子】』赤坂アカ, 横槍メンゴ【おすすめ漫画】
『【推しの子】』
死んで生まれ変わったら、大好きな美少女アイドルの子供になっていました
『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の赤坂アカ先生と、『クズの本懐』の横槍メンゴ先生のタッグによる話題作は、突拍子もない展開と、生々しい心理描写で描かれた、スリリングな芸能界物語。
人間のコミュニケーションの機微を表現してきた二人だからこその作品だ。
16歳の究極美少女アイドル、アイ。産婦人科医のゴローは彼女の大ファンだった。ある日彼のもとにやってきた妊婦を診察していたところ、それがアイ本人だったことが判明。しかもお腹の中には双子が。
アイドルが妊娠したとなると大騒ぎになること間違いなし。それでもアイは公表せず、子育てを隠しながらアイドル活動を続ける、と笑顔で決意していた。
出産間近。ゴローはアイのカラッとした性格にますます惚れ込んでいた。ところが彼は見知らぬ人間に急に殺されてしまう。目を覚ました時、彼は自分がアイの腕に抱かれていることに気づく。アイの赤ちゃんに転生したのだ。
序盤の転生の流れは理由もなにもなく、かなりの急展開だ。しかも双子の女児もまた、死んだ後転生したアイの大ファンの女の子。赤ん坊の姿で二人が母親であるアイを応援する姿は見ているだけでとても楽しい。
ただこの作品は転生をネタにしたギャグ漫画ではない。嘘を生業とするアイドル・芸能人を裏側から描く、「愛」を送る仕事をする人間たちの物語だ。
アイはルックスの良さと朗らかさ、はつらつとした笑顔で誰よりも目立つ存在のアイドルだ。しかし苦しい境遇で幼少期を過ごしてきた彼女、人を愛するということがわからない。だからこそ、芸能界でプロとして「嘘」をつくことを得意としている。嘘が重なっていけば、本当に誰かを愛することができるのではないか、という彼女なりの自分の模索だ。
愛するというのはとても複雑な感情だ。ファンがアイドルを「愛している」とはよく言うけれども、アイドルが恋愛をしたら、妊娠をしたら、苛立つ気持ちが生まれるのは「愛」なんだろうか。
芸能界はビジネスの場だ。アイは努力家だし才能もあるし、なによりビジュアルがいい。でも売出し中の女優と並んだ時、目立ちすぎるがゆえにアイは出番がカットされることすらある。全く公平さのない、歪んだパワーバランスの世界だ。そんな「嘘」をつくしかない環境で、本当の愛の感情は芽生えるのだろうか。
アイと転生した双子の物語は、1巻後半に向かうにつれ大きな局面を迎える。愛がわからなかったアイドルは子供に対して何を思うのか。推しから生まれた二人のファンはアイにどんな感情を持って育つか。
一筋縄ではいかない人間の心を繊細に捉えながら、二人の父親は誰なのか、ゴローの遺体はどこにいったのか、などのサスペンス要素もがっちり盛り込まれている。コミカルとシリアスのバランスが巧みでどう転ぶか展開が読めない。続きが気になって仕方がないマンガだ。
©横槍メンゴ, 赤坂アカ/集英社