2020.08.31
【インタビュー】『不可解なぼくのすべてを』粉山カタ「描きたいものを描いたら、LGBTという言葉がついてきた。」
女子の制服を着て学校に通う高校生、百雲龍之助(もぐも)は、ある日同級生の岩岡哲にとあるカフェで働かないかと誘われる。可愛い制服に喜ぶもぐもは、しかしそこが「男の娘カフェ」だと知り絶望する。もぐもは、男の子でも女の子でもない、Xジェンダーと称される性自認だった──。
『不可解なぼくのすべてを』は、可愛らしい絵柄ながら、もぐも以外にも、ゲイである鈴見奏(鈴)や、可愛い服やコスプレが大好きな犬居天丸(てんちゃん)、女の子になりたくて日々努力を重ねる館林明(めい)、身体は男性だが心は女性の哲の兄、岩岡智(さっちゃん)、女の子が恋愛対象の女子高生・水之江琴音(琴音)など、様々な性自認や性的指向のキャラクターが登場し、ジェンダーにまつわる悩みや葛藤を独特なタッチで描いていく漫画だ。
最新刊発売を機に、作者である粉山カタ先生にインタビュー。作品が生まれた背景や、描いていく中での心境の変化などを伺った。
なんでこの子は男の娘なんだろう、って。
──この作品の主人公であるもぐもはXジェンダーという設定で、その本人の性自認の曖昧さが「不可解なぼくのすべてを」というタイトルにもつながってくると思うのですが、第1巻のあとがきで、そもそももぐもは今と全く違うキャラだとあって驚きました。Xジェンダーという言葉自体、もぐものキャラ設定がしっくりいかない中で初めて知ったんですよね。
粉山カタ(以下、粉山):そうですね。もともとこの作品を描く大元のきっかけは、私の「外見は女の子の容姿が描きたいけど、内面は男の子の感情を描きたい」というかなり単純な欲望だったんです。そこから「男の娘」という設定が生まれました。
もぐもはもっと、うざ可愛いハイテンションな男の娘のキャラだったし、レズビアンの琴音と結ばれるドタバタラブコメディを想定して物語を考えていました。
──だいぶ今とは違うテイストですね……。
粉山:ただ、そこから行き詰まっちゃったんですよね。「そもそも、なぜもぐもは男の娘なんだろう?」という疑問が湧いてしまってから、何を描いてもしっくりこなくなってしまいました。
自分が描きたいものがよくわからなくなって色々と調べていく中で、Xジェンダーという言葉を知ったんです。そこからもぐものキャラが固まって、この作品が生まれました。
──はじめてXジェンダーという言葉を知ったときの率直な気持ちを知りたいです。
粉山:うーん、なんだろう。「へえ、そういう人たちもいるんだな」と、わりと自然と自分の中で受け入れた感覚です。
ただ、当事者がいることを知って、その性自認のキャラクターを描くということで、連載が始まるまで1年間くらいは取材を重ねていきました。
──具体的にはどのような取材を行ったのですか。
粉山:本当にいろんな手段で。当事者として知識を発信、活動をしている方々のtwitterをフォローして日々の投稿を追ったり、ジェンダーにまつわる書籍を何冊も読んだり、当事者の方々に実際インタビューをしたり。
──そうしていく中で、ご自身の中でのジェンダー観に変化があったりはしましたか?
粉山:うーん、それがあんまりなくて……。もちろん、マイノリティであるからこその苦労などは初めて知ることが多くて、全部は描ききれないけれど、物語を作る上で参考にさせていただく部分はありました。
ただ、個人の感覚としては、そんなに価値観が大きく変わったということはないですね。
LGBTという言葉はあとからついてきた
──それはもともと先生がXジェンダーという言葉を初めて知ったときに、ただ淡々と受け入れたときと全く心境が変わっていないということですね。
粉山:そうですね。正直、自分の周りには昔から、女の子同士で付き合っている子や、男女どちらも恋愛対象である子など、様々な性的指向の子がいたんです。
「実は昔女の子と付き合っていたことがあるんだ」と女友達に言われることもあったりして、でも、それも「へえ、そうなんだ」以上に特別に何か思うことはなかったですね。
LGBTという言葉こそ知らなかったけど、今回の連載を機に勉強すればするほど、自分の身近にあったものだなと実感したというか。
──今までご自身がいた環境と、今回先生が描きたかった世界は、別にそう遠くないものだったんですね。
粉山:そうですね。なんなら、最初は正直「LGBT」という言葉をあまり全面に押し出す気もありませんでした。男の子でも女の子でもないもぐもという子を描く、それ以上に何か意味をもたせる気はあまりなかったんです。
でも、作品内には様々な性自認や性的指向のキャラクターが登場するし、twitterでもトランスジェンダーの方が感想を述べてくれていたりして、だんだんとそこを避けて通ることはできないんじゃないか、と思い始めました。
──たしかに連載当初はあまりジェンダーにまつわる用語が作中に出てくることはなかったですが、だんだんとそういう用語や解説が増えてきた印象があります。
粉山:絵柄もこういう感じだし、作品も基本的にはコメディタッチな部分も多いし、別に何か物申したいわけではないんです。
ただ、自分自身が作品を描きながら、そういう社会的な問題を知ってもっと考えたいと思うようになったし、それが物語にも出てきているのかもしれないです。
レインボープライドも取材はしていましたが、連載を始めた当初は作中で描くとは思っていませんでした。でも実際に琴音が心を開くきっかけにもなったし、今は描いてよかったなと思います。私自身、作品と一緒に成長しているような感覚ですね。
©粉山カタ/ジーオーティー
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