2020.08.31

【インタビュー】『不可解なぼくのすべてを』粉山カタ「描きたいものを描いたら、LGBTという言葉がついてきた。」

思春期の頃のマイノリティの記憶

──不可ぼくは、基本的にポップな雰囲気で明るいイメージですが、その分もぐもと付き合う哲の葛藤などはかなりシリアスで生々しく、そのギャップがまた印象的な作品でした。特にそう感じたのは、第二巻で哲が、テレビで芸人が同性愛を笑いのネタにするのを見て「世界ってこんなに窮屈だったのか」とつぶやくシーンですね。作品の世界観は、絵柄もあいまってどこか現実離れした雰囲気ですが、こういう場面はやけにリアルで。そういう部分を描いているときの先生の心境を知りたいです。

哲が、「世界ってこんなに窮屈だったのか」とつぶやくシーン

粉山:うーん、そもそも自分自身も「窮屈だなあ」と感じてきたことが多かったんですね。

私、実は左利きなんです。悩みも生きづらさも、決して同じものではないけれど、人口に占める割合はLGBTの人々と左利きの人々は同じくらいだとよく言われています。実際、世界は皆さんが思っている以上に右利きが前提にできていて、不便なことは多いです。

それに加えて、やっぱり幼稚園や小学生の頃は、周りの目が気になって無理やり右手で持とうとしたり、おばあちゃんに「左利きは格好悪いから右手で持ちなさい」と叱られたり、右利きに矯正しようとされたり……結局右利きにはならなかったんですけど、そういう窮屈さは感じていたんですよね。

──先生自身が幼少期からマイノリティとしての強烈な記憶というのがあったんですね。

粉山:そうですね。本当に細かいことなんですけど、たとえば走り高跳びのときって左利きの人は踏み出す足が逆なので、みんなと逆側にひとりで立って並ばないといけない。あのときの疎外感とか恥ずかしさみたいなのは今でも覚えていますね。

骨格もそんなに意識して変える必要ないかな、って

──実際に作品の反響はいかがですか。

粉山:一度サイン会をしたんですけど、そのときにキャラクターと近い性自認の方々や、自身がトランスジェンダーだという方が来てくださったのが印象的でした。

このキャラクターが好きと熱烈に語ってくれる人もいたし、セクシャルマイノリティの問題を真面目に描いていると褒めてくれる人もいました。いろんな人がいろんな楽しみ方をしてくれていたのは素直に嬉しかったです。

──たしかにこの作品って、恋愛ものとしても面白いし、ジェンダーについて考えるきっかけにもなるし、可愛い男の娘のわちゃわちゃに癒される部分もあるし、いろんな角度から楽しめる漫画だと思います。ただ、題材としては難しいものですし、漫画として描く上で苦労したことなどもあれば伺いたいです。

粉山:男の娘キャラの鈴とてんちゃんの、バイト時と日常時の描き分けですかね。

男の娘の鈴

私が女の子と男の子を描く場合って、どうしても目の大きさや骨格が変わってきてしまうんです。だから、可愛い制服を着ている男の娘のときの鈴やてんちゃんと、男の子の格好をしているときの鈴とてんちゃんが同じ人間だと思えるように描かないといけないのはかなり難しかったです。

結果的には、主要な男の子キャラの瞳をキラキラ大きくして、バランスをとっている感じですね。おかげで哲までちょっと女の子のような容姿になってしまいました。

──なるほど、男の娘の方に寄せたんですね。もともとこの作品の生まれるきっかけとして、「女の子の容姿を描きたいけど内面は男の子の感情を描きたい欲求」があったという話を知った上で聞くと納得です。ちなみに哲の兄のさっちゃんのビジュアルはどうですか。身体は男性で、心は女性のトランスジェンダーで、言い方が難しいのですが、とても女性らしい身体つきとして描かれているな、と感じました。

粉山:そこは、そもそもあまり男性的に描く必要性を感じていなかったです。

というのも、実際に取材でお会いしたトランスジェンダーの方が、とてもスラッとしたスタイルのいい方で、当然ですけど、肉体は男性だとしてもいろんな体型があるわけで、わざわざわかりやすく女性との違いを作るような描き方をする必要がないと感じたんですよね。

登場人物たちを心理的にもサポートするさっちゃん

気がついたら漫画家になっていた

──先生はもともとイラストレーターとして活躍されていたわけですが、漫画家になりたいという気持ちは以前からあったのですか。

粉山:いや、実は別に漫画家志望ではなかったんです。最初はアニメーターの仕事をしていて、そのときに趣味で描いていた絵をpixivにあげていたら絵の依頼がきて、イラストレーターに興味をもっていた時期だったのでそのまま仕事を受けるようになったんですよね。

そこでイラストレーターの仕事をしながら、やっぱり自分が好きなようにオリジナルの作品を同人で描いていたら、たまたま編集部の方が目にしてくれて漫画の依頼がきて、今回の作品につながった、という。なんだかすごく流動的に漫画家になってしまいました。

──ずっと自分が好きなものを描き続けていたら、それが縁を結んで今こうやって漫画を描く仕事についているんですね。ちなみに先生が漫画を描く上で特に影響を受けた作品などがあれば伺いたいです。

粉山:うーん、なんだろう。たくさんありますよ。それこそ同人作品はたくさん読んできたので、お名前は伏せますが素敵な作家さんがたくさんいらっしゃいます。プロとして活躍されている方だと、大高忍先生の『マギ』がすごく好きですね。先生の表情の付け方が卓越しているんです。

──具体的にはどう凄いんですか。

粉山:前髪でキャラクターの表情を作るんですよね。暗い表情を表現するときは前髪が長く厚めにかかっていたり、希望を感じてパーっと顔が明るくなるときは、前髪が真ん中わけのキャラじゃなくてもおでこが見えたりする。

そこに加えて目のひとつひとつの表情の付け方もすごくて、そういう顔の描き方はかなり影響を受けているような気がします。

──『マギ』をそういう角度から読んだことがなかったので新鮮なお話でした……。では、本編もクライマックスに突入していますが、最後に読者の方々へ一言いただけますでしょうか。

粉山:正直、今まで周りには何度も「なんでこの題材」と言われ続けてきたし、自分自身もたまにわからなくなって自信を失いかけるときもありました。

マイナーにマイナーを重ねているような作品かもしれない、打ち切りになるかもしれない、とヒヤヒヤしていたのですが、皆さんの応援のおかげで最後まで描き切ることができそうです。ぜひ最後までお付き合いください。

──本日はありがとうございました。

作品情報

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プレゼントキャンペーン応募要項

【賞品】
粉山カタ先生のサイン入り単行本1名様にプレゼント

【応募期間】
2020年8月31日(月)~2020年9月30日(水)23:59まで

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園田 もなか

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