『アスメシ』

スポーツ、武道、筋トレ、ダイエット運動……。人間が積極的に身体を動かしてその能力を高めたり、望ましいスタイルを手に入れる営みには、すべて共通していきつく1つの課題がある。

それすなわち、“食”。

例えば、痩せるためにいくら激しく運動しても食事でカロリーオーバーすれば太り続けるだろう。また逆に、筋肉をつけたいのに過剰な食事制限をすれば栄養不足で回復・成長ができず、健康すら害してしまうだろう。

どのようなものを、どのような時に、どのようにして食べれば肉体のスペックを向上できるか。見極めは難しいが、避けて通れない重大事だ。

とりわけ運動の専門家たるアスリートともなれば自分の分野にマッチした食事を上手くとれるかどうかは、大げさでなく人生の明暗を分ける重大事といえる。

さて、スポーツを描くマンガ、食べ物に重点するマンガはともに昔から数多い。ただ、その両者が重なるところで「スポーツに対する食事」は単発のエピソードとしてあつかわれることがよくありつつも、作品全体のメイン題材となる例は希少だ。

今回ピックアップした『アスメシ』は、その希少な例のひとつである。

本作のメインキャラクターは、一組の父娘。

娘・保志まひろは中学校柔道の選手で、全国レベルの実力がテレビ番組やネットで注目を集める美少女アスリートだ。

一方、そんな娘に向けていつも全身全霊かけた暑苦しいまでの応援をする父親の名は、保志太一。まひろは太一の結婚相手の連れ子であり、その妻は一年前に亡くなっている。いまは血のつながらない父娘ふたり暮らしで、べつに仲が悪いわけではないのだが、まひろが素直になれない性格のため微妙な距離感があり、太一の応援はどこか空回り気味。

そんな二人を近づけていくのが、巷で人気の料理ブロガーである太一の作るごはんだ。

ケガをした時には成分的にリラックス・ストレス予防・神経安定の効果がある貝と野菜のミルクスープを作ったり、練習中に力が出るようにとエネルギーの元となる糖質が豊富なもち入り肉巻きおにぎりをこしらえたり。理に適ったメニューの数々でまひろの柔道生活を支えようとする。

その気遣いはやがてまひろの心と体にしっかり響き、あたかも父娘の二人三脚で柔道にとりくんでいるような感覚を彼女に抱かせていく……。

アスリートの食事という題材を処するにあたり、こうした親子関係を前面に置いたのが非常にうまい。

料理作りや食材選びがたいへんロジカルでありながらも、まず大前提として「お父さんが子供のためを思ってていねいに作る」という状況があるため、知識自慢や説教臭さはまったく無い、素直にじんわり沁みる光景が繰り広げられるからだ。

原作者の見原由真先生はアスリートフードマイスターの資格者だそうで当然ながらスポーツ栄養学の知見はしっかり作品に練り込まれているのだが、そのうえで、食事を作り食べるキャラクターたちを物語の中に生きる人間としてきちんと描くところまで“血が通っている”点をこそ評価しておきたい。

なお、連載は株式会社運動通信社のWebスポーツメディア「SPORTS BULL（スポーツブル）」ならびに講談社のマンガアプリ「マガジンポケット」で配信中。

単行本は新刊となる第2巻が2020年10月15日と発売間近だ。

食事による心身のケアを上質なファミリードラマに仕立てるという切り口にちょっとでも興味をもたれたかたは、ぜひチェックしてみていただきたい。

試し読みはコチラ！

©見原由真,小川錦/講談社