2020.11.04

痛々しさの向こうに、人間同士の距離感と戦い続ける少年少女の苦しみがむき出しで描かれていく、繊細な青春ストーリー。『友達として大好き』ゆうち巳くみ【おすすめ漫画】

『友達として大好き』

「みんなに! 顔と 声と 好きな事と 嫌いな事があるのは すごくエッチな事だと思いました!!」

表紙とタイトルを一見すると、「ギャルっ子と真面目少年のほんわかラブコメディ」だと思ってしまう。けれども開いて1ページ目、ヒロインが女子トイレでバケツで水をかけられるいじめが発生。

男子側の水道で口をすすいでいることを追求する女子たちに対し、水をかけられたヒロインは飄々と言う。

「しゃぶったから?」

ラブコメだと思って読むと大やけどをする生々しさ。痛々しさの向こうに、人間同士の距離感と戦い続ける少年少女の苦しみがむき出しで描かれていく、シビアなディスコミュニケーション物語だ。

沙愛子(さなこ)は金髪にピアスのチャラチャラしたギャル。普段からふわふわした表情と言動で、まるで何も考えていないようにすら見える。彼女は男子生徒と誰とでも性交渉を持っているため、女子からはすこぶる嫌われている。

彼女が自業自得でいじめられていた時、逃げ込んだのが生徒会室だった。そこにいたのは真面目に職務を貫く品行方正な男子会長・結糸(ゆいと)。沙愛子は彼にピンと来たようで、即「付き合って下さい」と告白。

冷静に突き放す結糸に対し、沙愛子は詰め寄る。

「エッチができるのに!?」「勃たないの?」「気持ち良くしてさしあげるからぁ…」

実際に沙愛子が求めているのは、身体関係ではなく人の気持ちを知るための「規則」だった。

「私は人の気持がわかんないから 誰かと一緒に居たくても続かないの 私に誰かと一緒に居る時のルールがあれば 気持ちがわかんなくても一緒に居れるんじゃないかってそう思ったの」

暴走しがちで、いつもヘラヘラしている沙愛子の姿は非常に愛らしい。結人のあとをついてまわる姿はまるで子犬のようだ。作中では真面目な結人に人間関係のルールを教えてもらい、それを頑張るターンが多いため、沙愛子の姿はものすごくかわいい。

しかし彼女は今まであらゆる男子と性的な関係をほいほい持っていたのは事実。他の女子生徒からは「バカ」「クソビッチ」と散々な言われよう。他人の彼氏を寝取ったことすらある沙愛子に対する率直な感想だ。

視点が違うだけで、どちらも沙愛子への見え方。人間関係を構築したいからがむしゃらに男子とエッチをしていたし、友達が作りたいから結人に人と一緒に居るための試行錯誤をする。彼女にとってどちらも同じ努力だったのだろう。

だから彼女は常にふわふわした笑顔をしている。冷たい視線の学校の生徒の間で、結人に学んだ距離感のルールを適用しながら、相手のことを知ろうとする姿は、これら様々な経験を伴ってやっと一つ、手がかりを見つけられた証だ。

「みんなに! 顔と 声と 好きな事と 嫌いな事があるのは すごくエッチな事だと思いました!!」

ギャグのような沙愛子の発言だが、「個性」を見た時に気づく魅力を表現した見事な文言だ。性的な経験が友達作りになると思い込んでいた彼女が、逆転した瞬間。

この物語では恋愛以前・友人以前の問題に取り組む沙愛子の姿が丹念に描かれる。他人は自分と同じではない、どうやったら人に求められるかわからない。沙愛子の心の痛みは、まるで数歳の子供の泣き顔のようだ。

実際は「誰かに必要とされる」なんてことは考えすぎで、並列に挨拶もするし、会話もするし、適当に距離も置くし、再会もする。結人から「バイバイ」と、何もしていないのに、エッチもしていないのに普通の挨拶をされた時、沙愛子は汗を全身にかきながら初めての歓喜の表情を見せる。

この繊細さが、作品の魅力だ。

沙愛子というキャラクターは一見かなりぶっとんだキャラに感じられる。しかし子供の頃同じような気持ちになった人は、きっと多いと思う。お菓子をあげないと話をしてくれないんじゃないか、友達になれないんじゃないか、とか。

毒々しい悪口も飛び交う人間関係が描かれまくる中、沙愛子がどんどん笑顔になっていく爽快な友情青春物語。沙愛子に「友達」はたくさんできるのか、価値観はどう変わっていくのか、見ものだ。

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たまごまご

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