『いわかける！ —Climbing Girls—』

本日は「サイコミ」で配信中のWebマンガから、ボルダリングを題材とした『いわかける！ —Climbing Girls—』をご紹介。アニメ視聴者諸氏には今期（2020年10月開始）放送作の原作としてタイトルをご存じのかたもおられるだろう。

中学時代に対戦パズルゲームの超一流選手として活躍した少女・笠原好（かさはら このみ）。ゲームに入れ込みすぎて勉学を放り投げた彼女は、一時期引きこもったあげく受験が大ピンチになり危機感を抱き、ゲーマーからの卒業を決意。一念発起して猛勉強したすえ、とある女子高校に入学をはたす。

今度はゲームとは別の、夢中になれるものを……と思案した好がたまたま校内で見かけたのが、高くそびえる垂直面にさまざまな形の突起岩がいっぱい敷き詰められた壁。クライミング用のウォールだった。

なんとなしに壁へ近づいた矢先、現れたのはスポーツクライミング部の部員・上原準（うえはら じゅん）という少女。準は好の興味本位な態度を嫌い、クライミングの難しさを知らしめてやろうと勝負をふっかけてくる。

結果、当然ながら経験者と初心者の圧倒的な差をつきつけられ、楽しそうというだけではやっていけない領域を一度は痛感させられる羽目に。

──だが、彼女にはひとつの武器がある。ゲーマー時代に対戦相手を震え上がらせた、“パズルを見て、解く”ための天才的な選択眼と集中力。

手足をかけるための岩を選ぶ。指先への細やかな力の入れ方を選ぶ。さらに重心移動などなどさまざまな要素をコンボさせ、登りきるための正解となるルートを探り当てる。

そう、クライミングとは解き方のあるゲーム。岩のパズルゲームなのだ！　だったらいけるぜ！

再チャレンジで自分の可能性を証明した好はクライミング部の部長・四葉幸与（よつば さよ）と先輩の杉浦野々華（すぎうら ののか）に見込まれ、入部することに。準も最初こそ半ば理不尽に厳しく当たっていたものの、他校の強豪選手たちと競い合う大会を迎えるにあたって助言やサポートを好にもたらし、頼もしい仲間となっていく。

頭脳はある、身体は鍛える。あとは心に勇気を。スポーツクライミングの心・技・体を追求して、元ゲーマー少女は高い壁に挑んでいく！

……という具合にスポーツクライミングの面白さを女の子いっぱい学園もの×熱血スポーツものの合わせ技で盛り立てた内容になっている。

同じ壁、同じ岩でも、どう登るのかで人によって選択肢や重視するポイントが色々とありうるというクライミングの奥深さ・多彩さが、登場人物それぞれの性格づけや学校ごとの傾向からなる濃ゆいキャラクター付けと結びついており、“壁を登る”というシンプルな営みからここまで飽きさせない作品世界が広がるのかと感心させられる。

また、主人公がまったくの初心者でゼロから競技を学んでいくことで読者のナビ役を果たすわけだが、同時に、別ジャンルではすでに大きな実績を培ってきたという引き出しをもつことでいざというときに勝ちを得る説得力も兼ね備えているのがうまい。

「たまたまやってみたらピンポイントにそのスポーツの天才でした」だとほぼ運に恵まれた人の問題になるが、本作のように「畑違いの天才が頑張ってその才能を応用します」となれば恵まれた部分以上にチャレンジする精神性のほうにスポットが当たり、読者が応援しやすいからだ。

そんな本作は配信サイトで2017年冬から2019年春まで連載後、現在は第2部『いわかける！！ −Try a new climbing−』を展開中。実力も性格のアクの強さも超一流のライバルを相手に、好の奮闘はまだまだ続いている。

©石坂リューダイ/小学館