2020.11.21
ひょんなことから夫婦になった、人の心の声が聞こえる青年と、声を失った娘。大正時代を舞台に描いた、心の声をめぐるラブロマンス!『君ノ声』森永ミク【おすすめ漫画】
『君ノ声』
森永ミク先生による、『君ノ声』の第一巻が発売になりました。さっそくあらすじをご紹介。
時は大正、人の心が聞こえる京極一成は、その力を活かして商社を経営する敏腕社長だ。事業は順調だが、その力のせいで人を信じることができず、かなりひねくれた性格をしていた。一成は諏訪部家の令嬢に縁談を申し込むが、縁談相手の諏訪部ななからは心の声が聞こえないうえ、彼女は声を出して話すことができなかった。戸惑う一成だが、勢いでふたりは夫婦になってしまい……?
心の声が聞こえてしまう主人公
大正時代を舞台に描いた、心の声をめぐるラブロマンス。
物語の主人公・一成はあらすじ紹介の通り、他人の考えていることが聞こえてしまうという特殊体質の持ち主。その能力を活かして難しい商談も百戦錬磨で切り抜け、会社を成長させ続けています。
そんな彼が、指折りの大地主である諏訪部家に縁談を申し込んだかというと、これもビジネスの一環。先方のお嬢様になど一切興味はなく、その資産と人脈のみが目当てでした。
ところがふたを開けてみてびっくり。結婚相手となる諏訪部家の娘・ななは、喋ることができないうえに、頼みの綱である心の声が一切聞こえないのでした。さらには妾の子供ということもあり、諏訪部家でも蔑ろにされていて、資産や人脈といった一成の目当てのものも手に入りそうにありません。
当初の目論見からすれば、縁談は破談にすべきところ、何を思ったのか一成はとっさに彼女との結婚を決断。勢いのままに彼女の手を引いて、一緒に暮らすことになるのですが、ただでさえ女慣れしていない一成が、喋れない・心の読めない相手と共に、スムーズに結婚生活を始められるわけもなく……というお話。
どちらも暗い過去や心の傷を持っている
一成は成金というか、ことビジネスとなると意地汚く捻くれたところを見せるものの、根は非常に心優しい青年。その力を持っているがゆえに、幼少期の辛い経験をしているのですが、その経験を、彼女の置かれた境遇に重ねて見ている部分があるようです。
社長というモードが外れてしまえば、ただの女慣れしていない童貞青年という感じで、非常に好感の持てる男です。
一方のななですが、諏訪部家で爪弾きにされていたのは単に妾の子供だからというだけではなく、とある理由があったから。
というのも、実は彼女自身も他人の心を感じることができる能力の持ち主で、それを嫌った父親に、喋ることを禁じられたという背景があるのです。しかし心の読み方は、音で聞こえる一成と異なり、文字として伝わるというもの。
恐らく心を読まれることを嫌った父親の方針により、ななは文字の読み方も教わっておらず、筆談でもコミュニケーションが取れないという状況です。
彼女が心を読めるということを、もちろん一成は知らず、コミュニケーションをとるために少しずつ文字を教え始めていくわけですが、この先文字が読めるようになったときに、どんな展開が待っているのか。
すでに、コミュニケーション不全ゆえの可愛らしさであるとか、時に感動的な心の通わせ合いがあって物語としては充分面白いのですが、こういった伏線(伏せてはないけど)もあり、巻数を重ねてのドラマチックな展開も予感させるなど、色々とドキドキワクワクに満ちています。
人の心がわかるがゆえに、真に他人を信じることができない2人の、臆病で心優しい心のふれあいを堪能ください。
©森永ミク/KADOKAWA