2021.01.16
怪人を造っているのはどんな連中なのか? そんな視点で悪の組織の舞台裏を描く、職場シチュエーションコメディ!『怪人開発部の黒井津さん』水崎弘明【おすすめ漫画】
『怪人開発部の黒井津さん』
おそろしい野望をもって平和を乱す悪の組織と、それに立ち向かう正義のヒーロー。光と闇のはてしないバトルのなか、悪の組織は時に陰謀を実行に移す尖兵として、あるいはヒーローを倒すための刺客として、次から次へと怪人を送り込んでくる。特撮番組をはじめ、さまざまな物語でみなさんご存じの構図だ。
では、送り込まれる怪人たちはどうやって生み出されるのか? もっといえば、怪人を造っているのはどんな連中なのか?
そんな視点で悪の組織の舞台裏を描くのが、COMICメテオで配信中の『怪人開発部の黒井津さん』という作品。同サイトで2019年春に読切版が出たのち好評を受けて2020年10月から連載化したWebマンガである。
悪の組織・アガスティアの怪人開発部を舞台に、研究助手として働く女性・黒井津燈香(くろいつ とうか)の過ごす日々が描かれるのだが、その内容がなんとも切実。
急づくりの企画書だけで開発会議に臨んで、幹部たちを相手に新作の怪人をプレゼンしなければならない、予算も納期も余裕がないのにノルマは不変、よその部署から勝手な要望をねじ込まれる……。
オオカミ男として脳だけ先に作られていたのが肉体を製造する最終段階で上司から「えー これ可愛くないじゃん」の一言で少女のボディに仕様変更されてしまったTS怪人ウルフくんのように、存在そのものが開発部の苦労を象徴するキャラもいたりして、外に出て戦う以前にまず身内で世知がらい組織の力学と戦う“企業戦士”たちの悲哀がいっそ可笑しい。
つまり本作はヒーロー物の世界観の片隅を借りた職場シチュエーションコメディで、“怪人開発”は“商品開発”に相当している。現実に会社で働くオトナが身につまされるお仕事あるある風景を悪の組織のいち部署に置き換えた寓話として楽しめる作品なのである。
もちろんアガスティアが劇中でおこなうのは悪事なわけだから可哀そうとは同情できない。そう、同情はできないのだが、それはそれとして、勝手放題なクライアントその他を相手に苦労する気持ちだけはよく分かってしまう……そんな絶妙なさじ加減を味わってみてほしい。
ちなみに作者の水崎弘明氏は人気アニメシリーズ『ストライクウィッチーズ 第501統合戦闘航空団』第1期のコミカライズを手がけたマンガ家さんである。そちらもある意味、外敵と戦いながら組織(軍隊)に所属して内部のしがらみに翻弄される展開があるのでちょっぴり連想づけて読んでみても面白いかもしれない。
©水崎弘明/フレックスコミックス