2021.02.03
死に場所を求めて入り込んだ樹海で、八百年の時を生きる少女と出会う…!ふたりだけの、温かく優しいスローライフ!『アエカナル』笹倉綾人【おすすめ漫画】
『アエカナル』
究極のロリババアキャラの登場! 年を経た大切なあなたのために何が出来るだろうか
年齢はかなり上だけれども見た目は少女、という「ロリババア」ジャンルがすっかり定着し、色々な作品にロリババアキャラクターが登場するようになった(ババアという語感はあんまり良くないかもしれないが、マンガの場合は好意的に描かれることが圧倒的に多いのでそのまま用語として使います)。
ロリババアキャラと現代を生きる人の関係性を描く作品は、大人の包容力や癒やしを持ちつつ今どきの世間知らずなロリババア側と、それに癒やされる人間側、というギャップが楽しいもの。
そのロリババアジャンルを極めんとする決定版的作品が発売された。
少女の身体を描かせたらピカイチな笹倉綾人先生の作品『アエカナル』は、作者のロリババア愛が高じて作られた作品。マンガとして非常に読みやすくかつ上品な作りなので、ロリババア入門編としてもおすすめできる一作だ。
現代社会でゴリゴリに働いていた男性、定井光臣(さだい・みつおみ)。彼は樹海に足を踏み入れていた。死ぬためだ。身内もおらず日々の忙しさに絶望して心を病んでいた彼は、死ぬことに躊躇いがなかった。
しかし樹海にいる少女を見て動揺。若くして死ぬのではないかと焦って助けにでる。しかしそれは齢八百の八百比丘尼。名前はあえか。ただ一人で山奥に住み続けてきた彼女はどう見てもうら若き少女。彼女の境遇を知った光臣は「寂しくなかったのですか」と涙する。
自分のために涙した彼の心に触れたあえかは言う。
「もしも本当に妾がおまえ様に輿入れしたら 自決を思い止まってくれるかの」
山奥でふたりだけの、スローライフが始まる。
あえかのキャラクター造形は作者のロリババア探求の賜物のようなこだわりに溢れている。細い脚をあらわにしたはだけ気味の着物、中には幼さを引き立てるインナー、童女のように何事にも楽しさを見つける笑顔、口元についたセクシーなほくろ。
子供の身体ながらに女性のしなやかな身体を持つその様相がハートをがっちり掴んでくる。ずっと山にいて世間知らずなので、チョコレートを食べてうっとりする様は見ていて愛しくて仕方がない。
それでいて年相応の安定感と大人っぽさが根にあるので、心を病んだ光臣への包容力が尋常ではない。甲斐甲斐しく彼の世話をしているものの、体力もタフで家事も慣れているため全然苦労を感じさせない。彼が不安になる度に優しい声をかけ、お互い無理ない力加減で接しあっているのが見ていて心地が良い。
光臣は現代社会の激しいストレスで、食べ物の味がわからなかったそうだ。最初はあえかの出した食べ物も味がわからず困惑していたが、丁寧に彼女が調理し、息を吹きかけて冷ました様子を見て、かつての母親の姿を思い出す。そこで感情が蘇り、味覚も戻ってくる。
光臣にとってあえかが母親的存在からスタートし、次第に「守りたい存在」へと変わっていく。人は誰かのために努力したいと願った時、自分のため以上の力を発揮できるもの。彼の心はどんどん健康を取り戻していく。
この作品における癒やしとは、優しくされることというよりも「何が出来るだろうか」と相手を思えるようになることなのだろう。ロリババアは年上の母性の象徴として、また守るべき愛らしい少女として、「何が出来るだろうか」の感情が激しく沸き立ちやすい対象だ。
あえかの姿は序盤は神か妖精のようにすら見えるものの、光臣と共に寄り添って生きる等身大の存在として描かれていくことで人間味がどんどん増していくところも注目したい。
母のように愛されたい、娘のように愛したい、夫婦のように愛し合いたい。全部を包括してくれるロリババアの存在のワイルドカード感を満喫できる作品だ。
©笹倉綾人/KADOKAWA