2021.02.24

中学1年生、はじめてできた彼女との「はじめて」だらけの毎日。淡い青春を描いたピュアラブコメディ!『はじめての諏訪さん』真沼靖佳【おすすめ漫画】

『はじめての諏訪さん』

中学1年生、はじめてできた彼女はなんでもできて背が大きくてちょっと怖くて、でも一緒にいると楽しい

中学1年生の男子から見た同級生の女子って、「怖い」という感覚が強くなること、少なくないと思う。身体も自分より発達しているし、なんか妙に大人びているし、恋愛うんぬんの話をするし。だからこそ「負けたくない」と虚勢を張って強い言葉を使いがち。よくわからないのに恋愛強者になったつもりでしゃべって墓穴掘りがち。実際はみんな大差ないのにね。

この作品は男子から見た「女子は怖い」感覚を丁寧に描きながら、女子中学1年生の等身大の幼さも表現する、はじめてだらけのピュアラブコメディ

強いヒーローに憧れている、幼い中1の少年・山中卓(やまなか・すぐる)。入学した春、試練に立ち向かうのが信条の彼の前に現れたのは、自分より身長が頭ひとつ大きな女の子・諏訪紅羽(すわ・くれは)。

彼女はまっすぐ彼の顔を見ながら「好きです。」と言う。

しかし恋愛経験ゼロの山中としてはわからないことが多すぎる。自分の中に沸き上がる感情が理解できず、何より先に恐怖と不安がつのるばかり。けれども彼は「試練を乗り越える」という思いを貫くために彼女の告白をOKし、付き合うことに。

得体のしれない諏訪への感情に怖さを感じつつも、まっすぐに向き合うよう戦いはじめる。

山中から見た諏訪の描写が秀逸。山中は休み時間にヒーローSFものの落書きをする子供。一方、諏訪は女子の中でもちょっと大人っぽく目立っている。諏訪から好きだと言ってきてはくれたものの、視線が自然と見下ろすようになるから、つい威圧感を感じがちで怒っているように見える。自分の焦りが大きすぎるので、相対的に諏訪が余裕があるように見える。

だから彼女といる時に感じる気持ちのすべてが「はじめて」だ。はじめての名前呼び。はじめての手つなぎ。はじめてのドーナツ屋さん。はじめての登下校。

ひとつひとつに生まれるのは「恥ずかしい」とか「照れくさい」とかを以前の「怖い」「緊張する」という感情。けれどもそれを成し遂げた後に生まれる、ドキドキとワクワク。まだこの心の揺れが「恋愛」とは結びついてはいないようだ。

「でもオレは あ 新しい事を諏訪さんとやってくのも好きだな…」
「中学いってはじめての経験を うまれてはじめての体験を…これからたくさんして知っていきたいと思って…るよ!」

山中視点だと、中学校生活の新しい体験と初恋の感覚、色々なものが諏訪を通じて新鮮に得られる。諏訪への気持ちも、学校生活のワクワクも、カテゴライズされておらずすべて楽しくなっていて前向きに捉えられている誠実な描写が非常に爽やかだ。このポジティブさは確かに、男の子としてかなり魅力的。

ただ諏訪視点になると、自分といるのはまんざらではなくても、しっかり見てくれているわけではない山中のことはちょっとモヤモヤきてしまう。彼女は山中から見たら、かっこよくて頼もしくて立派な女の子かもしれない。でも彼女だって恋愛経験が多いわけではなく、隙をつかれると顔を真赤にするし、余裕なんて全然ない。山中と一緒に学校から帰るためにいつも先に待っている彼女、本当はとてもいじらしい。

引きのカメラで、手をつないで赤面しながら汗を流しながら震える諏訪と、それを見ている山中を描くコマがある。背が大きいとはいえども、彼女も小さな中学生の子供。彼女にとっても山中との日々は「はじめて」だらけなのだ。

でもそれは直接はあまり描かないのがこの作品の粋なところ。彼女の等身大の感情は、山中は気づいていないこともあるようだがところどころにちゃんと描かれているので、探してほしい。

諏訪と山中の制服はちょっと大きく丈が長い。諏訪は成長が速いのですらりと脚が長いけれども、袖丈はまだ長いままだ。まだ思春期とも言い難い成長途中の少年少女の感情は、「恋愛」と言い切れるかわからないぼんやりしたもの。この瞬間だけの特別な感情を丁寧に切り取って、全て大切に描写している作品だ。

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たまごまご

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