2021.02.23
憧れの人が理想とかけ離れていたら、どうする? 「好き」という感情の複雑さを真摯に描く百合作品『彼女のイデア』冬芽沙也【おすすめ漫画】
『彼女のイデア』
「もし憧れの人が理想と違ってひどい人だったらどう思う?」
全3巻で完結を迎えた本作は、こんな問いかけから物語が始まります。
高校生の“日向いと”は、ちょっと自分に自信のない女の子。かわいい格好やおしゃれなんて自分には似合わない──そう思い込んでいます。そんないとの憧れは、同い年の女優・澄花。最初にいとが目を奪われたのはその美しい見た目でしたが、インタビューなどを読んでいくうちに、真っ直ぐで向上心のある内面にも惹かれていったのでした。
ところがある日、いとはそんな憧れの澄花に街でばったり会ってしまいます。しかも、本物の澄花はどうやらかなりわがままな様子。マネージャーの失態を愚痴りはじめたりと、いとが抱いていたイメージはガラガラと崩壊していきます。
一方で、どうやらいとのことが気に入った様子で、その後もなにかとちょっかいを出してくる澄花。こんなのは私が憧れた澄花じゃない──いとは面と向かって言い放ちます。
「私の澄花を汚さないで」
その後、澄花のわがままで世間知らずな部分の一因として、親身になってくれる大人が周りに少ないことや、複雑な家庭環境があることを察するいと。理想とはかけ離れていながらも、ファンが思い描く“澄花”に近づこうと、不器用ながら頑張ろうとする努力家な一面も知って、いとの“本当の澄花”に向ける感情は、変化してゆくのでした。
永遠の憧れである“理想の澄花”と、いつからか支えてあげたいと思うようになった“本当の澄花”──ふたりの澄花の間で揺れるいと。そして澄花自身もまた、“理想の澄花”になろうとするのではない、女優としての在り方を見つけることになります。
ふたりがどんな選択をするのか、ぜひ多くの方に見届けていただきたいですね。
女性同士の恋愛感情を伴う関係性を描く、純然たる百合作品でありつつ、“好き”という感情の、ひとことでは言い表せない複雑さを真摯に描いた作品でもあります。読んだあとは、きっと満ち足りた気持ちになれる、おすすめの一作です。
©冬芽沙也/KADOKAWA