2021.03.10

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でエヴァが完結したからこそ、改めて読んでほしい15年前の傑作IFコミック『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド2nd』林ふみの,カラー【おすすめ漫画】

『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド2nd』

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でエヴァが完結したからこそ、改めて読んでほしい15年前の傑作IFコミック

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が公開され、ついにエヴァが四半世紀の物語の幕を閉じた。まだ上映がはじまったばかりなので、ここではなるべくネタバレを避けておこうと思う。

「シン」はさすがに続き物なので最低限「序」「破」「Q」を見ていないとわからない作りにはなっているが、逆にその3つ、新劇場版だけ見ていればちゃんとわかる作りになっている。ただしTV版と旧劇場版、そして貞本コミック版を見ていた人だと見え方がガラリと変わり、感想がバラバラになる、というのが「エヴァ」の面白いところ。

「エヴァ」は派生がめちゃくちゃに多い。多すぎて精査しないとどれが本編かわからなくなるくらいだ。なので面白い作品はいっぱいあっても、正直今からだとすすめるのがためらわれる。

ただ一作品『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド2nd』のコミック版は、今回の映画を見る前、あるいは見た後に読むと味わいが深く楽しめると思うので紹介しておきたい。

マンガが発売されたのは2004年。本来は恋愛アドベンチャーゲーム的なものを元に内容だが、このマンガはそれとは異なる、単体で読めるまっすぐな青春物語だ。

まずキャラクターたちの設定はほぼ全員違う。碇シンジ惣流・アスカ・ラングレーは幼馴染。綾波レイは転校生(このへんはTV版ラストのネタに似ている)。鈴原トウジ相田ケンスケ洞木ヒカリといったレギュラー中学生に加えて渚カヲルも同じ学校にいる。

一応「エヴァ搭乗者の学校」という設定は踏襲されているが、アニメほど複雑で凄惨ではなく「みんなで頑張って乗り切ろう!」くらいの空気感。なによりアスカの両親は健在だし、シンジの母親ユイも元気なので、家庭的な闇がほぼない。

もし周囲の大人たちがみんないい人たちで、家庭環境もまあまあよくて、友達との関係も良好で、真面目に成長し続けている状態でエヴァの話を描いたらどうなるかというIFの物語、と捉えるとわかりやすいかもしれない。

シンジは比較的ポジティブで親切かつ芯のある少年なので、まるで別キャラに見えるかもしれない。けれどもそもそも彼は根が親切で、真面目な子だ。アニメだと父の影響で内向きになっただけで、ちゃんとした大人たちの背中を見て育っていれば、彼は魅力的な男子生徒として育っていたんだろう。

アスカも同様、母親がちゃんと存在していることと、一緒にいてくれるシンジという幼馴染の存在のおかげで「私を見て」という自己の心のわだかまりが無い、ちょっと不器用でキュートな、思春期らしい悩みを抱える女の子になっている。

綾波レイは笑顔が多く、このマンガの中では完全に別人に見える。ここばかりはレイのネルフ絡みのややこしい状況を全部オフにしないと生まれない。とはいえちゃんと人と接する環境の中育っていたら、感受性豊かな子になりうるというのは新劇場版「破」で立証済みだ(通称ポカ波)。

エヴァ搭乗の話は最小限におさえられていて、どっちかというと「みんな外国でエヴァに乗るからバラバラになるね」という卒業感、責任を持つ大人への一歩のほうが重視されている。この大人への階段を登る手応えと覚悟があるから、アスカとレイとシンジの淡い三角関係は「恋愛」として、あるいは「友人」としてちゃんと描き切られており、読みごたえのある作品として仕上げられている。

本編のエヴァだとシンジは、世界を救うか否かの決断を迫られてしまう。14歳にはあまりに重い。しかしこの漫画の場合は「アスカとシンジとレイが自分の「好き」をちゃんと言えるか」の決断を最大の選択として据えているため、ものすごく共感しやすい。

世界云々の決断をする大人がひとつ上にいてくれるからこその、まっとうな子どもたちの成長だ。そして大人たちの責任を次は自分たちが背負う、と覚悟する時間もきちんと準備されている。

トウジ、ケンスケ、ヒカリの成長が同じくらいの分量で丁寧に描かれているのも好感が持てる。ミサトやリツコやユイやゲンドウすらも、全員が中学生時代に等身大の青春を送ってきていることを、優しく繊細に描いている。

誰も雑に扱われない。キャラクターみんなが思春期を経験している。恋愛や友情などプライベートでの悩みを克服するからこそ、仕事でも人間としても成長できるのだ、という芯の通った作品だ。決してイチャイチャするハーレムラブコメではない。

特に5巻の過去編、6巻の将来編を見れば、段階を踏んで成長できたエヴァのキャラクターたちの、苦労を抱えつつも立派に幸せを探そうとしている姿を見つけられるはずだ。

あくまでもこれは新劇場版のエヴァのキャラではなく、別の作家による再解釈を含んだ別の世界線の話だ。そもそもここに出てくるアスカは「式波」ではなく「惣流」の方なので一緒にしてはいけない。

それでもあえて15年近く前のこの作品をあえて今読んでほしいと感じるのは、「シン」の描くキャラクターの成長や落とし所と比較してほしいからだ。全6巻、本編自体は4巻まででサクッと読めるので、是非触れてみてほしい。

この記事を書いた人

たまごまご

このライターの記事一覧

無料で読める漫画

すべて見る

    人気のレビュー

    すべて見る

        人気の漫画

        すべて見る

          おすすめの記事

          ランキング