2021.03.19

現代アイルランドを舞台に、寂しさを抱える魔女が他者と心を通わせていく、癒やしに満ちた物語。『ブナの森のアリア』秋鹿ユギリ【おすすめ漫画】

『ブナの森のアリア』

昨年発売された『このマンガがすごい!2021』では第1位に『シャンピニオンの魔女』を選んだり、こちらでの日替わりレビューでも『魔女先輩日報』とか、『どうも、好きな人に惚れ薬を依頼された魔女です。』とかご紹介してる通り、私、魔女ものが好きでして。異世界転生とかいいから魔女ものをもっと出してほしい(心の声)。

現代アイルランドが舞台

今回ご紹介する『ブナの森のアリア』。表紙には、赤髪のなんとも可愛らしい女の子が、ステレオタイプな魔女帽子をかぶっており、ひと目で「あ、これ魔女ものだな」と分かります。そしてその隣には、白い狼。なんともファンタジーの香り漂う素敵な表紙でございます。

物語は、ブナの森の奥にひっそりと一人で暮らす魔女・アリアが、雪深いある日に行き倒れた人の言葉を話す白い狼と出会うことから始まります。めちゃめちゃファンタジー。そして近世ヨーロッパの雰囲気…と思いきや、舞台はめちゃめちゃ現代です。

ロケーションは「アイルランド」とはっきり明記されていますし、ページを進めていくと「Instagram」が普通に登場する世界観。

物語の導入で描かれる、雪深い森の奥で電気もない昔ながらの暮らしをしているという風景から、いきなりリール付きの釣り竿を使いこなす少年が登場するというギャップをどうしても感じてしまうわけですが、そもそもアリアは、外界の人間の侵入を防ぐ結界の中で、誰とも交流がないままに暮らしているという設定。

唯一繋がりのある猫の妖精からは、外界の恐ろしさを度々聞かされており、外への興味も一切持たずにここまで育ってきたというわけ。それが、とあるきっかけで結界が解けてしまい、人の言葉を話す白い狼と出会い、さらには不意に人間の少年少女と出会ってしまうことで、彼女の世界は徐々に広がっていきます。

寂しさを抱えるアリアが他者と心を通わせる物語

主人公のアリアは、実年齢こそよくわからないものの、印象としては10代前半の女の子といった感じ。格好こそ魔女ではあるものの、魔法は全然できない半人前以下。一方、彼女が作る薬やハーブは非常に評判が良く、それが彼女の生計を支えています。一人暮らしが長いのかと思いきや、つい最近、一緒に暮らしていた祖母(もちろん魔女)を亡くしたばかり。

そんな中、人の言葉を話す狼・グウィンとの出会いは、彼女が抱えていた寂しさを和らげる一助になります。素性は全くわからないものの、優しく誠実なグウィンに対して(狼っていうよりはサモエドっぽい)、心から懐き可愛がるアリア。この様子が、まあとにかく可愛らしい。

無邪気なアリアと、誠実で包容力あふれるグウィンとの掛け合いだけでも癒やし効果があるわけですが、物語は更に様々なキャラクターたちを交えて進んでいくことになります。

中でも今後の物語に大きな影響を与えそうなのが、普通の人間の少年少女・コリーコリーン。本来であれば存在を知られてしまうのはヤバいのですが、どうにかできる魔法を使えるわけでもなく、仲良くなって懐柔しようという作戦に変更。

警戒感バリバリの兄に対して、警戒感ゼロでアリアに懐きまくるコリーンに、逆にアリアが手懐けられてしまうという展開にまたニヤつきが止まりませんでした。グウィンしかり、コリーとコリーンしかり、登場人物たちが軒並みいい人なんですよ。

1巻ラストでは何やらきな臭い雰囲気も漂いつつあったり、グウィンにも何やら秘密があるようなのですが、まあそんな暗い方向には進まないでしょう。アリアの家を舞台にしても良し、結界の外側に飛び出して、現代世界にアリアが飛び込んでいっても良し、色々な広げ方が想像できる点も、期待感を高めてくれます。

キャラクターや登場するアイコン、優しさに包まれた雰囲気等、とにかく癒やし効果の高い一作、おすすめです。一貫して描かれる、優しい世界に癒やされっぱなしでした。

この記事を書いた人

いづき

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