2021.05.21
嘘を見抜く不思議な力を持つ少女と、「王女の替え玉」の男が繰り広げる王宮ファンタジー『嘘よみと偽飾の王女』小田原みづえ【おすすめ漫画】
『嘘よみと偽飾の王女』
小田原みづえ先生の新作『嘘よみと偽飾の王女』の第1巻が発売されました。面白かったです(無防備な感想)。
龍宮王国の王に一族を滅ぼされた少女・オトは、復讐のため王女殺害を企てる。だが、嘘を見抜く不思議な力を持つオトが仕留めようとした相手は”王女の替え玉(性別:男)”で……!?
性別を偽る王女
龍宮(りゅうきゅう)王国というワードからもうかがえる通り、舞台のモチーフは琉球王国。物語は、そんな龍宮王国で迫害を受けている一族の娘・オトが主人公。
あらすじ紹介の通り、一族を滅ぼされた復讐のため、王宮へと潜入し、王女の首をまさに掻っ切ろうとするも、躊躇してしまい失敗。捕まってしまいます。しかも殺そうとした相手は王女ではなく、替え玉の男と、散々。普通であればすぐに処刑となるのですが、オトの出自を知った王女の替え玉は、なぜか彼女を逃がそうと手を貸してくれるのでした。
オトの一族は巫女の家系で、予知や降霊といった不思議な力を持っているのですが、オトは「嘘を見抜く」という能力を持っています。城の外へと逃げているさなか、とある出来事をきっかけに、替え玉だと思っていた男が、実は替え玉ではなく「本物の王女」であると知ってしまい、物語は急転直下。重大な秘密を知った者を外に出す事は出来ないと、解放から一転、その王女・アスの元で仕えることになるのでした。
擦れていない王女(男)
アスの性別は正真正銘の男、けれども王宮では「王女」として生きているという、なかなかワケアリな存在。日頃より性別を偽って生きていることもあり、なかなか肝が据わっており、普段から庶民に化けて周囲の様子を探ったり、暗殺の危機に普段からさらされているので牢屋の中で寝てみたりと、性格は割と自由奔放。置かれている環境からしたら、歪んだ性格をしていてもいいのですが、そういったところは一切なく、無邪気さと真っ直ぐさが魅力的なキャラクターです。
一方のオトは、殺そうとした相手の元に置かれるわけですから、当然いい気持ちではなく、アスに対してもやたらと反抗的な態度を取り続けます。しかしながら心根は優しい子なので、彼がピンチに陥ればついつい助けてしまうし、好意を隠さないアスにじわりじわりと懐柔されていくなど、だんだんと態度が軟化。本心が読めるという力を持っている分、嘘をつかない真っ直ぐな性格のアスとの相性も良いのでしょう。
分かりやすさと深みを両取り
王に仕えつつ、守り守られながら恋をはぐくむという関係性は、直近の作品でも和泉かねよし先生の『コールドゲーム』や、藤間麗先生の『王の獣』など、ぱっと出てくるぐらいには定番の設定なのですが、そこは小田原先生の上手さですよね、先の2作とはもちろん違いを出しつつ、負けず劣らずの面白さです。
序盤を見ると、結構な急展開の連続なのですが、1回読めばスッと設定を理解できる分かりやすさがあると共に、なぜアスが性別を偽らなければならなかったのか、そしてそれを取り巻く闇など、物語としての深みもしっかり醸し出しており、読みごたえも十分。小田原みづえ先生の作品は読むたびに、その分かりやすさと面白さに惚れ惚れしてしまうのですが、本作もまさに。文句なしにオススメできる、期待の新作、是非ともチェックを。
©小田原みづえ/秋田書店