2021.05.29
隕石が衝突し、家族6人の肉体が融合して一匹の筋肉質なクリーチャーに変貌した!? 先の読めないパニックバトル!『カクカゾク』カトウタカヒロ【おすすめ漫画】
『カクカゾク』
ハリウッド大作映画、家族の絆とりもどしすぎ問題というものがある。いや、いま勝手に言ってるだけですが。
まず、主人公が夫婦なり親子なりの関係にギクシャクした不仲を抱える姿で幕が上がる。そこへ自然災害・宇宙人・モンスター・ゾンビ・テロリストなど何らかの脅威が迫る。家族を守るため立ち向かう主人公。いいところを見せ、ともに危機を脱した勢いで家族の絆がよみがえる。ハッピーエンド。
みなさんもどこかで一度以上はごらんになったことがおありだろう、超定番のプロットだ。
さて、そんな“家族が失った絆の再生”という題材をものすごい方向へねじまげて、パニックホラーのゴールではなく出発点にもってきた鮮烈な作品がある。
小学館の漫画アプリ「サンデーうぇぶり」で2020年4月から21年3月まで配信、単行本全4巻をもって完結を迎えた『カクカゾク』だ。
主人公の縁(えにし)は、居心地の悪い家庭に悩んで夜な夜なバイクを乗り回す不良高校生男子。
血のつながりがない父親はリストラで無職となり酒に溺れ、母は認知症を患った祖父の介護に追われて疲労困憊。姉妹の一人は援交で身を危うくし、もう一人は自分だけ両親の実子なのを気にして引きこもり。
誰もが苦しみ、お互いを思いやる余裕もない。けれど楽しかった過去の思い出は引きずっている。家庭崩壊のフルコース状態だ。
ある晩、ついに限界を迎えた母は父に離婚届けをつきつける。できればもう一度家族をひとつにしてほしいと天に向けた縁の願いが虚しく破れる──と思われた、その瞬間。
街じゅうにふりそそいだ隕石群の一部が家に落下! ふと目覚めると、家族6人の肉体がひとつに融合して一匹の筋肉質なクリーチャーに変貌していた!
しかも他にも隕石を受けて怪物化した“合体家族”が大量に存在し、栄養補給のためお互いをエサとする生存闘争を強いられることに! 全員で気持ちをシンクロさせないと動かない合体ボディで縁たちは過酷な戦いを生き延びられるのか!?
……というわけで、もしも精神的にバラバラになった家族が物理的にまとまったらどうなる!? そんな奇想がなんとも濃ゆい恐怖と可笑しみを同時にもたらす内容となっている。
たとえばスポーツ物では登場人物個人個人のほかにチーム全体がひとつのキャラクター性をもつかたまりとして描かれるが、本作における家族という単位も同様にとらえると分かりやすいだろう。ひとつの家族単位で異なる事情や考え方、家庭内ヒエラルキーの形を備え、それをぶつけあう家族VS家族のバトルはちょうどチーム対抗試合の趣を醸し出している。この場合は試合というか死合なんだけども。
よく「チーム一丸となって戦う」とは言うが、肉団子レベルで一丸となった合体家族が人体や建物を無造作にぶっ壊していく絵面のすさまじさは圧巻。別の例えをするなら、複数人のパイロットで合体ロボットを操縦して大あばれするシチュエーションを、メカではなく生物の肉体を使って描いたような迫力といえようか。
そんなふうにあらゆる点でエッジのきいた本作をいったいどんな漫画家さんが描いてるかと思えば、ヒトの顔がついた動物たちが人類を脅かす漫画『ジンメン』の作者・カトウタカヒロ先生。なるほど……と納得するほかない。
©カトウタカヒロ/小学館サービス