2021.06.23

百合の波動を勝手に受信する能力を手に入れてしまった!?3人組女子のシチュエーション・百合コメディ!『百合に挟まれて、エスパー!』鬼龍駿河【おすすめ漫画】

『百合に挟まれて、エスパー!』

百合の波動を勝手に受信する能力を手に入れてしまうという、ニヤニヤしていられない拷問

百合の間に入ってはいけない。これは百合オタクたちの鉄則……どんなにそれが美しくニヤニヤさせられるものであっても。とはいえ最初から挟まれている状態で、かつ自分だけがその百合を知っているとしたら、ニヤニヤなんてしていられない。むしろ挟まれたくない、困る、緊急事態すぎる。遠くから眺める壁になりたいのに!

『百合に挟まれて、エスパー!』は3人組女子のシチュエーション・百合コメディ。主人公である(ぎん)が、なぜかよりによって百合の波動を勝手に受信する能力(とスプーン曲げ)を手に入れてしまった。それ以外の人間の思考は読み取れないのに、百合の思考だけは勝手に聴こえてきてしまう。

これが非常に厄介。銀の親友である彩里(さいり)と惠夢(めぐむ)はお互い両片思い、でも一言もそれを言えずにいる。ふたりのお互いの「好き」が銀にだけ聞こえ続けるのに、ふたりはそれを心に秘めっぱなし。ああっ、むずがゆい!

ふたりが付き合えばいいのでは! と思うも、「今の3人の関係も好きだから壊したくないんだよ」「銀を…裏切りたくない」とふたりの思考は銀のためを思って秘めたものに。まさか自分がふたりの恋愛の障壁になっているなんて、知りたくなかった。

かくして、ふたりをくっつけたい銀と、恥じらいや責任感で告白できないふたりの、大いにこじれた恋愛模様が繰り広げられる。

彩里と惠夢のすれ違いが楽しいラブコメディ。百合マンガの場合こういうすれ違いシーンではだいたいが当事者のモノローグで語られるもの。そのモノローグが全部第三者である銀に聞こえてしまっている

漫画において俯瞰した位置で全員の気持ちが分かる存在は「読者」だ。銀はマンガの作中で読者の神の視点を手に入れてしまったものだから、読者としてはその歯がゆさはものすごく共感しやすい。仲良し三人組ではあるけれども、ふたりきりにしてあげたい、と感じるシーンは、きっと読者も同じ気持ちになっていると思う。

加えて「百合の波動しか聴こえない」というギミックがうまく作用している。この作品には他にも何組か百合の組み合わせが存在する。そのひとつが瑞穂ひより。ふたりは学内でも常にイチャイチャしている周囲公認のラブラブカップル。

ところが銀には瑞穂の百合の声しか届かず、ひよりからは何も聴こえない。口では「好き」と言っているのに、これはどうしたことなのか?こういう部分で、人間関係における女子同志の微細な感覚が描かれる。

基本的にハッピーエンドにするために銀が自身のチート能力を駆使して超奔走するため、物語の展開は危なっかしいながらもほんわか。百合好きは安心して読んでほしい。

彩里と惠夢、ふたりの恋愛は、ためらいと不安感で常にゆらいでいる。そんな状態を聞かされ続ける銀。

「友達の両片想いのキュンキュンを強制的に聞かされる!なんの拷問だい?」

1巻完結で全員の百合が見事にすっきりまとまっている作品。ちょっとメタ視点の入った、かなり珍しい切り口の百合作品だが、逆に百合を楽しむ視点が銀のおかげでわかりやすいので、百合の入門書としてもおすすめ。

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たまごまご

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